そして白熱する生徒たち
写真撮影の権利獲得のために白熱する選手たち。ある者は喜びを、ある者は悔しさを、ある者は悲しみを僕に伝えてきました。嘘でしょう? そんなに僕と一緒に撮りたいんですか? まるで戦隊ヒーローショーの撮影会じゃないですか。僕と握手したって嬉しくないでしょう? とツッコミを入れたくなりました。
「やはりカメラ越しより臨場感があっていいものだな。おい、福田のお茶がなくなったぞ!」
只今、金澤先輩のゲルは撮影会場に変更するため機材を搬出しております。なので体育祭観戦は生徒会のテントで行うことに。日焼け止めをベタベタ塗りたくりながら、金澤先輩が付き添いのメイドさんに指示を出してます。
「金澤先輩、僕の仕事って一緒に観戦することなんですか? 僕は先輩のお世話係なんですよね!? 明らかに僕のほうがお世話されてますけど?」
テントには(一応)体育祭総指揮をつとめる瀬谷先輩。生徒会役員の青葉先輩、金澤先輩の3人。あとは(メイド服を着ているだけで)何もしてない僕と、お茶汲みしている人、先輩たちの肩を揉んでいる人がいます。
あ、学園長や先生方は、ここにはいません。自主性を重んじる櫻森学園。学園の行事は全て生徒たちが企画立案をし、学園長の承認を得て行われる。だから教師一同は、行事の企画段階で生徒に丸投げ……ではなく生徒に任せて不測の事態に備えて(?)職員室で待機しているらしい。
「僕の話し相手として立派に役目を果たしているであろう? 何をそんなにイライラしているのだ? ほら、これでも飲んで気持ちを落ち着かせろ」
金澤先輩から氷入りのグラスを渡されました。黄金色した液体が入ったそのグラスは、しゅわしゅわと気泡が見えますが、まさか。
「スパーリングワイン……と言いたいところだが未成年なのでアップルサイダーだ。安心するがいい」
(そう言う金澤先輩のグラスも同じ物のようですが……まさか本当はワインじゃないですよね?)
僕のグラスに自分のグラスを当てると「乾杯」と鳴らして、金澤先輩は優雅な仕草で中身を一口含みました。さすが金澤家の坊っちゃん。実に様になっています。
「……騎馬戦の勝敗が、決まったな」
僕たちの横で瀬谷先輩が騎馬戦の点数の集計をしております。本来なら会計の和泉先輩がやるのですが現在、会長の監視のため席を外しております。なので、その代役を瀬谷先輩がすることになりました。
(さっきの騎馬戦、ちょっと僕の思っていた騎馬戦とは違う……怖かったよぅ!)
余談ですが、これまでの騎馬戦の状況をお伝えします。赤組、白組の各学年で3騎ずつ。9対9の対戦になりました。あ、1学年(意外と少ない)6クラスなので、クラスで1騎作っていることになります。
相手の額に巻いてあるハチマキを奪うと5得点、逆にハチマキを死守できたら3得点になります。点数を稼ぐには当然、奪って死守できたほうがいいに決まっています。そうそう、奪ったけど取られた場合はプラマイゼロになります。
今年の騎馬戦は「今までにないほど、あわや乱闘に近い形での対戦だ!」と目を輝かせた瀬谷先輩がマイク片手に興奮しておりました。そうだよね。見目麗しく、品行方正だと思っていた人たちの抗争状態を目の前で拝見した僕としては、現実のものとは思えませんでした。
「ハチマキを取られるなっ! 絶対に死守だぞ!」
「行くぜ! 写真ゲットのためにっ!」
「お前の寄越しやがれっ! 点数稼いでやるっ!」
などなど、罵声が響き渡るグラウンド。騎馬戦のはずが、由緒正しいお家のご子息様が、先ほどよりも汚い………もとい酷い言葉を発しながら戦っております。この場にご家族の方がいなくて良かったですね。
「白熱してるところだが、残り時間は30秒を切ったぞ。頑張れよぉ」
砂埃舞うグラウンドの選手に向けて瀬谷先輩がマイクで残り時間を知らせると、さらにヒートアップした! どう見ても乱闘です。騎手の人、ハチマキを取りにいくフリで相手を殴っていませんか? 騎馬の人たち、蹴りあっていませんか? おいおい、いいのか? ありなのか!?
「そこまでぇ。スタートラインまで戻れぇ」
ハチマキを取った騎馬、取られた騎馬が戻る中、瀬谷先輩の声が聞こえないのか2騎だけ、まだ取り合いをしている。よく見ると1年の騎馬ですね。
「テメェのクラスなんだから、頼んだらいつでも撮れるだろうが、クソがっ!」
「ざけんなっ! 櫻森となぜか柳橋の鉄壁のガードで、こっちは近寄れねぇんだよっ!」
赤組の騎馬、うちのクラスだったんですね。白組は……渋谷くん、あなた【姫】ですよね! なんで騎手として参戦してるんですかっ!
「あぁ。渋谷のヤツ、騎手を交代してもらったって張り切ってたからな。他人任せにできなかったんだろうな」
「いやいや、瀬谷先輩! 時間なんだから止めましょうよ! なに呑気なことを言ってるんですか!」
渋谷くん。確かに、君は「絶対に勝つ」って言ってましたけど……まさか騎馬戦に参戦するとは思いませんでした。




