その2
皆さん、いくら好きでも飽きることってありますよね? 飽きるだけでなく、そのまま本当に興味を失ったり、逆に嫌悪し遠ざけることだってありますよね?
(今まさに、僕は柳橋……いや、キミテル先生のことが嫌いになりそうです)
「夏のイベント以降は、サークル参加をしない、だって!?」
本を厳選中に、いきなりの爆弾発言。僕の楽しみが……僕のバイブルが、これから先、堪能できなくなるということですよ! キミテル先生は通販も再販もやっていないからイベント会場でしか作品をゲットできないのに。しかも先生の作品は転売されない(おそらく柳橋の力で潰している)ので、貴重なのだ。
ああ、どうしよう。先生からの引退話、さらには生きる糧を失うことになんて! それなのに柳橋くんの隣にいる櫻森くんは興味がないのか、しれっとしているけど僕にとっては死活問題なんです!
(とはいえ、キミテル先生は柳橋くんで、柳橋くんは財閥のお坊っちゃま。これから将来のことを考えると、悲しいけどそろそろ断筆しなければいけないのかもしれない)
でも僕は受け入れることができない! いくら何でも唐突すぎる! 姉さんは、この事を知っていたのかな? もし知っていたのなら許すまじっ!
「実は、僕のワガママで編入して今までと環境が変わったこともあるけど、目の前に好きな子がいるのに執筆している暇があったらアタックする時間にあてようかな、と思ってね。今までの作品は、その子と僕がこうなれたらな、という妄想の産物だから、今は妄想を現実化させたいんだよね」
そう言って柳橋くんが櫻森くんがいるのに僕にウインクしてきました。入りません、そんなもの。僕はキミテル先生のファンであって、気に入られたいのなら先生の新刊がほしいです。できればサイン付きで、ついでに「隆くんへ」って入れてくれると僕はキュン死します。なので、辞めないでください!
「ただその代わり新たに小説投稿サイトに登録して、今までの作品と新作をあげる予定なんだ。福田くんがいつでも僕の作品を読めるようにと思ってね」
なんとっ!? 僕のために電子書籍化してくださると! サイトなら無料で読めるし、スマホやタブレットで持ち運びも簡単だし、場所も取らない。嬉しい報告ではありますが、僕は断然、紙媒体派なんです。しかも掲載サイトによっては表紙がなかったり、あっても小さかったりで堪能できないことがあるんですよね。
(できれば表紙が見られて、尚且つキミテル先生本人のイラストでお願いします!)
すると柳橋くんは、我関せずを貫く櫻森くんの肩をポンと叩いた。
「そういうことで櫻森、今までの作品をサイトに移行するから打ち込みを頼むよ」
「はあ? 何で俺がお前の手伝いをしなきゃならないんだ? 自分のことは自分でしろよ!」
「いいじゃないか。同じ部屋だから指示しやすいし、君のタイピングは僕より早くて尋常じゃない」
そう言って柳橋くんが一呼吸置くと、さらに話を続けた。
「それに家族以外で僕が執筆しているのを知っているのは、ここにいる櫻森と福田くんだけ。だからこの事は、二人の胸に閉まっておいてほしい。だからこそ櫻森に打ち込みの手伝いをお願いしたいんだ」
「……し、仕方ない。そう言われたら断りづらい。分かった、手伝うよ」
頭を下げて頼む柳橋くんに困惑気味の櫻森くんだったが、大きなため息の後、手伝うことを了承した。
(そういえばそうだった。この二人、同じ部屋だ!)
編入が決まった際、寮の部屋は学園のことを分かっている在校生と組ませる予定であった。だがしかし「何らかの圧力」で結局は二人一緒の部屋になったーーと先日、青葉先輩から聞いた。
(「何らかの圧力」とは、つまり「お互い離れたくない!」という意思表示なんだよ! これまで二人は、ゆっくりと着実に愛を育んできた。だが編入という環境の変化と、部屋が分かれる予定という試練に、二人は共に乗り越えて今がある……なんて美しい純愛! もう隆、お腹いっぱいになりそうです! あ、デザートは別腹ですので、随時受け付けております!)
「……福田くん、また変なことを考えていたでしょう? 僕は君一筋だからね? ねえ、聞いてる!?」
はい先生、僕も作家になれるかもしれません。この妄想……いえ、妄想ではなくて「真実の愛」を後世の人々に残しておきたいと思うのです。「真実の愛」といえば、異世界転生の悪役令嬢がヒロイン(たまにヒドイン)と恋仲になった婚約者に婚約破棄を告げられる時にほざく定番の、薄っぺらなセリフの一つでしたね。
(読んでいる側は陳腐なセリフだと思うけど、物語としては重要なんだよね。この愛が実ることは、ほとんどないし、ほざいた二人は惨めな最後を迎えるんだよなぁ。あ、隆的には乙女ゲー転生ものもオッケーです。ただ女の子を男の子に置き換えればいいだけなので)
そうなると「真実の愛」って言葉は、ここにいる二人には似合わない。どんな言葉を当て嵌めたらいいのだろう?
「柳橋、諦めろ。今【姫】はトリップ中だ。こっちの話なんぞ聞いちゃいないだろう」
「……そうだね。この顔を見たら、そうだろうとは思ったよ。あ~あ、ニヤニヤしちゃって」
僕の脳内にて作品を執筆している(たぶん短い)間、櫻森くんと柳橋くんは、僕がトリップしているのをこれ幸いと、僕の部屋の探索を始めるのであった。
(そこの二人、プライバシーの侵害ですよ!)




