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その4

 姉さんの怒髪天を衝く怒りに、いつものことで慣れている僕以外の男たちは目を丸くしていた。それはそうでしょう。歳上の女性が、そんな状態で目の前に現れるなんて、経験したことないでしょう?


(ドラマで「お前に復讐するためにやった!」とか、「貴方、私を捨てる気なの!?」と、痴情の縺れなどでよく見る光景だよね? これで刃物なんか持っていたら捕まるレベルだよ!)


 しかも隣がうるさい、というちっちゃな理由で怒鳴りこんできたんだから、セレブでは考えられないことだと思います。


(内部生の金沢文庫社員も、ライバル校に通っていた二人も、共に中学から男子校だから女性のイメージが変わって結婚できなくなったらどうすんだよ! 跡取りもいるんだぞ! でもBL的にはオッケーなのか!)


「……隆、この五人の男性とは、どういうご関係?」


 怒りのあまり金沢文庫社員を見ていなかった姉さんが今、気づいたとばかりに僕に訪ねてきた。


「生徒会の先輩方と、前に電話で少し話した渋谷くん。僕、今回【姫】……じゃなくて学級委員になったから、その関係でお世話になっている方々です! 言い忘れましたが櫻森くんと柳橋くんは、僕と同じ学級委員だよ」


 彼らを紹介しながら姉さんに連絡し忘れたのを思い出す。学級委員たちのプロフィールを後日送る、と言ったのに、あれから何日経ったんだろう。彼らをジロジロと物色している姉さん。きっと頭の中で新たなカップリングを想像しているんだろうね。


「ああ、あの時に言っていた子がいるのね。はじめまして隆の姉の哲子です。よろしくね。で、申し訳ないけど今、私は隣の部屋で仕事をしているから騒がれると集中できないのよ。だから……」


 一拍置いて姉さんがドスの利いた、これでもかというくらい低い声で淡々と指示をした。


「とっととリビングに行きやがれ。私の邪魔をするなっ」


 未だに固まったまま(柳橋くん以外)の男子たちは、無言で頭を縦に何度も振っている。さすがは姉さん。他人にも彼女は容赦しなかった。


「すみません、撫子さん。作業の邪魔でしたね。僕ら、とっとと下に行きますのでお仕事頑張ってください! 応援してますから!」


(柳橋くんは姉さんが執筆しているのを気づいているな。しかも、この状態の姉さんに声をかけられるということは、イベントとかで何度か遭遇しているんだろうなぁ)


本当に慣れとは恐ろしいものです。腕組みしている姉さんの横をビクビクしながら通り抜けるセレブたち。一人、瞳を輝かせてお辞儀している人がいますが、気にしないでおこう。


「……隆、分かっているわね?」


 僕も彼らを追いかけるようにリビングに行こうとしたら姉さんに引き止められた。


「キミテルくんにも頼むけど、例の報告は欠かさずするのよ。特に生徒会のメンバーは重要案件だからね!」


 言葉だけ聞けばミッションを請け負うスパイみたいで格好いいけど、実際は姉さんの執筆のための雑用係である。今回、家に来たことで姉さんのお眼鏡にかかってしまった先輩たちに心の中で合掌する。もう、あの姉さんからは逃げることはできない。


(僕の報告以上に、柳橋くんのセレブ側の報告が、今後の執筆活動の役に立つと思います)


 口にすれば僕のライフがゼロになりそうなので、部屋に戻る姉さんの背中を半眼になって見つめるだけに止めた。


 さて、その頃のリビングは両親の独壇場と化していた。


「ねえねえ、お金持ちの人って回転寿司で食べたことないんですって? 意外と美味しいのよ。今度、一緒に行かない? お寿司以外にも、うどんとかデザートとか色々あって楽しいから!」


「そうだ! その前に近くにあるボーリング場で対抗試合して、腹を空かせるのはどうだろう? 昔、会社の同僚とやったんだがストライクが全然取れなくてな。その後、必死に練習したものだ」


「あら、一時期帰りが遅かったことがあったのは、そういうことだったの。浮気するような野郎ではないのは分かっていたけど、夕飯が無駄になることもあったから教えてほしかったわ」


「すまんな。つい夢中になってしまって連絡を忘れてしまったんだよ、あはははっ」


 おい、そこの中年夫婦。笑っている場合じゃない! またしてもセレブたちの目が点になってるじゃないか! ああ、どうして家には(僕以外)マトモな人間がいないのだろう。


「あ、隆おかえり。今ね、回転寿司に行くから日程を決めようと思っていたところなの。いつなら行ける?」


「できれば父さんの給料日後でお願いしたいな。そうそう、君たちは未成年だからアルコールは飲めないぞ!」


 神様、お訊ねします。どうして、この両親の元に僕は生まれたのでしょうか? もう少しマトモな親が良かったです!


「そうだ、隆。サインは貰えたの?」


 何気なく聞いてきた母さんの言葉に、僕も目が点になりました。そうだった。僕の部屋に行ったのは、そのためだったのに色々あって、すっかり忘れていた。


(わ、忘れてたよ! 騒ぎが大きくなりすぎて本を選んでないし、サインも貰ってないよ!)


 ああ、また部屋に戻るしかないのだろうか?

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