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カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
1章 はじまり
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大蛇


カエルは跳ぶ。特に当てがあるわけではない。

道中で襲って来る子供のような生物や猪で水球の練習をしながら、進んでいく。


移動し始めて2時間ほど経っただろうか?

小高い丘の上から見下ろすと、眼下に広がる湿地帯を発見した。


巨大な紙魚のような生物や、動く泥の塊、大きな「ウーパールーパー」と呼ばれていた生物に似た生物が見えた。


あの紙魚を食べたい。


泥の塊は襲って来るのだろうか?

そもそも泥はカエルを食べるのか?

分からないが警戒すべきだろう。


ウーパールーパーは大人しそうな顔をしている。見た目もカエルに少し似ているから、大丈夫に違いない。


小高い丘の上から紙魚に向かって跳躍する。瞬く間に紙魚に接近すると、舌で搦めとる。


私達カエルの唾液は、粘性のものとそうで無いものを意図的に分ける事が出来る。獲物を捕る際には粘着性の物へと変わるらしい。


無意識下で行なっていたので、分からなかったが、思考しながら行ってみると実感出来る。


紙魚をいただく。ハエと違い、身に臭みが無い。淡白な味ではあるが、食べ易いと感じた。ハエより私好みだ。


段々と舌が肥えてきたようで、贅沢を覚えているな、と我ながら思う。


紙魚は大きかった。10m程度は有ったろうか?しかし、不思議と私のお腹は張る事もなく、すんなり呑み込んだ。


どれくらいの大きさまで飲み込めるのだろうか?いつか、私の身体の10倍くらいの美味いコオロギなんかも食べたり出来るだろうか?


なんせ世界は広いのだ。そういう生物もいるだろう。


紙魚を味わっていると、泥の塊が近づいて来た。水球をいつでも放てるように構えておく。


だが、泥の塊はゆっくりと私の横を通り過ぎるだけで、私に攻撃はしてこなかった。


泥の塊が攻撃してこないなら、このあたりに危険はないだろう。


安心していると、ウーパールーパーと目が合った。やあ同類。


ウーパールーパーが笑うように口を開けながら、足をシャカシャカ動かして近づいて来る。意外と素早い。


助走をつけて跳び上がったと思いきや、ウーパールーパーが私の足にかぶりついた!


(痛っー!)


...初めてこの命で痛みを感じてしまった。大した痛みじゃないが、足に小さい歯型がついた。同類だからと完全に油断してしまった。


ウーパールーパーの方を見ると、口を開けて、マゴマゴしている。どうやら私の足をかじって、逆に牙がボロボロになってしまったようだ。


...随分脆い歯だな。


お返しに水球をお見舞いする。

渦巻く球体が、マゴついているウーパールーパーに連続して当たり、4発目で吹き飛んだ先でピクリとも動かなくなる。


ウーパールーパーは危険だ。奴の牙が鋭ければ、今頃私は前足を失っていただろう。


平和な人間の村近辺で緩んでしまっていた自分の気を引き締め直す。この世は弱肉強食である。


湿地帯を探索していると、この辺りには毒のある植物が多い事に気づく。先ほどのウーパールーパーも牙に微量の毒を感じた。


ただ、カエルにとって毒は身近な物だ。どんな種類のカエルでも、体に微量の毒を持っている。


強い毒を持つモウドクフキヤガエルにもなると、微量で巨大な象を殺せるとも言われている。


あとは毒と言えば、天敵である蛇か。沼地や池のほとりでよく丸呑みされたものだ。


...ズルズル...


そうそう。そういう音をたてながら、近付いて来るのだ。

....!?


音の方向を見る。悍ましい模様をした大蛇がいた。自分の20倍はあろう大きさの巨大な蛇が、我が物顔で湿地帯を蠢いている。その姿は私の思考を停止させるに十分だった。


なんの因果だろうか、固まった私の視線が「奴」の視線と交わった。


よし、逃げよう。本能が告げる。

そう考えるのとほぼ同時。地を這いずる音が急速に近づいて来る。


速い!あの巨体の何処にそんな速さがあるのか。だが、私には自慢の脚がある。追い付けはしないだろう。


(..んッ!?)


なんだ!?動けない!


大蛇から視線が外せない!

「蛇に睨まれたカエル」なんて言葉があったが、冗談じゃないぞ!


集中して原因を探す。


奴は舌なめずりしながらゆっくりと近づいて来る。もう勝った気か。


冷静に考えろ。...「眼」か?

大蛇の眼をよく見る。


水球を作る時に出る靄が、奴の眼の周辺に薄っすら浮かんでいる。


私が水球を作るように、奴の眼も何らかの力を使っているのではないか?


なんとか奴から視線を離せれば、この窮地から脱すことが出来るはず。


動けない自分の身体に集中する。

靄が身体から登ってきた。よし、水球を作る事は出来そうだ。


...チャンスは一度だ。


大蛇が目前に迫る。

近くに来ると、とんでもない迫力だ。以前もお前たち蛇には散々丸呑みされた。抵抗出来る事も無く。


...だが今は違うということ教えてやる!


「キシャーッ!!」


蛇が身体をくねらせたかと思うと、覆いかぶさるようにアギトが迫って来る。


集めていた靄を水球に変化させ、

襲いかかる蛇の目玉に向けて放つ!


動く的を射るのは難しい。

だが私には優秀な眼がある。お前も良い眼を持っているが、私の方が優秀だ!


ビシャッ!!


大蛇の眼で水球が炸裂する。


驚いた大蛇は一瞬痛みに身をよじる。大蛇の目玉が充血し、赤く染まるが、未だ片方の目玉は健在。


だが、視線は外したぞ!!


その一瞬を私は見逃さない。

身体の自由が戻った事を確認すると、敢えて大蛇の体に向かって飛び込む。


大蛇の体にベチャッとへばり付くと、その体を足場にして、先程居た方向に戻るように跳ぶ。


我々カエルは方向転換が苦手だ。ワッセワッセと頑張って回るより、今の自分は、こうした方が早い事を私は知っている 。


目線さえ合わせなければこっちのものだ。


一目散に逃げ出した。 振り返りもしない。逃げていく最中ふと視界に映る物があった。小さいが木で出来た家。こんな湿地帯に...?


今はそれどころではない。

まっすぐ走り抜けて、湿地帯から脱することだけを考えよう。



「あのカエル...この辺りの「ヌシ」から逃げおおせおった。ただのカエルではないと思っていたが..」


その魔道士は家の中から戦況を見て呟いた。


「今度来ることがあるなら、「実験体」として付き合って貰うこととしよう」


魔道士はニタリと口を歪めた。


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