その2
そんな激闘の騎馬戦が先ほど終わりました。
今回、観察ノートの修正をしないといけないようです。渋谷くんの小動物を思わせる愛らしさの裏で、己の身を守るために牙を剥く子猫のような一面があるということを。口が悪くても、態度が悪くても元の可愛さは変わりません。でも、やはり男の子なんだということを実感しました。今後は怒らせないように気をつけようと思います。
「ちっ! 赤がまだリードしてやがるっ」
騎馬戦の点数が加算された合計点が発表されると、試合を無事に(?)終え、こちらのテントにやってきた渋谷くんが舌打ちして悔しそうな顔をしていました。渋谷くん、結局ハチマキは取られなかったけど、取ることもできなかったんです。
(渋谷くん、お願いです。以前の、姉さんに話した可愛い【姫】のあなたに戻ってください!)
さて残る1種目は、リレーになります。これは体育競技の花形と言っても過言ではありません。
それまで大人しく観戦していた青葉先輩が、僕に話しかけてきました。
「福田くん。お願いがあるんだけど、いいかな?」
「おい、何を頼もうとしている?」
金澤先輩の鋭い視線が青葉先輩に向けられます。僕を心配してくれてるのが嬉しい。だけど自分にできることなら、やってもいいと思ったんだけど……金澤先輩、ついでに僕を睨むの止めてください。
「いや、各競技の優勝者にトロフィーを渡すアシスタントをお願いしたいな、と思ってね」
青葉先輩の提案は特段、問題なさそうですが、金澤先輩が食ってかかりました。
「福田は写真撮影で席を外す。よって、アシスタントは絶対に無理だ! 諦めるのだな。どうしてもアシスタントが必要なら、他のヤツを当たれば良かろう?」
(金澤先輩、どうしても僕にアシスタントをやらせたくないようです)
「せっかくメイド服着ているから、生徒会のお仕事しているアピールができるでしょう?」
「そうだそうだっ! 今年は生徒会の役員だからゲルを諦めるかと思ったが、しっかり作って生徒会の仕事をサボったんだから、お前も手伝え!」
青葉先輩を後押しするように瀬谷先輩もアシスタントするように言ってきました。しかも金澤先輩にも話を振っています。
「サボってはいない。きちんと映像で会場を監視していたのだ!」
(金澤先輩、もしかしてカメラで撮っていたのは防犯対策でしたか。でも画面に写るのは瀬谷先輩ばかりでしたよね?)
「そういうことにしておくね。とりあえず金澤くんもお手伝いよろしく」
ニッコリと笑う青葉先輩。けれど副音声で「手伝わなかったら、どうなるか分かってるよな?」と言っているのは、気のせいではないはず。
「さぁて、リレーが始まるぜ!」
グラウンドには選手たちが入場してバトンを渡されています。リレーについて、簡単に説明しますね。
・学年別競技で200メートルを6人で走るクラス対抗戦。
・各クラスから6名の選手が選出され、学年ごとに競い合う。
・1着から3着までが得点になり、赤、白どちらが独占する可能性もある。
ということで……みんなの目が血走っています。怖いです! 余談ですが体育委員はクラスに1名なので、全てのクラスのアンカーは、もちろん彼らです。もう何も言いません。
「準備はできたか?」
瀬谷先輩が1年のトップバッターたちに確認します。そういえば言い忘れていました。僕のクラスは2組です。応援しなくちゃ!
「位置について……‥よぉい……」
パァンとスタートを知らせる乾いたピストル音が鳴り、一斉に駆け出す選手たち。先頭は抜かされないように、後方は追いつくように全力で走っています! やっぱりカッコいい!
「……福田くん、来年は400メートルで走らせなよ? あっという間だよ、たぶん」
青葉先輩が謎の言葉に首を傾げているうちにリレーの半分が終わっています。はぁ? ちょっと走るの速くですか?
「頼むぞ! 抜かれるなっ」
うちのクラスは現在、2位をキープしております。バトンを渡す人から渡される人へ次々にエールが送られます。
「お前に託したからな!」
「次こそ抜かせっ!」
まあ、これくらいなら普通なんですけどね。
「白組写真ゲットのためだ、死ぬ気で走れ! 2組を抜けるなら死んでもいいからなっ!」
「2組、勝ちを譲れ! お前らは同じクラスだろ!」
などと外野が騒がしいのです。そう、うちのクラスへの罵倒がハンパないんです! でも2組だって負けていません。
「ふざけんな! 【姫】の貞操の危機なんだぞ!」
「同じクラスで何が悪い!」
走る選手より応援している外野の方が白熱してますけど……いいのか、これで。しかも先輩たちも便乗してくるから大変です。2組だけ完全にアウェイです。




