その3
(なぁんて、感動のまま終わると思いましたか? そんなわけないじゃありませんか! この僕が主役なんですよ?)
赤組の演舞が終わって次は白組……というところで外が騒がしいな、と思ったら白組の渋谷くんが女装姿でゲルにやって来たんです。まだ白組の応援、始まってないですよね?
「「はぁ? 仕事をしているかの確認をさせろ(だと)?」」
渋谷くんの言葉を先輩と二人で聞き返してしまいました。しかも同じタイミングで、ビックリしましたよ。
「申し訳ありません。福田くんを疑っているわけではないんです。ただ一部の生徒から、サボっているんじゃないかって話から広まって、メイド服を着ているのも嘘なんじゃないかって。だから今すぐにグラウンドに連れてこい、ということになってしまったんです」
(本当に申し訳なさそうな渋谷くん。でもそれって渋谷くんのせいではないよね? この僕の似合わないメイド姿を見たい奴らのせいだよね?)
「真琴たちは、何と?」
金澤先輩の問いに渋谷くんが答える。
「それが……」
それから先を、なかなか言わない渋谷くん。どうしたんでしょうか?
「そちらの様子は、映像を見ていたから確認している。あのバカが福田を見たくて騒ぎ出したんだろう。仕事をしてないのはお前のほうだ!」
青筋を立てて怒る金澤先輩に渋谷くんが苦笑いをしている。そうなんです。実は赤組応援団の演舞後、仕事をしない生徒会長さんがグラウンドに現れて開口一番、僕がいないことを問題視したんです。そこから丸く治まっていた僕が体育祭に参加しないことに対して、疑問に思っていた一部の生徒から僕をグラウンドに呼べ、ということになったようなんです。
「メイド服は着ているし、仕事もしっかりと勤めているというのに!」
(先輩、仕事を僕はしていません。先輩の隣に座って一緒にお菓子食べて観戦していただけですけど?)
先輩の後ろに控えているメイドさんたちも困惑を隠せない様子です。このままだと、お昼の時間が押してしまいます。そうなると学食で準備をしている方々に迷惑をかけることになります。僕は金澤先輩のゲルでお昼をいただくことになってますが「空気を読める男」として、この事態を見過ごすわけにはいきません!
「僕、グラウンドに行きます。行けばみんなが納得するんですよね?」
渋谷くんに確認すると、少し悩んでいたが小さく頷いた。白組の演舞は、まだ行われていないことを考えれば早く行かないと時間だけが過ぎてしまう。
「福田、僕も行こう。あのバカに一言、物申してやる!」
金澤先輩からも後押しされ、僕たちは急いでグラウンドに向かった。駐車場を挟んだ向かい側にある学園のグラウンドにーー。
「……生徒会長さんは、どちらに?」
到着したグラウンドは、思っていたのとは違う雰囲気が漂っていた。生徒会のテントには瀬谷先輩しかいなかった。青葉先輩たちは、どこにいるのだろう?
「やっぱり来たか。すまんな、あともう少しで終わるってのに」
瀬谷先輩が笑顔で出迎えてくれました。ちょっと、何で笑顔なんですか? よく見れば会場の皆様方が怯えているような気がします。
「何なんだ、この雰囲気は。あのバカは、どこだ! 一言言わねば気がすまん!」
金澤先輩はお怒りです。それよりも、せっかく盛り上がっていた体育祭がお通夜のように静まり返っているのは、なぜですか?
「あのバカは青葉たちがシメに、バカに賛同した奴らは櫻森と柳橋がシメに行った。バカはともかく賛同した奴ら、櫻森に楯突いたと言われて慌てて謝罪したんだが有無を言わせず、バカ共々体育館へ連れて行かれたぞ」
な、何と! あの格好のままシメに行ったんですか? え、僕も行きたい! 櫻森くんに罵倒される生徒たち。柳橋くんが櫻森くんを宥めつつ生徒たちをチクチク嫌みで締め上げるーー見たいっ! その光景、見たいです!
「シメられる人は分かるけど、何で残っている人までお通夜状態なんですか?」
大騒ぎしている時にゲルにやって来た渋谷くん。この状況に驚いているらしい。
「ああ、青葉が絶対零度の微笑みを炸裂させたからな。アイツは魅惑と冷笑、使い分けが上手いからなぁ」
(青葉先輩は、そんなスゴい技をお持ちなんですか? やっぱり体育館へ行ってみよう!)
思い立ったが吉日、と言うわけで体育館に向かおうとした僕ですが、慣れないウィッグが外れそうになったんです。慌てて手で押さえようとしたら眼鏡に当たってしまい、一気にパニックに陥ってしまいました。
「め、眼鏡っ! 僕の眼鏡はどこですかっ!」
「お、落ち着いて! 福田くん、顔に引っ掛かっているから落ちていませんよ!」
かろうじて耳にかかっていたのでウィッグを直して、眼鏡をかけ直す。良かった、落ちなくて。




