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リリィ

 

「(旦那様)」


 リリィの声がした。脳裏にはリリィの笑顔


(なに…を……してるんだ……オレ……は)


 オレは諦めた自分が許せなかった


 オレは諦める事が許されないはずなのに


 なぜ諦めた


 オレが勝手に消滅するのは仕方がない


 自分の心に嘘をつき誤魔化し


 仕方がなかったと


 オレは頑張ったと


 諦めて消滅するのは


 だけどあいつはどうなる


 勝手に諦めたオレのせいで消滅するあいつは


 自分が消滅するこに納得するのか


 いや


 たぶんあいつは納得する


 笑顔で受け入れる


 オレが消滅する事で自分が消滅する事に


 だけどあいつを消滅させたオレは


 自分を許せるのか


 仕方がなかったと説得出来るのか


 いや


 たぶん出来ないだろう


 きっと後悔する


 きっと許せないだろう


 だったら諦めるなよ


 どんなに不様でも


 血反吐を吐いててでも


 諦めちゃ駄目だろ


 そして


 もしどうしようもなくなって


 消滅するしかなくなったら


 せめてあいつのそばで


 あいつと一緒に


 消滅してやれよ!


 それがせめての償いだろ!!


 あいつを1人にするんじゃねぇぇ!!!






「そん…な……ことは……わかってるわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 絶叫と共に起き上がり口から血を吐き出した


「タ、タケル様…」


「大…丈夫だ、口を切っただけだ」


 正直、起きあがるだけでやっとだった。そんなオレをキョウは心配そうな顔で見てきた。自分もケガをしているのだが、自分の事よりオレの心配をしてきたのだ


 そんなキョウを見て、そのあと改めてドラゴンの方を見るともう限界のジンの姿があった


(まだなにかあるはずだ…)


 オレはとにかく考えた。現状を打破する方法を…しかし思い付いたのは料理スキルを使う方法のみ。そして発動しなかった事だけだった


(そもそもなぜ発動しなかった?)

(ドラゴンは食材。なら発動してもおかしくない)

(しかし切れなかった弾かれた)

(んっ?()()()()()()()()?)

(それにあの感覚…)


 そして思い出した。ここに来て始めて料理をした際、《不要部位切断》で食べれるところを切ろうとした事を


 そして


(つまりスキルは発動していた?)

(そして適用外の事をしたから弾かれた)

(いや、何が間違っていたんだ?)


 思案したが結局わからないでいた。するとついに耐えきれなくなってジンがドラゴンの一撃で吹き飛ばされるのが見えた。吹き飛ばされ転がり倒れるジン。しかしすぐに立ち上がろうとしていた


 そんな姿見て


(まさか!?)


 気づいたらジンのもとへ走っていた。確信はない。しかし試す価値はあると…体の痛みなど今は気にしてる場合ではなかった。そしてジンのもとまで駆け寄ると


「ジン、それを貸してくれないか?」


 オレの言葉に悩むジン、そして


「すまないがこれは我ら一族の至宝。そう易々と貸すはけには……」


「ジンさん!?お願いします!?」


 いつの間にか駆け寄っていたキョウが真剣な表情でジンを見つめていた。そんなキョウの姿を見たジンは納得してはいなかったがそれを差し出した。そしてオレはそれを握りしめるが離さないジン


「約束しろ。必ず倒すと……」


「すまない、保証は出来ない。だけどオレは死ぬわけにはいかない、どんな手段を使っても帰らないといけないところがあるからな」


「それだけ聞ければ十分だ」


 気の抜けたように笑い、そして手を離すジン


 オレは受け取ったそれを改めて握り直したらそれは始めて持ったのに関わらずいやにしっくりきた


 あたかも使いなれたように……


 だからこそ確信した


(これなら………いける!?)


 ドラゴンをにらむように見直すとリュンとヤンが必死でドラゴンの攻撃を回避し続けていた


 なのでオレは一気に駆け出した


 すると今までとは比べ物にならない速度で接近した。その速度はおよそオレが出せる速度ではなかったのだが驚くどころかむしろ出せて当然と思ってしまった


 そしてそのまま再びドラゴンの側面から飛びかかる


 狙いは一点


 翼の付け根


 先ほど弾かれた切断ポイント


 そして構えたそれを振り下ろし



 平坦な口調で





「不要部位切断」





 スキルを発動させた








 スパーン





「グヲォォォォ!!!!」


 ドラゴンの叫びと共に落ちる翼。そして着地と共に一旦距離をとり構え直した



 刀を……



 刀と包丁は違うものだ


 しかし日本刀包丁と呼ばれる日本刀と全く同じ材質と作り方で作られる包丁が存在する


 またマグロ包丁のように見ため刀のようなものもある。他にもクジラ包丁と呼ばれる大太刀の物も存在する


 しかし素人には区別がつかない


 ならばこの刀がドラゴンを捌くのに1番適した形だと定義付ける事が出来ればこれは包丁になるのではないか?


