その2
誤って消してしまいまして、慌てて下書きから持ってきました。
前と違うところがあるかもしれません、スミマセン!
『ふぅ~ん、あっそ。で、そのコたちわぁ~、中等部からの持ち上がりなのぉ~? 写真わぁ~? 親衛隊はあるのぉ~? 部活か委員会に在籍してるぅ~? 家族構成と彼氏の有無わぁ~?』
テンションが低くて語尾が伸びてる……ということは、姉さんは今、サラサラなセミロングの黒髪を人差し指にクルクルと巻きつけながら――たまに毛先の枝毛を確認しつつ――上・の・空・で・人の話を聞いているんだろうね。さすが姉さん、相変わらずで何より。しかし、興味無さげなのに、しっかり情報収集してしまうのは、腐った男女共通の性なのだろうか?
「えっと確か二人とも初等部からの内部生で、そのときから親衛隊があるんだって、すごいよねぇ。写真は写真部が撮影したもので、親衛隊か生徒会の公認がないと販売できないんだって。で、その売上金は全て生徒会運営費になるから当然、隠し撮り及び個人での販売は厳禁。ばれたら親衛隊の制裁が待ってるってさ。ちなみに販売は不定期だから、今は持ってないよ。部活は……後で調べます」
『……』
「そ、それと家族構成と彼氏の有無については、クラスが違うから今度……(返事がない、ヤバイッ!)ゴメンナサイッ、スミマセンッ! ソッコーデ、シラベマスカラッ!」
まずい、姉さんが無言になっちゃったよ! 二人の話を始めたら悪寒はするし、スマホから妙な気を感じるんだよね。こういうときって本当ロクなことがないんだよなぁ。しかも今の僕、アイスをこよなく愛すボ〇ロの青いお兄さんみたいな喋り方になってるし!
『隆……』
「ハ、ハイッ!」
すでに涙目になっている僕に、姉さんから非情な一言が。
『明日までに調べなさい。いいわね?』
「へっ? あ、明日ぁ? ちょっと待って! 明日は日曜日で授業ないんですけど? それに僕、明日は……」
『明・日・ま・で・よ・?・ わ・か・っ・た・?・』
「あ、あのぅ……一週間いや、せめて二、三日待ってもらうってことは?」
無駄な足掻きと分かっていたけど、結果は案の定でした。
『……年の瀬の三日間、しかも去年は珍しく牡丹雪が舞う極寒の中を、戦場と化した国際展示場で歴戦の猛者どもと闘ってきた、か弱き乙女を労る慈愛の心をアンタは持ってないんかいっ! 受験生だからと、自宅待機のアンタのために代金こっち持ちで長蛇の列に並んで(なくて事前に対象のサークルさんにお願いして用意してもらった)購入希望リストの(私の趣味ではない)本を全てゲットしてきた姉に対して、そういう態度を取るワケ? あぁ、そう……分かった。今年の夏は、パンフレット片手に大量の汗をかきつつ、なかなか進まない長蛇の列に並び、水分補給をしながら灼熱地獄で苦しむがいいっ!』
「……‥ハイ、ワカリマシタ。ガンバリマス(たぶん)」
今度は、ひと昔のロボットみたいに抑揚のない平坦な声になってしまった。しかし一体、何が姉さんの琴線に触れたんだろう? 二人とも初等部からの親衛隊持ちだから? それとも限定ブロマイド販売だから? それだけで貴女、萌えませんよね? うむぅ~、解せぬ。
それにしても三ヶ月以上前の出来事を恩着せがましく言うところが姉さんだよなぁ。何が、か弱き乙女じゃ! それに長蛇の列に並んだのは貴女ではなく、今回も手伝ってくれた売り子の一人、鶴間さんでしょうが。彼女に感謝しろ、と言ったこと忘れとんのか? しかも当初、同人誌の代金は姉じぶんが持つと言っておきながらイベントから帰ってきて開口一番、高校落ちたら金返せって言いましたよね? 頼んだとはいえ、中学三年生に三万五千円の出費はデカいんですけど。だから僕、頑張りましたよ!
