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目が覚めた

次に目を覚めたのは暖かい簡素なベットの上だった。

ぼんやりと目が覚め、覚醒しきらない頭で自分がほの暗い部屋のベッドにいるのを認識した。

ユラユラと揺れる明かりだけが室内の明かりだった。

体を起こそうとした。


「目が覚めましたか?」


部屋に人がいると思わなかった。

加えて掛けられた声が耳慣れない低い男性の声だったことにも驚いた。


私はそれはもう父上に大切に育てられた。

箱入り娘の典型だろう。

父が私を愛していたこともそうだが、何より私は王子の婚約者だった身だ。

そう簡単に男性と部屋でふたりきりなど許される立場ではない。

こんなこじんまりとした部屋で人がいること気づかなかったなんて。


声をかけられた方を向くとやはり男がいた。

男の作業していた机の上には部屋を照らす唯一の火のついた蝋燭の指してある燭台と羊皮紙が広たげられていた。


なにか書き物をしていたようだ。


彼はすぐに持っていた羽ペンをインク壺に突っ込むと燭台を持って立ち上がり、私のいるベットに近づいてきた。


簡素で少しヘたれたシャツを着ていたが、そんなものでは霞まない、傷んだ金髪の、見目のいい男だった。

正統派イケメンと言ったところだろうか。


真面目そうな切れ長の瞳に彼の持つ蝋燭の炎がチラチラと揺れていた。

炎が写った暖かい色の瞳と目が合った。


「体調はどうですか?」

「ぇ、...ええ、少し頭が痛いですわ。...あとは喉が渇いていて、」


海に落ちた時、海水を飲んでしまったのだろう。

その影響が残る少しかすれた声が出た。

言い終わらぬうちに男は素早く対処する。


「少し待っていてください、すぐに戻ります。」


ベッドのすぐ横のサイドテーブルに燭台を置き何も持たずに部屋を出て行った。

揺れる炎が私の顔を照らす。


私は混乱していた。

先程は彼の問にサラリと答えられたが、正直聞きたいのはこっちの方だ。


私は海に落ちたはずじゃなかったのか。死んだかと思った。

ここは何処なのか。


私の断罪イベントは卒業式のはずだったのに、それよりも早く彼らは私を追い詰めてきた。

おかしい。

こんな展開ではなかったはずだ。


それに私は眠っていた。

それはどのくらいの期間なのか。

私は今どのような立場に置かれているのか、家族は?

聞きたいことは山ほどある。


それに、あの男は誰だろう。

彼は私のことを知らないのだろうか。

私は国に捕えられていて国外追放という判決を待つ身で彼はそれまでの監視か?

しかし随分親切にしてくれている。

加えてとても丁寧な対応だ。


部屋の扉が開いた。

男が帰ってきた。

ベットの上で上半身を起こしている私に水の入ったコップを手元まで持ってきた。

私が先に話を聞くほうがいいだろうかと思案する。


「ただの水ですので安心してください」


私が少し警戒していたのを悟ったのか。

察しがいい。

私は大人しくコップを受け取り少し匂いを嗅いで薬品のあからさまな匂いがしないことを確認して水に口をつけた。


本当にただの水だったのだろう、。

まあ毒を盛るわけがないか。

わざわざ私の目が覚めるのを待っていたしわけだし。


彼は水とともに果物とスープと小さなサンドイッチの乗った銀盆をこちらに差し出し状況を掻い摘んで説明してくれた。


「私があなたを海から引き上げてから、あなたは2日間眠っていました。今は夜中です。あと少しで日付が変わる頃です。寝ている間、何も食していないので消化に良いものを持ってきました。あなたの好みを全く知らなかったのでったので、食べられないものがあれば言ってください。聞きたいことがあると思いますがまずは食事をしてください」


そう言って彼は飲み干したコップを私から受け取ると今度はサイドテーブルに置いた銀盆に乗っていた木でできたスープの入った器ととスプーンを渡してきた。


一方的に質問攻めにするのは品がないと思ったが、余裕が無いことを相手に悟られないよう一々間合いを考えるは今更な気がした。そういうわけにもいかないか。


私はゆっくりと渡されたスプーンでスープを掬い口をつけた。

ちょうど良い温度だ。

薄味だが出汁をキチンとっているのだろう。

貝の旨みをたっぷりと舌に感じた。

いいものをそれなりに食べてきた私の舌を満足させるほどの味だ。


かなり腕のいいコックを雇っているのか。

この男はそれなりに身分のある男なのか?

堅苦しく形式ばった貴族らしさはないが、分をわきまえた礼儀正しさがあることが私にそう思わせた。




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