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カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
1章 はじまり
5/68

カエル発見される


とある村。井戸端で女性2人が会話している。些細な内容だった。やれ旦那がどうとか、息子がどうしたとか。今年の作物の出来だとか。


それを遠くから聞き耳を立てている者が居た。

岩陰に潜み、会話を身振り手振りから察そうとしている。カエルである。



(あれは何を話しているんだ?顔に手を当てたと思ったら、手のひらで空を切り裂くような動作...。「旦那」という単語だけが分かった)


(....ハッ!?あの雌はつがいの男の首を、今夜切り落としてやると言っているのだろうか!?)


...笑顔で語り合っているところを見ると

そうではないような気もする。


うーむ。振動で音が分かったり、目が良い事で身振り手振りは分かるが、まだ2日目ではサッパリ理解出来ないな。


この村に通い始めて、この肉体の素晴らしさを改めて実感する。音は振動を感知する能力に優れている為、その応用で聞き取る。


特筆すべきは「眼」だ。


遠くまで見渡せ、濁った水の中でも生物の気配を感じるのだ。カエルには「瞬膜」という組織がある。水中や、獲物を捕る瞬間には、閉じてカエルの目を保護する役割を持っている。


しかも、このカエルの素早さに合わせる為か

素早い動作であろうと、一挙手一投足がユックリしっかりと視える。


水球を放つ前の纏う靄のような物も見えた。


このカエルの体で1番の特徴は、眼なのかも知れない。


また、毒物への耐性もあるようだ。

黄色いカエルの放った毒も、私には疼痛どころか痒みも無かった。馬を殺せる毒にも関わらず。


この近辺で飛んでいる蛾も、微弱な毒を持っているようだが、食べても全く問題がない。


もっとも、何が1番変わったかというと、思考力だが。今までは腹が減るから虫を食べ、跳びたいから跳んだ。今は違う。意思や目的がある。


そしてその今の「目的」が人間の言葉を覚える。という事だ。


以前、カエル愛を持った男に、ひたすら話しかけられた言葉や内容を、この肉体に生まれ変わることで理解した。


だが、どうやらこの辺りの土地では

今までと使っている言語が違うらしい。


カエル愛の男の居た土地が「ニホン」で

その後生まれ変わり、私に爆薬をしかけ、殺害した悪魔(子供)が居た土地が「ウェールズ」という土地だった。


その2人が、それぞれ使っていた言語が違うように、この近辺でもそうであるらしい。


私の中の言語の世界は、カエル愛の男の影響が大きい。悪魔だとか天使だとか、特にアニメーションという絵物語の話が多い。


「Tシャツの中にカエルは溶け込む事が出来る」

などと言った()()()()()。時を渡り、世界を救うカエルの剣士が居る。などの英雄譚。全てカエル愛の男から得たものだ。...多分に偏っている。と我ながら思う。


それらが私の中で人間への郷愁を深めているのかは分からないが、ともかく私は人間の言葉を覚えるのだ。


2メートル近い巨体を岩陰に隠しながら、会話を聞き続ける。しかし、この村はのどかだ。人々の声色で分かる。この村なら、私を受け入れてくれるだろうか...?


会話が出来れば、それも可能かも知れない。


夕刻になり、人の行き交いもまばらになってきた頃になると私は住処に戻る。


帰り際に何匹かのハエのような生物と

蛾のような生物を食べつつ空腹を満たしながら。


住処は村から5分ほどの林の近くに作った。

私の足で5分だ。早々見つかる事は無いだろう。


ここでは新しく巨大な芋虫に出逢えた。

何とも言えない柔らかな食感をした良い食材だ。


水球の攻撃の勢いで10mほどの斜め穴を掘り、そこで夜を明かす。丁度良い湿り具合で快適だ。


明日もまた村へ行こう。


明日は門の前に立っている棒を持った二人組の会話を聞くのだ。片方は足を引きずって歩いているから、怪我をしていたのかもしれないな。話が出来るようになれば、理由を聞き出してみよう....


そう一人ごちながら

微睡みの中へと包まれていく...。




村の近くに居を構えて、ひと月が経った。


私は相変わらず村に通い続けている。

変化はあった。なんと会話の6割程度は理解出来るようになったのだ。


我ながら脅威的な速度であると思う。




今日も井戸端で人間の雌2人が、話し込んでいる。人間達の会話は「()()」こんな感じだ。


「レシア聞いてください話を少しの私の」


「ちょ。どったのターニャ?顔がもうチョベリバなんだけどー」


「旦那が他所の雌に色目使っていたのです大いなる。問い詰めると、贈り物を送りつけた配達屋にあります」


「まじでー?でじまー?もうそんな旦那の首切り落としちゃいなよ!」


「でも、私はまだ子供を背負い投げます。」


「だよねー!つらいわーマジつらみ!」


「もうじきお昼ご飯の時間です。食べようと思います一家。」


「りょー。じゃーねー!」



こんな具合である。まだ知らぬ単語があるせいもあるが、大体合っていると思う。


訳した言語は、テレビという鉄の箱で見た。あれは公共物であるらしいから、間違った言葉は流さないであろう。タイトルは「イマドキ!現代語講座」だったか。


ナウなヤングに大人気である。


思考の海から戻ると、ふと違和感に気付いた。

井戸端で話していた女性達が去った後、雌の子供が居た。


目が合った。


...コチラを見ている?


そう思っていたが、この距離だ。

偶々何かを見ているのだろう。


数秒後には子供の雌は、どこかへ走って行った。


どうやら気のせいだったらしい。


今日は、言葉を学ぶのはここまでにして、周辺の土地を回ってみよう。


そう決めると、カエルは走り去っていった。




パタパタと村の中を女の子が走って行く。息を切らし、嬉しそうな顔で。


「サニャ!えらく嬉しそうじゃないか!どこ行くんだ?」


村の男が女の子に声をかける。


「おっきい!虹色のカエルさん!」


男はキョトンとした顔をしていた。

子供の言う事だからと聞き流したが、この後男は後悔する事になる。


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