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閑話・その時、哲子姉さんは…

電話の相手、哲子お姉さん視点です。

時々こういう話が入ると思いますので、ご了承くださいませ。

 この世に生を()けて十年と少し(言い方に語弊があります。二十年以上の間違いです:弟さん談)。大和撫子たる私、福田 哲子にとって今年の春は自分史上、最高の喜びと感動に満ち()()()()()季節であった。その理由を知りたい? 知りたいわよねぇ? いいわよ、特別に教えてあ・げ・るっ!


 近所に住んでいる幼稚園児の従兄弟(ガキ)が私たち姉弟を見つけるなり――


「ぼくたち、おおきくなったらケッコンするのぉ~! ねえ~、あっちゃん!」


 と、一緒に遊んでいた女の子(たまに男の子)の手を引いて、わざわざ報告しに来やがる。この従兄弟、クッソ生意気で十人並みの容姿のくせして結婚相手が月ごとに変わる。しかも元カノ、元カレたちは仲違いすることなく、従兄弟のハーレムに属しているから末恐ろしい。


 そんな豊かな老後ための将来設計なんて考えたこともないクソガ……幼稚園児のオママゴト的な恋愛に感動する、少女漫画のヒロインもびっくりな純粋でシャイで乙女な腐男子の弟が、ななななんとっ! 腐女子の私が太鼓判を押す、まさに王道学園と呼ぶに相応しい山奥の全寮制男子校、私立櫻森学園高等部に見事合格したのです! あっぱれ、よくやった弟よ! 褒めてつかわす。


 しかしながら一般家庭から、この学園に志願する者は皆無に等しい。だって国内有数の大企業や良家のご子息様が通う幼稚舎から大学までの、もちろん寄付金も桁違いの超エリート養成学校だもの。中学校の進路指導の先生からは――


「なぜ櫻森学園にこだわるんだ? しかも単願って……併願はダメなのか? 兎に角、今すぐ考え直せ。お前の学力なら入れる高校は、他にいくらでもあるじゃないかぁぁぁっ!」


 と、泣きながら願書提出の当日まで言われ続けたそうだ。まあ、落ちたらウチの両親からネチネチと嫌味を含んだクレームが待っているものね。悪夢、再びですもの。当時、私のクラス担任だった先生にとって、弟には絶対合格圏内の高校を受けてもらって、是が非でもクレームを回避したいわよねぇ。その気持ち、よく分かるわ。私も家では結構、言われましたから(遠い目)。


 交通の便がヒッジョ~ォに悪く、人里離れた山奥で思春期真っ只中(まっただなか)の男たちが親元を離れて暮らす三年間の寮生活。学力偏差値は全国津々浦々、数ある高等学校の中でも常にトップクラス。そして何より生活水準の違いを考えると先生だって心配するわよね?


 でも大丈夫っ! だって本人が萌えのために櫻森学園(そこ)への進学を強く望んでいるのだから。なんたって弟は腐男子ですもの。高校生活――約千日間を楽しめるかどうかが重要なんだから、そりゃあ無理してでも頑張りますわよ(笑)。


 ちなみに余談だけど、弟は中等部からの進学を考えていたみたい。まあ、唆したのは私だけど。でも学力と金銭面、そしてまだ幼いのに寮生活は、ちょっと……ということで両親に猛反対されたんだよねぇ。


 ただし今回は、少子化で年々生徒が減少していくのを防ぐため、学園が新たに設けた貧乏人にはありがたい返還無しの特待生奨学金制度を利用するということで金銭面は無事クリア。あとは勉強あるのみと楽しみにしていた中学生最後の冬の祭典を泣く泣く諦めたのよねぇ、あの子。可哀想だったけど、その努力が実って本当に良かった。これで、よりリアルな小説(はなし)を書くことができるわ。 期待しているわよ!



 そんなこんなで弟が入寮して早、三週間――。


 初めての寮生活。ホームシックになっていないかと両親が(さわ)……心配しているので仕事に創作に忙しい私が、わざわざ時間を割いて二日に一回の割合で電話をしているのだけど、当の本人は呆れるくらいに元気いっぱいだ。だったら、お前が直接自宅に電話して両親を黙らせろっ!


 と思いつつも、せっかくだから今日はネタを仕入れようと話を振るとアイツめ。私が傍にいないから生意気なことを言いよった! ムカついたので家にある弟所有の薄い本を全て廃棄処分にしてやろうかと思ったわよ。


『えぇ~と、まず僕より可愛い一組の渋谷くん、三組の深見くんは和風美人さんなんだよぉ』


 電話の向こうで怯えているのか、たどたどしい口調で話す弟クン。さっき私が言ったことを相当気にしているようね。あのねぇ、一冊の本を作るために作者がどれだけの愛と情熱と萌えを注いでいるか痛いほど分かっている同人作家であるこの私が、そんな鬼畜なことするワケないじゃないっ! まったくアイツは、私のことをどう思っているのかしら? 帰ってきたらカツ丼無しで取り調べよ!


 そんなこんなで髪をいじりながら()()()()()()()からの手紙に目を通す。メールでのやり取りが多い昨今、あえて手紙で、との申し出に少々面食らったわ。しかも本当に送ってくるとは正直思わなかった。どうせ社交辞令だろう、と疑っていたからね。


 こちらがそういう状況とは露知らず、弟は律儀に話を進める。


『そうだよ。二人とも初等部からの内部生で、そのときから親衛隊があるんだって、すごいよね!』


 うん、すごいわね……じゃないわっ! そんなことは、どうでもいいの。大体、親衛隊なんて男の(その)で顔が良ければ、多少性格悪くても速攻で結成されるに決まってるでしょうが! それよりも今は、この手紙の内容に集中しなければっ!


 だって弟が……一般家庭で育ったうちの隆が、めちゃくちゃ美味しいポジションにいるじゃない! しかも会話に出てきた渋谷くんと深見くんのお仲間じゃないの! グッジョブ。さすが私の弟、でかしたわっ!


 しかし弟よ。こんな美味しい情報を、何故すぐ私に教えない? 萌えは共有するものでしょ? 独り占めは姉さん、感心しないなぁ……はっ! まさか本当に自分だけで楽しもうってことなのかしら? もしそうなら姉さん、許さなくってよ、オホホホホッ。


 とりあえず友人の手紙には、弟と()()()()()()()()()今後は、この友人からも情報提供をお願いしよう。神様、ありがとうございます。私のライフワークである創作活動の糧となる素敵な縁を結んでくださるなんて。


「隆……」


『ハ、ハイッ!』


「明日までに調べなさい。いいわね?」


『へっ? あ、明日ぁ? ちょっと待って! 明日は日曜日で授業ないんですけど? それに僕、明日は……』


ハイハイ、存じておりますとも。私が知らないと思って誤魔化そうとしても、残念でしたっ! もうこっちは手紙(これ)で情報仕入れたから、逃げることはできないわよ? あぁ、明日の報告が楽しみだわ。その前に、もう一度念押ししておかないとっ!


「明日までよ? 分かった?」


 もしも誤魔化したらアンタの宝物、本当に全部処分してやるからねっ!

お読みいただき、ありがとうございました!

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