その2
「柳橋の家族に挨拶する、だと? 待て待て、まだ私のところに来ていないというのに、同級というだけで福田の『初めて』を奪うのか!」
「金澤くん。それ、語弊があるからね」
「……お前、瀬谷のことはどうするんだ?」
「別に俺は気にしないけど。それよりもビン底が他の奴らのところに遊びに行くなら、ウチにも来いよ!」
「ズルいよ、福田くんを一人占めするのは良くないよ! 柳橋くん宅の前に僕の家に来て! 渋谷家総出で歓迎するよ!」
ーー一金澤先輩の暴走で、一気にカオスな状態になりました。
「せ、先輩方……渋谷くん……ぼ、僕は行きませんよ? 場違いなのは、分かるでしょう?」
脱力感にみまわれる僕に、金澤先輩は追撃の手を緩めません。拳を握りしめて力説してきます。
「場違いだと? 何を言う、福田はこれからの社交界には、なくてはならない存在となるのだ! 今からそんな弱腰でどうする! 仕方がない、我が家で特訓を……」
「何ですか、その社交界って! いつの時代の話なんですか!」
「いや、今もあるよ。企業が開くパーティーも社交だからね」
「青葉先輩、そんな豆知識いりません!」
一般家庭で育った僕には、社交パーティーに参加する資格は今後一切ありません。たとえ就職しても、ご縁のない部署に配置されるので心配ご無用です。それなのにーー
「隆、パーティーに出るのか!? スゴイじゃないか!」
「パーティーといえばケーキよね。ケーキといえばアフタヌーンティーでしょう!」
父さん。だから僕は一生縁のないものだから喜ばなくてもいいんだよ! それに母さん。僕は貴女の口からアフタヌーンティーという言葉を初めて聞きました! ちゃんと意味、分かってますか!?
「ほら、てっちゃんが駅前のペルぺで買ってきてくれたケーキがあるから、みんなで食べましょうよ」
「おお、ペルぺのケーキか! 久しぶりだな。こういう機会がないと、なかなか食べられないからな」
「ちょ、ちょっと母さん!? ケーキはいいとして、何個買ってきてるのか確認したの?」
今、このリビングには十人。そして二階にケーキ購入者が一人と総勢十一人いるんですよ!? 姉さんが持っていた箱の大きさからして、この人数分は、さすがにない。僕たち家族が食べないとしても七人いるから足りないかもしれない。
「ペルぺ? 聞いたことないな」
情報収集が得意……かどうかは分かりませんが、和泉先輩が首を傾げていたので(両親だと不安だから)僕が説明します。
「地元では、そこそこ有名なんですが地域密着型のお店で、店舗数が少ないから知らない人の方が多いですよ。舌の肥えた先輩方の口に合うかは分かりませんけど、けっこう美味しいです。小さい時は、ご褒美に買ってもらえた苺のショートケーキが僕にとっては高級なデザートでしたね」
世間では知られていないけど、僕は密かに隠れた名店だと思っている洋菓子工房ペルぺのケーキ。久しぶりに食べたいけど、先輩方にもぜひ食べていただいて感想を聞いてみたい。
「苺のショートケーキ? それは、どういうものだ?」
金澤先輩が不思議そうな顔をして聞いてきます。そういえば体育祭のゲルで観戦していた時には、ケーキはなかったかもしれない。
(はぁ? 知らない!? 嘘でしょう! コー◯ーコー◯ーにもある、苺がちょこんと乗った、白と赤と黄色の絶妙なコントラストの、あのショートケーキを知らない、だと!?)
心の中では荒ぶっていましたが、あまりの衝撃に言葉が出ません。もしかして金澤先輩、ケーキは食べないのかな?
「コイツは、こう見えて和菓子派なんだよ。視界には入っているが、興味がないものには見向きもしない。存在そのものをないものとして扱うからな。それは人も同じ……良かったな、ビン底。お前、金澤に気に入られて」
ーー金澤先輩って、けっこう好き嫌いがハッキリされているんですね。存在そのものをないものとして扱うとか、相手は地味に傷つきませんか?
「うむ……ケーキか。これを機に食してみるか!」
(何だと!? もしかして一個余ったかも知れなかったのか!?)
隆、痛恨のミスをしでかしました。先輩、もしケーキにトライされるのならば、ご自宅のパティシエに作ってもらって食してください。きっとペルぺより美味しいと思います!
「あら、てっちゃんたら六つしか買ってこなかったの? しょうがないわねぇ。まずこれが、母さんのでぇ~、これがお父さんの。で、これがぁ~……」
「か、母さん!? こういう時は、お客様が最優先でしょうが! 何、先に自分たちのを選んでるんだよ!」
「え? だってこの人たちは後から来たんだもの。用意してないわよ?」
おいおい、何年主婦やってきたんだよ。常識は、どこに置いてきたんですか? お婆ちゃんのお腹の中ですか?




