表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/56

その2

 いつの間にか画面は、小休止を兼ねた応援合戦が始まろうとしていた。赤白の学級委員がグラウンドのトラック中央のスペースに羽織袴の姿で集まってくる。


「うわぁ、やっぱり男子カッコいい! マジ女子可愛い!」


 僕もそうだけど、【姫】たちは自然な黒色や明るい栗色など、色とりどりのストレートロングのウィッグを付けています。しかも、うっすらとメイクもしているので本当に女の子に見えます。しっかりとメイクすれば、今でいう女装男子にも負けない可愛さです 。


「あ、先輩すみません。少しだけでいいので、赤組を映して貰えますか?」


 ちょうどドローンからの映像が赤組に近かったので、思い切って金澤先輩に頼んでみた。すると僕の頼みを嫌な顔せず聞いてくれ、先輩は画面いっぱいに赤組を映してくれた。


 まずは赤組からの応援が始まる。中央で指揮を取るのは3年の【若】の先輩たち。その左側に2年、右側に1年の【若】たちが横一列で並ぶ。その【若】の真後ろにペアの【姫】が待機している。


 当然、櫻森くんの後ろには誰もいない。ポッカリと空いているスペースに少しだけ罪悪感が胸に広がる。


「福田、そんな顔をするな。彼も、他の奴らも混乱を回避するためだ。仕方あるまい」


 やっぱり金澤先輩は優しい。今も僕のことを気にかけて、メイドさんにクッキーを出すように声をかけている。


「ほら、これでも食べろ。金澤家のパティシエが作ったものだ。選ばれし者しか食べることのできない貴重なものだぞ!」


 そう言うと先輩も1つ摘まんで口にする。せっかくなので、僕も頂いたんですが……ナニコレッ!? サクッとした食感がしたと思ったら、舌の上に乗った瞬間、ゆっくり砕けていくんです。身近なものに例えると玉子ボーロみたいな感じ。甘すぎず、バターが強めでもないのに、しっかりと風味はあって……けれど、しっかりとクッキーなんですよ! ああ、自分の語彙力のなさが恨めしい。この気持ち、どうにか上手く伝えたい!


「どうだ? 上手いだろう?」


 いたずらが成功したかのように笑って僕を見る先輩。控えている人たちも仕事中(?)でありながら、ドッキリの成功を祝うかのように拍手している。


(こんな僕にも優しくしてくれるなんて……この人たちには感謝しないといけないな)


 思わず涙が出そうになって俯いてしまう。先輩もそうだが、使用人の方たちも優しいなんて。


 少し前、メイド服に着替えようとした時、後ろのチャックが上げれなくて、近くにいたメイドさんにお願いしたんだよね。先輩からも言われているのか、すぐに手伝ってくれたんだ。その時に、そのメイドさんから「眼鏡が雲ってますよ、お拭きします」と言われて渡したんだけど。


「……坊っちゃんの言うとおりだわ。なるほど眼鏡はプロテクターなのね」


 そう言うとメイドさんは(見えないので、おそらく)眼鏡を拭いてくれた。そのすぐ後に様子を見に来たメイドさんが僕のいる簡易の試着室にやってきた。


「失礼します。お着替えはお済みになりましたか……あら嫌だわ、可愛いじゃない。坊っちゃんが気にいるわけね」


 すると続けて別の女性の声が聞こえた。


「どうしました? え、もしかしてあの子なんですか!? もったいない!」


 と、後から来たメイドさんたち(見えないので、おそらく二人)に意味不明な感想を言われました。それ、間違ってます。ビン底眼鏡がメイド服着たところで可愛くなんかなりませんから! しかもメイドさんたちがせっかくだからメイクしておきましょう! と張りきってしまい結局、なされるがままにされました。


 そんなやり取りを思い出していたら、画面から瀬谷先輩の号令が響き渡った。


「これから、赤組の応援団から選手たちにエールを送るっ! 赤組応援団、前へ!」


「押忍っ!」


 赤いハチマキをした役員たちが瀬谷先輩に返事をすると、後ろに控えていた【姫】たちが動き出した。3年の【姫】の1人は、スタンドに乗せてある大太鼓の前に立ち、もう一人は太鼓が落ちないように支える。もう一人は、呼び笛を口元に運ぶ。2年の【姫】たちは横断幕を広げ、1年の【姫】は(一人足りないけど)赤色の旗を手に取った。


 そして団長の【若】が一度、大きく深呼吸をしてから赤組へ勝利のエールを送る。3年の【姫】たちのリズムに合わせて【若】たちが演舞を披露する。当日は参加できないけど、みんなが練習している姿を、この目で見てきた。だから今、こうして一糸乱れぬ動きに感慨無量だった。一筋の涙が頬を伝っていく。


「すっごく……カッコいいよ、みんな」


ありきたりな言葉でしか表現できない自分が悔しい。そんな僕にハンカチを手渡してくれた金澤先輩。


「感動できること、素直でいいと思うぞ」


 この人が兄だったら良かったのに、なんて思ってしまうくらい、僕は金澤先輩のことが好きになった。姉さんと交換できないかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