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その2

「クラウン? それだと俺たち三人の移動に最低三台は必要になってしまうぞ?」


(この人、一人一台が基本のようです。もしかして「あの車」だから一台で行けると思っていたのか?)


 ダメだ。この人たちに少しでも庶民の暮らしを教えておかないと、僕の心臓は幾つあっても足りなくなってしまう。


「僕が助手席、後ろに二人が乗れば一台で十分です! 庶民は相乗りが基本です!」


(三台の車列で移動するのが常識なんて、全く恐ろしい世界だよ!)


「助手席には櫻森が座るから、福田くんは僕と一緒に後ろの席に座るように。だけど一台に固まるのは、安全面に少し不安を感じるね」


(確かに学園の関係者だし、財閥の令息だもんな。そう言われると、一台で行くのは無謀だったりするのか?) 


 だが鳳凰マークの車は目立つし、デカいからお断りしたい。どうしたら納得するのか悩んでいたら、櫻森くんが渋々といった体で言った。


「仕方がない。実家のレクサスで行くとしよう。あれなら事件事故に巻き込まれても専任オペレーターにつながるから、すぐに対処できる」


「……専任オペレーター、ですか。それは最高峰のサービスですね。あははは……」 


(専任オペレーター! そんな機能があるんですね。まるで仕事をサポートしてくれる執事じゃないですか。しかも、あの鳳凰マークと同じ企業の車ですか……畜生、庶民の敵め!)


「そうだね。その方が福田くんの気が楽になると思うしね。まあ、それ以外のことは、こちらに任せてほしい」


 こちら、とは柳橋くんのことですか? 任せるって一体、何を任せるんでしょうか。櫻森くんは、『お前の考えは、俺には全て分かっている』と言わんばかりの顔をしてますけど。やはり、これは「愛が成せる技」なのでしょうか? アイコンタクトもバッチリと決まっておりますよ! きゃー、素敵っ!


(でも、どうしよう。二人のお邪魔になる予感。あ、でも僕の家に行くのが目的だから邪魔というワケでもないのか?)


 そんなことを悩んでいる僕をおいて、二人が話を煮詰めていきます。


「おそらく奴らも、こちらの動きに合わせて抜け駆けで行動するはずだから、特に情報管理と準備は慎重に進めるつもりだ」


「そうだね。あちらには実に厄介な人物がいるから、裏で根回しして確実に探ってくるはずだもの。慎重にいこう」


(奴ら? 厄介な人物? 一体、誰のことだろう。まさか、本当に誰かが追ってくるってこと?)


 何やら、きな臭さを感じるけれど、とりあえず昼食を食べて英気を養わないと!


「ちなみに、こんなに豪華な折り詰めは、学食の厨房にお願いしたのかな? メインの仕事以外で大変だっただろうに」


 僕の素朴な質問に柳橋くんが答えてくれました。


「いや、前もって柳橋家が利用している各店舗にお願いしておいたんだよ。和食は、銀座にある料亭の……」


「ストップ! ありがとうございます! それ以上は言わなくて結構です!」


 まさかの外注品。これ一つで幾らするのか、考えるだけでも恐ろしい。


「俺らも滅多に口にすることはないから、食べたほうがいいぞ。しかも柳橋持ちだからな」


 こういうところは庶民的なんですね。櫻森くんの言うとおり、せっかくだから食べちゃいましょう! もしかすると、これが最初で最後になるかもしれないからね!


 そんなこんなで各自シェアしつつ、楽しく食べながら再来週の日曜日に行くことが決まりました。到着は、道路の混み具合もあるので、お昼くらいになることを伝えるように言われました。すると櫻森くんから、こんな提案が。


「昼食は、近くのレストランを予約しておこうかと思っているのだが、どうだろう?」


(近くのレストラン? もちろんファミレスでないことは分かっているけど、セレブな方々との食事なんて、堅苦しいマナー必須なとこですよね!?)


 家の近くに、そんなところはない。それ以上に、家の住人が外食なんかした日には、お祭り騒ぎになって周りに多大なるご迷惑をおかけすることになる。


(けれど庶民の食事を出すのも失礼かもしれないし……どうしよう?)


 思考の渦に飲み込まれそうになった時、柳橋くんがニッコリ微笑んだ。


「今日みたいに折り詰めを持って行こう。そして福田くんの家を堪能しながら食事をしようかと思うのだけど、どうかな? そうすれば、堅苦しいマナーも、お昼の準備も気にしなくて済むし、一石二鳥でしょう?」


(この高級折り詰めが再び食することができるのですか! それならお願いしちゃおうかな?)


(……いや、待て。『家を堪能しながら食事』とは、僕の家は博物館か何かと勘違いしていませんか? まあ、豪華な弁当が付くなら良しとしよう)


 僕の思考を読んだのか、柳橋くんの提案をすんなりと受け入れた僕に、櫻森くんがまるで作戦失敗したかのように、苦虫をかみつぶした顔をしていましたけど、その方が庶民には助かるのだよ! すまない、櫻森くん。部屋は狭いけど僕は、この豪華な折り詰めを家族に食べさせてあげたいんだよ! 

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