閑話 サニャとカエルさん
「カエルさーん♪お父さーん♪
太陽さーん♪さんさーん♪」
歌いながら女の子が村を歩く。
木の棒を振り回しながらリズムを取っている。
歌は彼女の自作だ。
村には彼女の同年代の女の子が少ない。
同い年の男の子が1人。一つ上と一つ下に男の子が1人ずつ。そのせいか、この女児は些かわんぱくに育っていた。
今日も井戸の周りで、お母さんと、近所に住んでいる仲良しのレシアおばさんが話し込んでいる。
待たされている娘のサニャとしては退屈で仕方がない。飛んでいる虫を追いかけたり、石ころを蹴飛ばして退屈を凌いだ。
「ちょっとレシア。聞いてくれる?」
「どうしたの?ターニャ。沈んだ顔しちゃって。」
「うちの旦那から手紙が届いたんだけど、街で他の女に贈り物をしたって書いてるの。信じられる?」
「うそでしょ?無神経ね。今度会ったら、料理包丁で首を切り落としちゃえば良いのよ!アンタと子供を置いて、叶いもしない夢追いかけてさ」
「ふふふ。そうね!...あら。こんな時間。家に帰ってサニャにご飯作らなきゃ。」
「あら。うちのチビと旦那に怒られるわ。私も急いで帰らなきゃ。じゃーねターニャ!」
「じゃーね。サニャ!行くわよ!」
声をかけられたサニャが母親達を見ると、遠くに「何か」が見えた。
サニャには自慢が2つある。
一つは夢を追いかけて、冒険しているお父さん。手紙で、いつも大冒険の話を書いてくれる。カッコいいお父さん。
もう一つは目だ。
遠くのホーンラビットの足の指の数も数えられる
その目が何かを捉えた。
「虹色の...カエルさん?」
ピクリとカエルさんが動いた。
目がキラキラ光ってる。
生きてるカエルさんだ。おっきい。
「サニャ!行くわよ!」
お母さんに呼ばれる。
「お母さん先に帰ってて!サニャ約束思い出したの!ピンチョと少し遊んでくるー!」
「ちょっとサニャ!ご飯は!?」
お母さんに呼ばれたけど、私は止まらなかった。ウソついてごめんなさいお母さん。
お父さんの手紙には、いつもカエルさんの話が出て来る。虹色のカエルさん。お父さんは、そのカエルさんを探してるって言ってた。
そのカエルさんが見つかると、みんなで幸せに暮らせるって書いてあった。
「お母さんにはナイショだぞ!」
って必ずお父さんは最後に書いてた。
サニャ約束は守るの。
途中でピンチョのお父さんに声を掛けられて、嬉しくてつい、カエルさんの事言っちゃったけど、カエルさんは、お父さんとサニャの秘密だから、きっと誰も分からないよね。
村の外に向かって走る。
村の外に出て良いのは、大人と一緒の時か、15の誕生日を迎えた時って言われてる。サニャは8歳。1人じゃ出られない。
村の入り口には、おっきな入り口があって、そこには「もんばん」のおじさん達がいる。
怖い魔物さんが、中に入らないようにするのと、子供が一人で外に出ないように見ているって聞いた。
1人じゃ出られない。
だから、秘密の抜け道を使うの。
ピンチョと私の秘密の場所。
村の外れにある柵は、隙間が少し大きい。その間を身体を横にして、ギューって無理矢理通るの。
最近は、身体がおっきくなったせいか通り辛くなっちゃったけど、虫を捕る時に、今でもピンチョと外にコッソリ出てるのだ。
いつも通りに柵から出る。
(ちょっと怖い)
ピンチョが居ないからかな?
外には怖い猪さんと、ゴブリンさんが居るらしい。捕まるとスープにして骨まで食べられちゃうんだって。
そう思うと、ブルブルって体が勝手に震えた。
怖くない怖くない。サニャは強い子。お父さんとお母さんと幸せに暮らすんだ。
カエルさんが居れば、お父さんは帰って来てくれる。そう思うと頑張れる。
また体がブルブルっと震えた。
やっぱりちょっと怖い。
「...オシッコしてから行こっと!」
怖さを振り切るように敢えて声に出して言う。用を足した後、準備万端とばかりに鼻息荒く、カエルが去った方向にサニャは走り出したのだった。