クローズ・スナイパー
--引き金を引く。コルクが発射される。勢いよく飛び出たコルクは、ターゲットである高級茶葉の箱の右を通り過ぎて、賞品の後ろに広がる屋台の布にHITする。ハズレだ。
八月のある日、俺と姉ちゃんは近所の神社でやっている夏祭りに来ていた。フランクフルトを食べたり、金魚すくいをしたりして楽しんでいたところで射的の屋台を見つけた。
そりゃ、俺は男の子だ。こういうのに対するあこがれは強い。だから、迷わず挑んだ。二百円で五発と、微妙な値段にも関わらず、俺は六百円分挑んだ。
今まで撃った合計十四発の中で、ターゲットの致命傷になったものはない。そして、次の弾が最後。汗が頬を伝うのが鬱陶しいほどわかる。
なるべく銃身をターゲットに近づけるが、手が震えるせいで照準が安定しない。
「ふぅ……」
心を落ち着かせるために、一旦身を引き、顔の汗を拭う。駄目だ……当たる気がしない……。
ターゲットを睨む。賞品棚の最上段の一番左、距離は一、二メートルといったところだろうか。近いはずの距離は、何百メートルとも感じる。
くっ……! ぶっちゃけこれ以上お金は使いたくないし……一体どうすれば……!
「ちょっと貸してみ」
突然、後ろで見ていた姉ちゃんに声をかけられた。
姉ちゃんは俺の答えを待たずに銃を取り上げると、懐から小さい筒状の何かを取り出した。
……っ! あれはっ! ペンライト! 姉ちゃんはあんなものでどうする気なんだ!?
右手の人差し指を引き金に当て、左手でペンライトごと銃身を掴み込む。なにやってんだよ、姉ちゃん! それじゃあうまく照準できないじゃないか!
終わった……。全てを諦め、目を強くつぶる。もう駄目だぁ、俺の六百円は意味もなく消えてしまうんだぁ……。
ポンッ! とコルクが撃ち出される音がする。そして--、
--次に聞こえたのは、コンっ! という何かが落ちたような音だった。まさか、と思い、ゆっくりと目を開ける。
店の人が姉ちゃんに高級茶葉の箱を渡している。姉ちゃんは、ターゲットを撃ち抜いていたのだ。
そうか! わかったぞ! 姉ちゃんはペンライトから出る光をレーザーサイトのように使い、照準を簡単にしていたのだ。
あんなすごいアイデアを出すなんて、やっぱり姉ちゃんはすごいや! 今度俺もやってみよ!
「ふっ、射的界のシモ・ヘイヘって呼んでくれたっていいんだぜ」
自慢げな姉ちゃんの笑顔は、いつも以上に輝いていた。
ペンライトでレーザーサイトってできそうでできなさそう。