萌えと……同人誌代支払い回避のために――。
『じゃあ、そういうことでまた明日、今日と同じくらいに連絡するわ。よろしくねっ!』
晴れやかな笑顔(?)でそう言うと、とっとと切りやがりました。相変わらず勝手な人です。目の前のスマホの画面が待受画面に切り替わったと同時に大きな溜息が出てしまった。仕方ない、明日二人に直接聞くことにしよう。あぁ、気が重い。
「……【姫】か」
実は、姉さんに未だ話せず内緒にしていることがある。
王道学園の常識。それは、生徒会役員の選出方法だ。この学園も当然、そのシステムに則のっとっているのだが、少しだけ異なるところがある。
進級後、すぐに学級委員がクラス投票で二名選ばれる。一人は【若】と呼ばれる抱かれたいと思う人、もう一人は【姫】と呼ばれる抱きたいと思う人。任期は一年で翌年以降、再選は無し。そうしないと毎年同じ人が選ばれることになるからだそうだ。(昔それで、ひと悶着あったらしい)
でもって【若】と【姫】は、当然のことながら選りすぐりの見目麗しい者たちで構成されている。そして学年末に一、二年の【若】【姫】経験者の中から再度、全校生徒による人気投票で次期生徒会役員が決まる――という、我が校ならではのユニークなシステムなのだ。
余談だけど、中等部でも同じ方法で役員の選出をしているそうだ。ただし高等部に進級した時点で、それまでの経験値はゼロになる。なぜなら成長期に入り、容姿や体格が急激に変わる場合があるからだとか。だから再選無しとはいえ中高で各々それぞれ一回、学級委員に選ばれ、高等部の学年末の投票で生徒会役員を引き受けた方々は、眩しすぎて目を逸らしてしまうほどの超美形なのである。
ちなみに中等部で生徒会役員を経験した方々は、選ばれても何故か皆さん辞退するそうだ。やっぱり王道学園絡みの苦労があって、二度とやりたくないのかなぁ~、なんてね(笑)
「つまりBLでいえば【若】が【攻め】で【姫】が【受け】ってことなんだよね。分かりやすいっていえば分かりやすいんだけど……」
思わず遠い目をしてしまうのは、未だに自分が納得していないからだ。
「なんで……なんで僕が【姫】に選ばれるワケ? 僕より可愛いコ、たあぁ~くさん、いたのにっ!」
おっと、思わず地団駄を踏んでしまった。まあ、誰も見ていないからいいか……って、違うっ! そんなことは、どうでもいいっ!
問題は、百歩譲って下げの中ちゅうである顔面偏差値の低いこの僕が、何・故・か・クラスの【姫】に選ばれてしまったことだよ! 全員一致――つまり僕以外のクラスのみんなが僕を抱きたいってことだよ? おかしいでしょう? 腐男子だから男同士の恋愛は、頼まれなくても全力で陰ながら応援しますよ。だってそれが腐男子ぼくらの萌えであり、糧かてですから。
だけど恋愛それに僕を巻き込まないでいただきたいっ! 櫻森ここに入学したのは、自分がボーイズラブするためじゃあ~ない! 僕は、あくまでBL観察及び妄想するだけの名も無き傍観者――いわゆるモブキャラであり、恋愛するなら可愛い女の子と幼い頃から決めているノーマル男子ですっ!(キリッ)
「それにしても、おかしいなぁ。事前調査によると、外部生は少ないから毎年【若】と【姫】は、持ち上がりの中から暗黙の了解で決まっているってことだったんだけど……どこで間違ったんだ?」
クラスの総意で決まったことだから、よっぽどの理由がないかぎり辞退するのは難しい。目立たずモブとして生きていく当初の目的からは、だいぶ外れるけど仕方がない。クラスの皆を敵にまわしたくないので引き受けるけど、来年の生徒会入りは断固拒否して……てか自意識過剰だね、僕。選ばれるわけないじゃんか!
あ、いつの間にか刑事ドラマ終わってた。最悪だ! 僕の萌えを返せっ!
お読みいただき、ありがとうございました。