そして不安は的中する
櫻森くんの提案に賛同したのは、渋谷くんだけだった。
「僕はオードブルの到着を待たないといけないから、今度一緒に行こう!」
と、柳橋くんに言われ、残りの先輩四人には「気になるけど、また今度にする(ね)」と言って断られた。金澤先輩が来ないというのが少し腑に落ちないけど。(自意識過剰かな?)しかも今度って、まさかみんな、またここに来るつもりですか?
狭い玄関で僕、櫻森くん、渋谷くんの順番で靴を履く。すると靴を履きながら渋谷くんにお願いされた。
「僕、福田くんが通っていた学校を見てみたいなぁ。僕ら、あの校舎でしょう? 一般的な学校ってどんな感じなのか、見てみたいんだ!」
そう言って僕の方をジィーと見てくる渋谷くん。庶民の学校は、そんなに珍しいですか?
今日は日曜日だから生徒は登校していない。思っているよりは騒ぎにならないかもしれない。しかし中学校は部活でグラウンドを使っている可能性がある。男子のみなら安心だが、もしも女子テニスや女子ソフトボールとかいようものなら大騒ぎになりそうだ。
「と、とりあえず小学校が近いから、そこに行こうかな?」
玄関を出て母校である小学校に三人で向かおうとしたら鶴間さんが追いかけてきた。
「自分もついていくから、よろしく! てっちゃんが過ごした場所を見てみたいんだ」
なるほど。恋人のことを少しでも知りたい、という鶴間さんの気持ちは分からなくはない。姉さんが家にいれば両親が暴走することはないに等しいから、小学校までの道のりを四人で散策をすることになった。
「思っていたよりも家と家との間が狭いよね。庭もないし」
歩きながら感想を述べる渋谷くん。ここの家(僕の家の前にある空き地の持ち主)には芝生の庭がありますから。子供用の丸いプールが二つ余裕で置けるくらいの広さが。しかも、その庭には池と、それを囲うように配された植木があるし、なんなら池には錦鯉が数匹います。ウチよりも家がデカイし、車が三台置ける駐車場もあるーーそう、ここは地元で有名な地主さんなんです。ここのお孫さんと僕は幼馴染みであり、同級生で中学まで一緒に過ごしました。
(そういえばアイツ、跡継ぎだからって大学附属の高校に進学したんだよなぁ。頑張っているかな?)
まだ中学を卒業してから三ヶ月くらいしか経っていないのに、日々の生活が慌ただしくて遠い昔のことのように思える。いろいろと思い出しながら、その家の前を通りすぎようとした。
「あれ? もしかして隆……か?」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには幼馴染みが門扉に手をかけた状態でこちらを見ていた。彼の名は綾瀬 雄大。真面目な好青年である。なにせ中学の時には生徒会長をやっていたし、背が高いし、顔もいいし、優しいから女の子にモテモテだった。しかも彼が入学した年からバレンタインにチョコを渡そうと学校に持ってくるのを禁止させるほどのモテかただった。(……う、羨ましいなんて思ってないからね!)
「雄大、久しぶり! これから出かけるのか?」
門扉まで戻り彼に近づくと、門扉から出てきた彼にいきなりヘッドロックされた。
「な、何だよ、いきなり!」
抗議するが、綾瀬は気にせず僕の耳元に顔を寄せ小声で聞いてきた。
「なあ、ゴスロリは哲子さんから紹介されたから知ってるけど、あの二人はクラスメイトか?」
(姉さん、いつの間に!?)
「あ、うん。同じ学校の同級生だよ。背の高い方が櫻森くん、低い方が渋谷くんって言うんだ」
僕が言い終わると綾瀬はチラリと二人を見た。そしてまた小声で不安げに聞いてきた。
「アイツら、お前の眼鏡を外した姿を知っているのか?」
「知ってるよ。なんだか最近、よくコケるんだよ! それで眼鏡が落ちて……そうだ、お前がいたからか!」
中学まで眼鏡が落ちるようなことがなかったのは、綾瀬がいつも傍にいたからだと気がついた。今思えば、まるでボディーガードのように僕の周りをうろついていた。だからコケそうになっても、すぐに支えてくれたから眼鏡が落ちることが少なかったのだ。(今思えば幼稚園から中学卒業まで、ずっと同じクラスだった!)
「おい、大丈夫なのか!? まさか襲われたりしてないだろうな?」
「はあ? 襲われる? ないない、そんなことあるわけないじゃん!」
カラカラと笑う僕に呆れたのか、ヘッドロックしていた綾瀬の腕の力が緩んだ。そして姿勢を正すと彼は櫻森くんたちの方に歩み寄った。
「初めまして。隆の幼馴染みで綾瀬って言います」
すると櫻森くんが彼に訊ねます。
「櫻森です、よろしく。ところでさっきのあれ、何なんですか?」
「あれ、とは?」
「【姫】への首閉めのことです。いくら親しい友人だとしても【姫】が可哀想だ」
「姫? 隆のことを姫って呼んでいるんですか!」
なんだか雲行きが怪しくなってきました。綾瀬の様子もそうだけど、櫻森くんが怒っているように見えるのは気のせいでしょうか?




