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その2

「二人とも、その辺にしておきなよ。タッシーがオロオロしてるよ?」


 睨み合う二人の間に割り込むようにして鶴間さんが仲裁に入った。


「えっと綾瀬くん、てっちゃんに聞いていたけど本当に過保護なタッシーのオカンだよね。まあ、そのせいでタッシーは自分の容姿に気づかないまんまだけど……てっちゃんが誉めてたよ。君のおかげでタッシーが学校生活を無事に送れたって」


 はて? オカンとは? たしかに四六時中、張り付いてはいたけどね。いつも一緒だったから僕のことは世話がやける弟くらいに思っていたんじゃないかな? 誕生日、僕の方が早いけど。


「あ、そうなんだ。後で哲子さんにお礼を言っておこう。あ~、それと櫻森だっけ? 隆のこと、どう思っているか知りたい。そして君もね」


 そう言うと雄大は、渋谷くんに視線を向けた。あれ? 渋谷くん、様子がおかしい。ずっと雄大に釘付けになっていて反応がない。どうしたんだろう?


「……もしかして、これは!」


 はい、始まりました! 腐男子、隆の妄想劇場開幕です!


 雄大の姿を見た瞬間、渋谷の心臓は一瞬にしてキューピッドの矢に射抜かれた。目の前の青年に渋谷の鼓動は早くなる。学園で、いろいろな美形を見てきた渋谷であったが、素朴な美形には今まで出会うことはなかった。


(洗練されているわけでもないのに、彼の人柄が滲み出ているような柔らかな表情と無難な容姿。そして福田くんへの愛情に疚しさを感じない。何でだろう? 目が離せない!)


 綾瀬の周りには光のエフェクトが渋谷の視界を遮るように飛んでいる。それでも、食い入るように綾瀬の姿を見つめ続けた。


『あのぅ、俺の顔に何か付いてますか?』


 怪訝そうに訊ねてきた綾瀬に動揺する渋谷。


(ど、どうしよう!? こんな気持ち初めてだ。胸が痛いのにホカホカと暖かい)


 動けない渋谷に近づくと綾瀬が顔を覗き込む。


『そんな顔をしないで。君の笑った顔を見せて欲しい』


 そう言うと渋谷の左頬に綾瀬の右手が添えられた。そしてゆっくりと親指の先で渋谷の頬を撫でる。それだけで渋谷の心臓は、バクバクと音を立ててしまう。今まで、こんなことはなかった。今以上の行為をされたこともあるのに、それよりも今の方がドキドキしてしまう。


(これが一目惚れ、って言うのかな?)


 渋谷はただ、綾瀬の顔を見ることしかできなかったーー


 な~んて展開になったら、どうしょう!? ここは二人を応援するところだよね? でも雄大はノーマルのはず。腐男子的には愛を育んでいただきたいけど雄大は跡取りだ。鶴間さんみたいに女装したら渋谷でもいけるかもしれない!


(さあ、渋谷くん! 雄大に愛の告白をするのは今だ!)


 僕は渋谷くんの言葉を待った。


「あ~、妄想中に申し訳ないけど勝手に俺を出演させないでくれる? どうせ、渋谷くんだったっけ? 彼とくっつけようとしてるだろう?」


 な、なんとオカンは、僕の頭の中を覗いたかのように指摘してきました! なぜ分かった?


「……さすが付き合いが長いと考えていることが手に取るように分かるんだな」


 そこでしみじみと語らないでください、櫻森くん。指摘されたのは今日が初めてです!


「……あ、ごめんなさい。一瞬、記憶が途切れてしまいました。あの、初めまして。僕は渋谷……渋谷 ひかる、です。よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げた渋谷くん。そして櫻森くんも続けて自己紹介をします。


「櫻森 宏幸だ。【姫】と同じクラスで俺が【姫】の相棒で【若】だ。よろしくな」


 さっきの険悪なムードがなかったかのような爽やかな笑顔と共に挨拶をした櫻森くん。さすがセレブは後を引かないようですね。


「あ、私はご存じかと思うけど鶴間です!」


「……知ってます。この前、会いましたよね?」


 雄大の突っ込みにテヘペロする鶴間さん。貴方、あと二年で三十路に突入するんですよね? 可愛いので止めてください。


「改めて、君たち隆のこと、どう思っている? こいつ、自分のことは無頓着だからな。新しい場所で、やらかしてないか気になっていたんだ」


 やはりオカンだ。雄大、心配かけてごめんなさい。僕は、すでにたくさんのやらかしをしてしまいました! その最たるものが【姫】に選ばれたことです!


「綾瀬と呼んでいいか? まず最初に言っておく。【姫】は結構やらかしてるし、今回は、ある騒動が起きて謝罪しなければならないことになって、俺らがこうして彼の家に来たんだ」


 櫻森くん、ハッキリ言わないでください。照れるじゃないですか! そして渋谷くん、大きく頷かないでください!

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