それは鍋と言えるのか?
姉さんと鶴間さんのおかげで数が足りたので狭いリビングでアフタヌーンティー(?)をすることになった。父さんは後から持ってきたケーキを見て取り替えようとしたが、断固阻止しました。当たり前です。なんたって、このケーキはーー
「これは僕の合格祝いで貰ったものだから、僕がダメだと言ったらダメだから! 僕たちがいただきます!」
しっかりと釘を刺して、人数分(色も形もバラバラ)の皿にケーキを乗せます。
「ほう、これがショートケーキというのか。どこかで見た気もするが……思い出せん」
皿を目の高さまで持ち上げ、しげしげとケーキを見つめる金澤先輩がいた。その隣には瀬谷先輩がいてケーキにまつわる昔話をしています。聞き耳を立てていましたが、二人で話しているため、所々分からない内容があり、気になっていたんです。すると、青葉先輩が僕の横に来て、彼らの話を分かりやすく教えてくれることになりました。ありがとう、青葉先輩!
「まだ初等部だった頃に、ここのメンバーで金澤くんの誕生日パーティーを、なぜか瀬谷くんの屋敷で開いたんだ。その時にホールケーキを切り分けて各自の前に配られたんだけど……」
そこで一旦区切ると、その当時を思い出したのか、珍しく吹き出して笑った青葉先輩。おそらく金澤先輩が何かやらかしたんだろう、と想像がつきます。
「で、そのケーキを金澤くんが食べようと、切り分けた大きさのままフォークに刺して食べようとしたんだよね。スポンジって柔らかいから、当然のことだけど全部を口には入れられないし、形が崩れて皿以外の場所にこぼれ落ちるし、金澤くんは食べ方を知らなかったのが恥ずかしくて、それを誤魔化すために暴れるしで、大変だったんだ」
(なんとっ! 金澤先輩、食べ方を知らなかった? えっ? お誕生日にケーキは定番でしょう?)
「何で? って顔してるね。金澤くんの喋り方、実は彼のお爺様のせいなんだよね。ほら、金澤くんって家族に溺愛されてるでしょう?」
そう言うと青葉先輩が、ため息をついて遠い目をしましたよ。なんでも金澤先輩のお爺様は茶道を嗜む方で、幼い金澤先輩にお茶を習わせていたらしく、甘味は和菓子で洋菓子は滅多に口にしなかったとか。
お誕生日のお祝いも茶会で、親類縁者が集まり盛大に催されたとのこと。(青葉先輩たちのご両親も呼ばれたそうです)で、このお爺様、やたらと先輩に絡んで……先輩に過干渉で、どこに行くにも連れて歩いていた。そのせいか、金澤先輩の言葉づかいは、お爺様のソレになってしまったらしい。
「あの時、初めて同年代の子供だけの誕生日会が嬉しかったんだろうね。終始ニコニコしていたんだけど、その事件がキッカケなのか、その時のケーキの記憶も、その後のケーキの存在も消してしまったんだよね」
なるほど理解した。黒歴史を闇に葬ったわけですね!
「そんなワケで、彼のお兄様は金澤くんの今後のためにもお爺様を排除すべく、隠居させて軌道修正しようとしたんだけど、今までかまえなかった反動で今度はご両親が……ね」
(分かります。でなければ学園の敷地にゲルを建てることに反対するはずです。それに今回の尾行のために車を用意するくらいですからね。相当、先輩に甘いご両親なんでしょう)
羨ましいかと聞かれると正直、答えられないけど、ウチよりは遥かにマシだと思います! そんな昔話を聞きながら、ペルぺのケーキをいただきます。あ、そうだ。金澤先輩、大丈夫でしょうか?
「いいか、まず先端を切り離して一口サイズにしておくんだぞ」
ケーキの食べ方を瀬谷先輩が指導していました。これなら安心です。さて、口に含んだ皆様の感想をお聞きしたいです!
「ふ~ん(モグモグ)……まあまあ……(モグモグ)だな。あ、お茶を頼む」
「とか言いつつ残さず食べたのは、どこの誰だ? まあ……たしかに旨いな。それは同意するぜ」
「本当、金澤くんは素直じゃないなぁ。美味しいなら、そう言えばいいのに」
「全くだ。福田、この店は他に出店する計画はないのか?」
どうやら先輩たちには好評のようです。渋谷くん、柳橋くん、櫻森くんからも高評価をいただきました。ありがとうございます。
「福田くん、さっきはごめんなさい」
ケーキを食べ終えて一息ついているところに渋谷くんが頭を下げて謝ってきました。もしかしてさっきの玄関でのやり取りでしょうか?
「これからご家族になる方に対して失礼なことをしてしまった……鶴間さん、だっけ? 謝罪したいんだけど、お邪魔しちゃっても大丈夫かな?」
今、鶴間さんは二階の姉さんの部屋にいます。恋人同士の甘い時間を過ごしているはず……そう、過ごしているはずなんです。たぶん。だって鶴間さん、あの姉さんの恋人なんですよ。男としてもアイドル並みの顔立ちなのに女装すると女の子に変身しちゃう人なんです。そして我が家に馴染んでる時点で、鶴間さんも相当変わっている人であることは間違いありません!




