その4
そんな紆余曲折を経て、なんとか姉さんの機嫌を損ねることなく謝罪を受け入れてもらうことに成功しました。おそらくイケメン高校生が僕の両脇にいたからだと思います。
(二人がいなかったら僕の命は、なかったかもしれない。ありがとう神様! ありがとう僕の両脇にいるイケメン高校生たち!)
ほっと胸を撫で下ろして、では家に入ろうとしたのですが、先ほどの姉さんと柳橋くんの会話を思いだし、恐る恐る柳橋くんに訊ねた。
「つかぬことをお聞きしますが、柳橋くんは姉さんとは面識があるのかな? 櫻森くんは知っていたの?」
(姉さん、柳橋くんに久しぶりにあったような口振りだったし、車の中での柳橋くんは挙動不審だったし、これは何かあるな)
見た目は高校生、中身は腐男子の僕の推理は……どっかで知り合ったのかな? 程度の浅い考えしか思いつきませんでした。僕に高校生探偵は無理のようです。
「あら? あんた、もしかして自分の推しなのに気づいてないの?」
(おし? オシ……OC……押し……え、まさかの『推し』!?)
「やだな、撫子さん。それは言わない約束だったじゃないですか!」
そう言って照れたように頭をかいた柳橋くん。世間では、姉さんのことを撫子とは呼ばない。呼ぶとすれば、あのオタクが集まるイベント会場でしかない。そう、『撫子』とは、同人作家である姉さんのペンネームだからだ。つまり、その名を知っている柳橋くんは姉さんが腐女子であることを知っている、ということになる。
(僕の姉さんが同人作家だと知っていて声をかけたってことなら、柳橋くんはオタクの祭典も知っているってことだよね?)
「おいおい、二人とも。衝撃の事実に【姫】が固まっているぞ?」
櫻森くんの言葉に、今まで以上の衝撃を受けた。
(やはり櫻森くん、実は柳橋くんがオタクということを知っていた! あ、恋人だから知っていて当たり前か! そうなると櫻森くんが車で言っていた『イベント前になると……』というのは、もしかしてオタクの祭典のことか!?)
もし柳橋くんがイベントに行ったことがあり、姉さんのサークルに足を運んでいたのなら、売り子をしていた僕のコスプレ姿を見ているかもしれない。
(その時の僕は眼鏡がないから、柳橋くんとは初対面だと思ったけど、実は何回か会っていたかもしれないってこと!?)
両親のぶっ飛んだ行動に引き続き、柳橋くんのオタク認定と、入学前に出会っていたかもしれないことに僕の頭の中はパニック寸前です。姉さんは、僕の様子をニヤニヤと両親と同じ笑みを浮かべて見ています。
(ちょっと待て。僕の横にいるセレブの申し子が、僕のバイブルたちの生みの親ということ!? それって僕の家で『祝、親子ご対面!』ってことだよね? と、いうか推しだっていうなら、その人と仲良く学園生活を送っていたってこと!? 何それ、尊くない!? 尊すぎて無理、もう何も考えられない!)
本当にパニックになりました。気絶再び状態です。心臓が止まりそうです。姉さんに殺られる前に自分自身に殺られました!
「福田くん!?」
「【姫】大丈夫か!?」
慌てて僕の顔を覗き込む柳橋くん。ふらつく僕の身体を支える櫻森くん。心配してくれるのは、ありがたいけれど情報処理が追いつかないので、今は反応をすぐに返すことができません!
「あぁー、これはキャパ越えしてるわね。しばらく弟は動かないから、二人で家の中に運んでくれる?」
さすが長年一緒に育った家族の絆は伊達じゃありません。姉さんの的確な指示により、ようやく僕らは家の中に入ることができました。
その頃「有限会社 金沢文庫」の社員の方々はーー
「……福田くん今、気絶していなかった?」
ワンボックス内でドローンから送られてきた映像を車内に取り付けたモニターで見ていた青葉がボソリと呟く。
「福田くんのお姉さん、柳橋くんのことを福田くんの『推し』って言ってましたが、福田くんたちは学園で初めて会ったはずです!」
一年生だけの最初の学級委員総会。その際の出来事を思い出した渋谷。
「いや福田ではなく、姉の方と面識があるようだぞ」
映像の内容を、ありのまま伝える和泉。
「ところで、福田の姉上に家の中にドローンを飛ばしていいか今、直接聞いてきてもいいか?」
やはりというか、全く別のことを考えていた金澤。
『……さっきの青葉先輩といい、金澤先輩といい尾行の意味がなくなっていませんか?』
またもやビデオ通話で参戦している立川。
「ビン底の迷惑になってないから、いいんじゃねぇ?」
間近で車内の四人の行動をマジマジと見ている瀬谷が答える。
ーーそんなことになっているとは知らずに、僕は櫻森くんと柳橋くんに両脇から肩を担がれ、二人三脚のようにして家に運ばれました。




