その3
「【姫】、今の話……聞かせてもらった。お母様の手料理を阻止したい、ということで間違いないか?」
今まで僕たちのやり取りを見ていた櫻森くんが家族の会話に加わります。
「隆、ヒドイわ! 母さん、あなたの友だちに庶民の味を教えてあげようと思っていたのに、阻止だなんて。母さん、悲しくて泣いちゃう!」
そしてヨヨヨ、と泣き崩れる。しかし、それはただのパフォーマンスで実際には泣いてないし、僕たちの反応を楽しみたいだけだ。姉さんも、それを分かっているから額に手をあて頭を何度か左右に振ると、大きなため息をついた。
「お母様、申し訳ありません。私たちは先日学園で起きた騒動の謝罪に参ったのです。しかも、私たち以外に突然押し掛けてきた学園の生徒を快く歓迎してくださった。ありがとうございます」
いつも見ている櫻森くんとは違った姿に、一瞬、別人ではないかと怪しんだ。だが、さすがは学園長の息子さんである。責任をしっかり果たそうと改めて謝罪し、頭を下げた。その様子に金沢文庫社員一同もお互い顔を見合わせると、母さんの近くまでやって来る。そして一斉に頭を下げた。
「……え? あら、やだわ。隆のために皆さんに頭を下げさせるなんて……母親として失格ね」
急に真面目な顔をして、母さんがセレブたちに向き合います。久々に見た母さんの姿に思わず、生唾を飲み込んでしまいます。
(母さん、変なこと言わないでくれよ?)
「皆さんに心からお礼を申し上げます。こんな家族ですが、隆とこれからも仲良くしてください。よろしくお願いします」
そう言って母さんも頭を下げます。これが普通の対応なんだと思うと、感動で涙が溢れそうです。確かにこの両親と付き合うのは、なかなかに苦労する。けれど意外にも慕う人が多いのだ。何故かは分からないけど。
「父親からも、皆さんにお願いします。これからも、どうか隆と仲良くしてやってください」
続けて父さんまでセレブたちに頭を下げた。それを見た姉さんも、ホッと一息ついて鶴間さんの肩を叩き、退室を促した。
「いえ、こちらの方こそ突然の訪問を快く受け入れていただき、さらに夕食のお誘いまでいただいて嬉しく思いました。しかし先ほど櫻森の言うとおり、謝罪に来た身の上であるにも関わらず、それを蔑ろにしていたこと、大変申し訳ありませんでした」
青葉先輩が今一度、謝罪します。これで丸く収まるはずーーと、思ったのは幻想でした。
「じゃあ、仲直りの意味で、これから私が皆さんに、ごった煮を振る舞うので、少々お待ちくださいね!」
「結局、作るんかい!」
隆、久々に突っ込んでしまいました。折角、回避できそうだったのに! 姉さんも慌てて廊下から出戻ります。
「止めて! 本当にもう何もするな!」
「てっちゃん、怒らない怒らない。そんなに眉間にシワを寄せたら取れなくなるよ?」
「だけどツッキー! 母さんが諦めていないのよ!」
この二人のやり取りは通常運転ですね。放っておきましょう! さて、どうしたものかと思っていたら柳橋くんから提案がありました。
「あの、もし良ければなんですが今度、福田くん……隆くんを我が家に招待することになっております。その時に、ご一緒にお越しください。そこでお母様の手料理を振る舞っていただけませんか?」
(そ、そうだった。サイン本をもらう予定だったの、いろんなことがありすぎて忘れていた!)
「私たちもお母様の手料理をいただいてみたいので、どうでしょうか? 食材はこちらで用意しますので、後日必要なものをメモにしていただけますか?」
柳橋くん、君が神様に見えます。ありがとう、これで闇鍋回避できそうです! やはり貴方は僕の尊敬するキミテル先生です!
(ん? あれ? そういえば柳橋くんの家に行くの、いつの間に決まったんだ? サイン本をもらう話はしたよ。その後に「家に来ないか?」とは言われたけど、僕ハッキリと行くとは言わなかったよね?)
「そ、そうなんですね! なら、隆と一緒に伺うことにしますのでよろしくお願いいたします!」
母さん、嬉しそうですが大丈夫なんでしょうか? セレブの住んでいるお屋敷ですよ? 場違いな料理なんか作らないよね? そんな不安を余所に話は進んでいきます。
「柳橋、当然だが我らも行くぞ!」
「……仕方ありませんね。隆くんのお母様は、今日の、このメンバーに庶民の味を提供されたいとのことだから、先輩方も我が家にお越しください」
「僕も行くからね! 僕は『チーム金沢文庫』の一人なんだから!」
「俺も行くからな。お前の暴走を止めるのは、俺しかいないからな!」
どうやらこのメンバー、先輩方と渋谷くん、櫻森くんと一緒に後日、柳橋邸にお邪魔することになりそうです。
ところで櫻森くん。さっきの発言、もう少し詳しく聞いても大丈夫ですか!?




