その4
「鶴間さんが女の子になってる……え、どういうこと?」
あ、柳橋くんが固まっている。そうだった。彼はイベントでの鶴間さんを見ているから男性の方を想像していたんだろう。なのに目の前にはゴスロリの格好をした鶴間さんがいる。柳橋くんの衝撃は相当なものだと、こちらにも分かるくらいだ。
「あ、キミテルだ。お久しぶり! タッシーと同じ学校だって? まさか本当に追いかけるとは思わなかったよ」
(……追いかける?)
鶴間さんが放った一言に、僕のセンサーが反応した。
(追いかけるとは、おそらく櫻森くんのことだよね。そういえばイベントで柳橋くんは、姉さんや鶴間さんに会っているんだから、その時に相談していたのかもしれない!)
ーーイベント会場で姉さんたちに相談する柳橋くん。その時、当日分を売り切った櫻森くんは、柳橋くんを探しに会場内を歩いていた。すると鶴間さんに辛い胸の内を語っている柳橋くんの姿を見つけた。
『あれは、柳橋? 隣にいるのは……誰だ?』
柳橋くんの瞳がキラリと光る。そして一筋の涙。そんな彼を鶴間さんが、壊れ物のようにソッと抱きしめた。
『!? どういうことだ? 柳橋が……俺以外に涙を見せるなんて』
愕然とする櫻森くん。柳橋くんの傍に駆けつけたいのに、なぜか身体が動かない。
『……公輝、もしかして、ソイツが想い人……なのか?』
この出来事でお互いの想いがすれ違い、距離をおくキッカケとなるのであったーー
(なぁ~んてね。両片想いのすれ違いって、胸に熱いものを滾らせる起爆剤だよね! ここから遠慮がちになって、どうにかしたいのに今の関係が崩れるのを恐れて、お互い新しい一歩が踏み込めなくて、それでそれで……)
妄想に余念がない僕のことを心配して鶴間さんが姉さんに声をかける。
「てっちゃん、タッシーがトリップしてるけど大丈夫? これ、しばらく帰って来ないよ?」
「なにを今さら、いつものことでしょう? それと貴方、渋谷くん、だっけ? この人、私の彼氏だから気にしなくてもいいわよ。それからキミテル、なに人の彼氏をジロジロ見てるのよ! ああ、美しすぎて目が離せないのなら特別に許す!」
実は鶴間さん、こんな姉さんの彼氏なんです! (なり染めは今度落ち着いた時に話すとして)姉さんに叱られた(と、いうよりも現実に戻された)柳橋くんが、鶴間さんに謝った。
「す、すみません! いつもと違うからビックリしてしまいまして。撫子さんには聞いていたんですが、まさかここまでとは正直、思ってなくて。でも……素敵です!」
(ん? 姉さんに聞いていた? もしかして柳橋くん、鶴間さんがコスプレする姿を見るために僕の後をついてきたのか?)
トリップを中断させ、僕は柳橋くんに確認する。
「……姉さんに聞いていたって、何を?」
「撫子さんに鶴間さんがコスプレすることを聞いていたんです。イベント会場で知り合って意気投合して、お付き合いを始めたって。まるで僕らみたいじゃないですか! で、こちらに来ることを撫子さんにお伝えしたら『彼氏のコスプレ見る?』って聞かれたんでお願いしたんです! 想像以上で感動しました!」
柳橋くん。貴方、本当に柳橋家の坊っちゃんですか? いや、オタクに年齢や階級の垣根は一切関係ない! だから柳橋くんがイベントで同人誌を売ろうが、鶴間さんがコスプレしようが問題はナッシング! 己の萌えに全力投球する姿こそ、オタクの真髄なんだから!
「あ、隆が戻ってきた。じゃあ、部屋に戻りますか。渋谷くん、今後もよろしくね! キミテル、ツッキーからケーキを受け取って。それから隆……」
姉さんが真剣な顔で僕に伝えてきました。
「今日の夕飯、絶対に阻止しなさい。でないと今よりも、もっと恐ろしいことになるわよ?」
(恐ろしいこと……ま、まさか「アレ」をするつもりなのか!?)
「私、夕飯はツッキーと外で食べに行くからね。ここにいる人たちの身の安全を確保したいなら……絶対に阻止しなさい!」
「了解しました! 隆、これから任務を遂行いたします!」
そうだ、忘れていたよ! この人数でみんながそれなりに食べられる料理ーーそれは、鍋。鍋は鍋でも、ウチの鍋は人様に食していただくには、危険が伴う恐ろしいものなのだ!
ーーそう、賞味期限のブッチ切れた食材を、これでもかとぶちこむ、究極の闇鍋である。
ペルぺのケーキはともかく、萎びたキャベツやニンジンといった野菜、色が少しおかしい肉や魚。そして鍋つゆ、豆腐にいたっては、開けてない(充填豆腐だ)からと期限を一週間以上も過ぎたものをぶっこむのだ。福田家の腸内環境は、それに対抗できるようになっているが、この人たちは……)
チラリと背後の二人に視線を向けた。何も知らない柳橋くんと渋谷くんが、先ほどの姉弟の会話に困惑している。
(大丈夫! 僕が君たちのお腹を守るからね!)




