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その3

「……何だ、隆。もしかして自分のケーキはないかも……と心配しているのか?」


 父さんがトンチンカンなことを言ってます。しかも、自分の分はしっかり確保しておいて、息子やその知人たちは食べられなくてもかまわない、といわんばかりのセリフにイラつくのは、当然の結果ですよね?


(もう嫌だ、この家族! この場合は追加で買いに行かないといけないでしょうが! 何、お皿にケーキ乗せているんですか! 先輩たちは、お預けを食らうんですか!? 父さん、アンタ今いる会社に彼らの親から圧力をかけられたら、居場所がなくなるんじゃないの!?)


 やはりここは、僕が駅前まで行って買ってくるしかないでしょう。大和さんにお願いして車を出してもらおう、そう思った、その時でした。ピンポーンと、間延びした定番の呼び鈴が鳴った。同時にリビングが静寂に包まれる。とりあえず近くにいる僕がインターホンで玄関前の映像を見ると、そこには鶴間さんの姿が。


「えっ、鶴間さん? ちょっと待ってて。すぐ開けるから!」


 鍵を開けに玄関に向かう僕の後を柳橋くんが追ってきます。


「鶴間さんって、撫子さんトコの売り子さんでしょう? 今、ここに来ているって!?」


 なんか興奮してますけど、鶴間さんは滅多にウチには来ないし、仕事柄平日休みなので日曜日に来るのは本当に珍しいんです。(イベント参加も有給消化のため、と言ってわざわざ休みを取ってくれているのです。姉さん、感謝しろよ!)


 はて? 一体、何しに来たのでしょうか?


「お久しぶり! 元気してた? 遅くなったけど高校合格、おめでとう!」


 玄関ドアの向こうにいる鶴間さんが、開けるなり、ニコニコと笑いながら祝辞を述べてくれた。


「あ、ありがとうございます! えっ、まさかそれだけのためにウチに?」


「当たり前でしょう? 哲子の弟の合格を祝うのは当然のことだよ。それでね、君の好きなペルぺのケーキを買ってきたんだ!」


 な、な、なんと! ペルぺですって!? なんというタイミング。神よ、あなたは我を見捨てなかった……いや、この場合の神は鶴間さんですね!


「鶴間さん、せっかくなんで上がってください。二階に姉さんもいるし……学校の先輩たちもいますけど」


 鶴間さんの視線が僕の後ろに向けられたので、柳橋くんの存在を思い出した。リビングは混みあっているから二階に避難してもらい、姉さんの相手をしてもらおうかな、なんて考えていたら渋谷くんが玄関にやってきた。


「福田くん、誰が来たの? 紹介してくれる?」


 僕と柳橋くんの間をすり抜けて、渋谷くんがひょっこりと顔を出す。そしてジロジロと鶴間さんのことを品定めし始めた。


「ふ~ん。ねぇ、あなたは福田くんと、どういう関係? それと女性的な見た目だけど……男、だよね?」


 渋谷くん、なぜ分かった!? そうなんです。実は鶴間さん、今をときめく男の娘なんです! 仕事をする時は普通に男性として、プライベートは女装をして楽しんでいるんです。しかもキチンと化粧までするから、女の子だと思ってナンパされることもあるとか。ちなみにイベントでは仕事モード、男性で売り子をしてます。今はプライベートなので黒一色のゴスロリファッションです。


「よく分かったね。まあ、君も似たようなもんだし。今度一緒にイベントでコスプレするかい?」


「遠慮させていただきます。で、どういう関係なワケ?」


 やけに絡む渋谷くんですが、どうしたのでしょうか。睨み付けてはいないけど、あまり感じはよろしくありません。


「警戒しているようだけど私、彼の姉の知り合いなんだよね。彼女の弟の隆が志望校合格したから、お祝いをしに来たんだよ。何か文句でもある?」


 おっと、鶴間さんまで。渋谷くんを煽り始めましたよ。どうしよう、このままだと二人ケンカ勃発か!?


「あら、ツッキーいらっしゃい。どうやら間に合ったようね。ごめんね、おつかいを頼んじゃって」


 階段を下りながら姉さんが鶴間さんに声をかけます。良かった! 姉さんの機嫌も直っているようだし、渋谷くんと鶴間さんのケンカも回避できそうです。


「大丈夫だよ。愛しのてっちゃんのためなら駅前でケーキを買うくらい、なんてことないよ」


 どうやら人数が増えたことで姉さんが鶴間さんに連絡したようです。えっ? そうなるとケーキのために、わざわざウチに来たってこと?


「あ、言っておくけど合格祝いのために来たのは本当だから。今日、隆がこっちに帰ってくるって聞いたから休みを取ったんだ。で、向かっている途中、てっちゃんから連絡がきて、ケーキの数を増やして持ってきたんだよ」


 おおっ! ありがとう、姉さん。そして鶴間さんも臨機応変に対応してくれて、ありがとうございます! このご恩は一生忘れません!(これ、何回言っているんだろう?)

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