その4
その後、どうなったかというとーー
「とりあえず夕食については私、柳橋から提供させてください。今は三時半……でしたら六時までには、こちらにお持ちできるかと」
なんと柳橋くん、櫻森くんに対抗してお弁当というか、オードブルを事前に発注していたんだとか。もしも必要なくなっても自身の家に届けてもらうようにしていたんだって。さすがセレブです。
(一般のフードデリバリーのように自転車やバイクでの配達じゃなくて、車で運んで来るのかな? それなら崩れずに持ってこれるよね。ちなみに、どこのお店なのかな?)
「柳橋くん。オードブルって、どこのお店なの?」
「高輪にあるホテルの料理長がウチの親戚でね。今日のことを話したら、お詫びの品として用意するって言ってくれて、お言葉に甘えちゃった! あ、職権乱用はしてないよ? 今日は彼、休みだからウチの厨房で作っているから」
と、嬉しそうに話す柳橋くん。だから、そういうことは早めに言ってください。母さんが目を輝かせています。父さんもヨダレが垂れそうになってます。しかも、姉さんまで鶴間さんと何やらコソコソと喋っております。そしてーー
「「「隆、良いお友だちを持ったね!」」」
親子三人、嬉しそうに一字一句違わず、乱れることなく、示し合わせたかのように同じセリフを言いましたよ。どうせ三人、ホテルの料理が食べられると思っているだけです。鶴間さんは姉さんの隣でニコニコと笑っています。この様子では外食は中止のようですね。
「柳橋、いつの間に……ここに届けるとなると、すでに向こうを出発しているのか?」
金澤先輩が訊ねると柳橋くんが頷く。え、もうこちらに向かっているだと!? もし母さんの闇鍋回避できなかったら、食材は柳橋邸で食すからいいとしても、配送時間の無駄になるじゃないですか! って、柳橋邸がどこなのか分かっていませんが。
「……なるほど。だから櫻森の運転手が向かったのか」
ボソリと和泉先輩が言った内容に僕は首を傾げます。大和さん、どこかに向かったようですが、はてどこに?
「あ、ビン底は知らなかったのか? お前、二階から下りて来るときに少し遅れて来ただろう? その間に柳橋がどこかに無線連絡してたんだ。たぶん、相手は櫻森の運転手だな」
ちょ、ちょっと待て! 瀬谷先輩、それ爆弾発言ではないですか! 柳橋くん、配達を他家の運転手にお願いしたのか!? いいのか、そんなことして。櫻森家のお抱え運転手ですよね? 櫻森くんの了承は得ているのか?
「おいおい。ウチの車で運んで来るのか? 車の中、揚げ物臭くならないか?」
(櫻森くんの承諾なしだと!? しかも庶民的なことを言ってる!)
そうです。持ち帰りでポテトを買うと車の中がポテトの香りに包まれる、庶民あるあるです。バスとか公共交通機関でも袋に入っているのに美味しそうなポテトの香りがすると、つい食べたくなる衝動に駆られるーー柳橋くんのせいで帰りの車の中が揚げ物の香りに包まれてたら、櫻森くんが困るでしょう!
「大丈夫だよ。先輩たちの金沢文庫車両で向かっているから」
柳橋くん、双方の運転手をいくらで買収したんですか! つまり、ワンボックスカーで運ぶオードブルってことですよね? もしかして量がハンパなかったりしませんか?
「それなら問題ないか。どうせ先輩たちの車、後日廃車されるんだ。匂いが残っても帰り、我慢すればいいだけだし」
車、(たぶん)今日一回しか使ってませんよね? それで廃車ですか! どれだけ無駄遣いしているの! そんな金があるなら僕に少し分けてくださいよ! と、大声で叫びたくなるのを堪えて続きを聞きます。
「何を言う。車は廃車などせんからな。今日、初めて福田の家に来た記念車両だ。コレクションに加えるから匂いがとれるまでルームクリーニングしてもらうぞ!」
「せ、先輩!? 記念車両? コレクション? 何、言ってるんですか!」
隆、抑えることができませんでした。たかが庶民の家に来ただけですよ? 記念にコレクションするって、ありえないでしょう!
「おいおい、まさかあのロゴのままか?」
「当たり前ではないか。そもそも、あのロゴにしたのは真琴が言い出したからだが?」
不思議そうに瀬谷先輩を見つめる金澤先輩。あのネーミング、瀬谷先輩のせいですか。まさか採用されるとは思ってなかったんだろう。
「では大和が帰るまでの間、この辺りを散策させてもらおう。【姫】案内、よろしくな!」
(えっ? 散策? この美形どもを引き連れて近くを散歩ですか? そんなことしたら、近所の人たちや女の子たちに、あっという間に囲まれちゃうじゃないですか!)
この人たち、自分の容姿が周りにどれだけ影響を与えるのか、分かってないでしょう! ああ、僕一人でセレブたちを守ることができるのだろうか?




