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その3

 そのコスプレをしていたのは、姉さんに頼まれて売り子をすることになった初日のことじゃないですか。夏の暑さに耐えながらピンクのヅラを被って思ったのが、このキャラの元婚約者ってヅラと同じ声優だったな、ということだった。


(鶴間さんが、ものすごく喜んでいたから良かったけど、眼鏡着用不可でニコニコ笑っていればいい、なんて無茶振りするんだから本当たまったもんじゃない!)


 すみません、鶴間さん。生意気なことを言ってしまいました。でも本当に眼鏡がないと周りがよく見えないのです。ニコニコ笑っているように見せかけて、ずっと目をしかめて少しでも視界が見えるようにしてました! だから一目惚れされるようなことは、絶対にないと思います。


「まさかの男の子だと気づかないほど可憐に微笑む福田くん。まるでキャラクターが、そのまま現実に現れたかと思ったよ。しかもあのキャラクターは賛否両論の評価があるから、君に何かあったらと不安で自分の買い物を忘れて、撫子さんと共にサークルの周りで危険人物がいないか監視していたんだよ」


(おいおい、何やってくれちゃってんですか! 監視って、どういうことですか!?)


 懐かしそうに目を細める柳橋くん。その話に姉さんも加わった。


「そうそう。しばらくして一般参加の子かな? 『もしできたらでいいので、これを持って一緒に写真を!』と言ってピンクのボールに手書きで顔を書いたマスコットロボ風のものを差し出されたのよ」


 姉さん、それって一般参加者の私物だったんですね。いきなり渡されて『これを持ってしばらく笑っていろ』と命令されたのを覚えている。そういえば写真撮影をされてるような気がしたけど、やはり気のせいではなかったのか。


(いや、待て。いくらコスプレしているとはいえ、写真撮影は会場内は禁止だよね? え、それって不味いんじゃないの!?)


 その日以外でも写真を撮られていたような気がした。


「それは大丈夫。覚えてないようだけど、あんたがいた場所はコスプレエリアだから。売り子として会場にいたけど、あんたを見に来た人が集まり出して、運営からコスプレエリアに移動をお願いされたのよ」


 はあ? コスプレエリアに移動をしていた? だから途中で「飲み物を買いに外に行け」と姉さんに言われたんだ。それで眼鏡を掛けようとしたら誰かが「自分が一緒について行くので、そのままで」と言って手を引いてもらいながら会場の外に出たんだよね。


(も、もしかして手を引いてくれた人って……柳橋くん?)


「いやあ、ブースの同人誌が完売したから売り子と共に探しにいったら、お前が女の子の手をつないで外に行こうとしているじゃないか。何事かと追いかければ、女の子じゃなく男の子だというし、写真撮影をするから、しばらく彼から離れられないとか言うし。そんな積極的な行動している柳橋を初めて見たから『今日、ここに来て良かった』と思ったね」


(ああ、間違いない! あの時、僕の手を引いてくれたのは柳橋くんだったんだ!)


 ちなみに櫻森くん。君は、まだイベントの闇を知らないから、そんなことを言えるんだよ。初めてが突発のサークル参加で難なく会場入りできた……その優越感を、君は知らないだろう? 一般入場者が、どれほど朝早く家を出ようとも、回避するために近くのホテルに泊まろうとも、タイミングによっては長蛇の列に並ばざるをえない環境を、柳橋くんがサークル参加し続けるのであれば、君は知ることはないだろう。


「イベントの度に彼、次回ウチのサークルがあんたを参加させるのかを確認してきてさ。メールで連絡しよう、って言っても、『撫子さんの手書きのお葉書をいただきたいので結構です!』だって。おかしいよね、今どき手紙がいいって言う高校生なんて、いないんじゃない?」


 そんな姉さんに疑惑が浮かぶ。イベントで柳橋くんに会っているのなら当然、僕が櫻森学園に入学することを柳橋くんは知ったはず。その柳橋くんは櫻森学園に編入してきた。


(学園の報告は、僕じゃなくて柳橋くんに頼めば良かったのでは?)


「あんたが考えていることに答えるわね。彼、手紙で連絡を取りたがるから内容がタイムリーではないのよ。だから、すぐに連絡がつくあんたに報告させてるワケ。でもあんたも忘れることが多いから、こっちに頼もうかしら?」


 姉さんの視線が櫻森くんに向けられる。慌てる櫻森くんに一瞥をくれると柳橋くんが答えた。


「あ、彼はニワカなので無理だと思います。仕方ないので僕がメールで連絡をします。それでいいですか、撫子さん」


「あら、そう? まあ、季節のご挨拶は手紙で出すから楽しみにしておいて。あ、隆は継続だからね。忘れるなよ!」


 せっかく柳橋くんが名乗り出てくれたのに、お役御免にはなりませんでした。これじゃあ、適当に報告できなくなるじゃないか! 最悪だ。


「あ、せっかく推しがいるんだからサイン入れてもらえば? 記念になるでしょう?」


(え、姉さん。今、なんて言いました? サイン、ですと!?) 

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