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カエルの為にそれは在る  作者: オイペン19世
1章 はじまり
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新たな決意


七色の巨体が、風を切って跳んでいく。


草原を抜け、幾つもの森を抜けた。


森の中で何匹かの毒々しい色をした小さなミミズのような生物を食べ、それを食べてる最中に、巨大な猿のような生き物が頭上から降って襲って来たりもした。


横目で角と翼の生えた馬や、湖から顔を出した魚のような人間のような、奇妙な生物を横目に見ながらひた走る。


湖には、その奇妙な生物が大量に居たせいで、獲物にはありつけなかった。


生まれ変わってからこれまで、全ての生物に共通しているのは、どの生き物も強力な力を持ち、どの生き物も私を狙って来るということだ。人間でさえも。


この辺りの生き物達は

親をカエルにでも殺されたのだろうか?


これまでの999度の命で、こんなにも狙われる事は無かったように思う。世界は広い。


ふと、横目に水場が見えた。

小さな沼だ。上を洞窟のような岩場が囲っている。

あそこなら、眠る事が出来るんじゃないか?


恐る恐る近づいてみる。

すると、ニュッと小さくつぶらな瞳が顔を出した。


カエルだ。黄色い体表をしている。

以前、カエルを愛した男が飼育していた

モウドクフキヤガエルに似ている。


目と目が合う。


「ギィロギロ」


何か言っている。理解は出来ないが。


「ゲロゲロ。ケロッ」


一晩泊めてくれないかと頼んでみる。

頭の中で思考しながら鳴いてみただけだが。


「キロキロッ!」


モウドクフキヤガエル似のカエルが返事をしたと思うと、ピュッと紫色の液体が口から吹き出された。


顔についたので触れてみる。ベトついている。

なんだろうか?

親愛の証だろうか?


「ゲロゲーロ」


よろしくというように、人間の真似をして前足を差し出してみる。


黄色いカエルは何故か慌てたようにモゾモゾと体を動かしていたが、やがて認めてくれたのか、おずおずと沼の中に引っ込んで行った。


よし、今晩は此処に泊めてもらおう。


先程の紫色の液体を、近くの草で拭き取り、沼の浅い所で寝させてもらう事にした。


久し振りにゆっくりと寝られるだろうか。

黄色いカエルが、見張りをしてくれるように、遠目からこちらを見ている。


同族に見られながら休めるのはありがたい。

少し寝させてもらう事としよう。



その夜

ガサガサという音とドスンという地の振動で目を覚ます。なんだろう。


目を向けると、私が紫色の液体を拭った草を食んだのであろう、角と翼の生えた馬が、泡を吹き全身から血を流して倒れていた。


何が起こった...?

混乱している私を他所に、黄色いカエルが沼からのっそり出て来たと思うと、馬にピョンピョンと近づいていった。


何だろう?と疑問に思うと同時、黄色いカエルが大口を開け、馬の体に噛り付いた。


...食っている。その考えに到達するのに時間を要した。今までカエルとして生きてきて、馬を食う経験などした事がない。


とんでもない奴だ...。


ある程度馬を食って、満足したのか、チラリと黄色いカエルがコチラを向き、目が合った。


そのまま馬を咥えて、ズルズルとこちらに近づいて来たと思うと、私の目の前に馬を置き、ジッとこちらを見つめてきた。


....(食えと言うことだろうか?)...


いや私は結構ですという意思を込めて、「ケロッ」と鳴いてみる。


しばらく私を見つめていたカエルは、馬と私を見比べて、また沼の中に戻って行き、遠目から私を見るポジションへと戻った。


遠目から見ているものの、馬を食う恐るべきカエルだと思うと若干背筋が寒くなった。


同族は食わない主義なのだろうか?


...いや待てよ。そもそもあの紫色の液体は毒液で、私に向かって吐いたのは、私を殺そうとしたのではないか?


それを私は意にも介さなかった。


コイツには敵わないとでも思ったのか、黄色いカエルは、遠目から警戒してこちらを見ているのではないか?


...そう思うと、申し訳無くなってきた。


自分の住処にズケズケと入って来て、自慢の毒液は効かず、それどころか居座り、あまつさえ寝始めたのだ。不気味以外の何者でもない。


スマンな同胞よ。ゆっくり寝させて貰ったし

私は旅立つよ。


日は未だ登っていない。他の生物もまだ寝ている事を考えると、今動くのも悪くない。


黄色いカエルに向かい「ゲロゲロッ」と鳴き挨拶をする。「キロキロ」と若干小さな鳴き声で返事をしてくれた。


馬を食うのはほどほどにな。と心の中で思いながら、再び遠くに見える山に向かって跳び始める。




あのカエルが「イエロデビル」と呼ばれる、この森で最も脅威度の高い生き物である事を知ったのは、遥か後の事だ。



その後も、いくつかの森を抜け、切り立った崖を飛び越し、草原を駆けた。黄色いカエルのいた森から旅立って2日が過ぎた頃、私は小さな村を見つけた。


山まで半日程度の距離だろうか。


茂みの中から様子を伺う。

家屋が20軒前後。井戸が2つ。何匹かの家畜と、数匹の犬と猫。外で話している数人の人間の雌。家の外にカエルが 吊るされているような事は無いようだ。


周囲を見回ってみる。

小さな角の生えたウサギのような生物。

獰猛そうな猪のような生物。

卵の殻が下半身に付いた鳥のような生物。

深い緑色をした人間の子供のような生物。


試しに近寄ってみると、人間の子供のような生物と、猪のような生物だけが、こちらに襲いかかってきた。子供のような生物は、群れとなって初めて襲って来るようだ。


2匹の生物は、猪は2発、子供のような生物は1発の水球で倒れた。カエルとして生まれて初めて、大きな物を倒した事になる。倒したところで食えるわけでもないが。


しかし、重要なのはここからだ。


この周辺には、なんと大きな虫がいたのだ。

私の体の半分ほどの蛾らしき生物と、大きめのハエのような生物だ。


見つけた瞬間、私の脚力で近寄り、舌を伸ばした。粘性の唾液が口から迸り、獲物を捕らえる。


美味い。蛾のような生物は口の中でピリリとした刺激と、羽根のカサカサした食感が癖になりそうだ。


ハエのような生き物は、猪のフンに何匹か群がっていたところを捕らえた。こちらも、悪くない味をしている。


以前の人生でも好みはあった。

死骸は食べないとか、そういったものだが。

自分に明確な味覚がある事に驚いた。


人間が食事に拘る理由が分かる気がする。

これらの虫は大きさもあり、腹も膨れる。


決めた。私は、この近辺に住む事にした。人間の住処の近くだが、それも1つの「目標」を持って、敢えてそうする事にした。


「人間の言葉を覚える」


私は、そう決めた。


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