 無茶苦茶な理屈だがここは異世界


 ないことはない話で一種の賭けではあったがどうやらこの刀は包丁だと定義付ける事ができたようだ


 ならば話は簡単である。今オレがやったことは


 オレ(料理人)が刀(包丁)でドラゴン(食材)を切ったと定義付けできて、今していることは料理である


 だから料理スキルは発動したのだ


「ナンダ貴様ハ」


「オレか?オレはただの料理が上手な主夫だよ」


 再び接近するとドラゴンの指先を切り落とし胴に切りつけ再び離れた。その間ドラゴンが攻撃してきたが全く当たる気がしなかった


 一連の動きだがまず《高速料理》で自身の速度を上げさらに《不快軽減》でドラゴンの動きを遅くして、《不要部位切断》で指を切り落とし《切れ味向上》で胴を切ったのだ


 《不快軽減》は本来、うなぎのぬめりなど料理をするのに邪魔なものを軽減するのだが、どうやらドラゴンの動きがそれにあたり動きを遅くしたようだ


 そしてもちろん胴は食べられるところなのでちゃんと《不要部位切断》のスキルを使わず《切れ味向上》を使用して切ったのだ


「さてさて、どう料理してやろか」


 オレにとっては比喩ではなく今まさしくやっていることは戦闘ではなく料理だったのだ


 その後もスキルの切り替えをしてドラゴンに切りつけた。はっきり言って別人の動きでオレは一方的に料理(こうげき)した


 キョウ達はあまりのオレの変わりように驚き、そしてただ呆然としていて本来なら助けに入るべきなのだがその考えが思いつかないほどオレの一方的だったのだから


 しかしオレの攻撃はすべてが致命的なものではなかった


 しかし、それでよかったのである


 今はとにかくドラゴンの動きを鈍くする必要があるし、切り札もきちんとあるのだ


 何度も切りつけかなり動きが鈍くなったドラゴン。そしてとうとう膝をつき、そのまま腕までついたのだ


「我ガコレホド追イ詰メラレルトハ…」


 もうほとんど動けなくなったであろうドラゴン。そしてトドメを指すため距離をとり、1度深く呼吸をするとドラゴンの胸に向かって突っ込んだ


「サセヌハ!!」


 しかし、ドラゴンはオレの動きに本能的に危機を感じたのか炎を吐いて防ごうとしたのだ。それも威力は落ちるであろ拡散的なのを吐いてオレを近づけないようにしたのだ


「しまっ!?」


 オレはドラゴンのその対抗を予測していなく回避不可能なところにいたのだった。いや、おそらく油断したのだろう。オレは走馬灯のなか自分の甘さに後悔した


 だが


「タケルどの!!」


 とっさにいつの間にか立ち上がり身を呈してして守ってくれたブドウ


 彼の持つ大盾によって炎は防がれるのだった。ブドウはオレが突っ込む前にドラゴンが炎を吐くのを動きから予測したのだろう


 そして炎が止むとブドウの横を抜けて改めてドラゴンに突っ込んだ



 狙うはただ一点



 狙いを定め




「謝殺一突」





 ドラゴンの胸に刀を突き刺した


 動きを止めたままのドラゴン。唸りも上げずただ動きを止めたのだ。そしてオレは刀を引き抜き離れた


 するとドラゴンはゆっくり倒れた。その表情はとても穏やかでまるで寝ているようだった。ジンたちはなおも警戒していたので宣言した


「もう、こいつは死んでるよ」


 すると歓喜の声を上げ喜ぶジン達


 キョウは駆け寄ってきたと思ったらそのまま抱きついてくるとオレの名前を呼びながら泣きじゃくっていた。そんなキョウを優しく抱きしめてやり、もう大丈夫だと言ってあげた


 こうしてドラゴン討伐は終わった


 スキル《謝殺一突》

 食材に感謝して苦しまないよう一撃で安楽死させる、まさに一撃必殺の技である。しかし急所をはずすとあまりの激痛と、一瞬見えた死に怯え捨て身で反撃してくようになる諸刃の技であった


 しかしオレはそれをはずすなど微塵も思わなかった


 おそらく戦闘中だと思ったら無理だったが、今は料理中だと思っていたのではずす気すら起きなかったのである



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