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そして体育祭が始まる

 紆余曲折のうちに体育祭、当日になりました。あれから後日、慣例の羽織袴を着ての応援団には参加せず、僕は金澤先輩のお世話をすることを生徒会から全生徒に向けて通達されました。特に反対意見は出なかったようです。


 むしろ僕の不様な格好が見れなくて残念だ、と笑いながら言う生徒が何人かいましたけど……それ、正解です! こんなに似合わない女装なんぞ、見るもんじゃありません。あなた方の美的感覚は正常ですっ!


 さて現在、金澤先輩が建てたゲルの中で先輩の家からやってきた使用人さんたちと一緒に体育祭を観戦しております。ちなみに、どこにゲルを建てたと思いますか? 正解は野球部専用球場、ピッチャーが立つマウンドでございます。


 去年の体育祭の前々日に、いきなり金澤先輩の関係者がトラックで学園にやってきたそうです。その様子を部活帰りの野球部員たちが訝しげに見ていると突然、大荷物を抱えた職人たちがマウンドに入り、先輩のご命令だと言ってゲルを建て始めたそうだ。


 当然、せっかく綺麗に整備したグラウンドが荒らされた部員たちは大激怒。作業を止めようと揉めていたら遅れてやってきた金澤先輩から


『野球部で使用するアイテム、及び今回のグラウンド利用後の整備は、すべて我が金澤家が出す。それで手を打とうではないか!』


 すでにグラウンドに穴を開けてる状態で高らかに宣言されたそうだ。そう言われて部員も整備してくれるなら……でもそれなら早く言ってほしかった、と諦め半分で承諾したそうだ。可哀想な野球部。


 しかしゲルを撤去後に整備されたグラウンドが建設前よりも格段に良かったため、来年も使うのならどうぞ、とすでに利用予約がされていて部活も、その期間中は休みにしたそうだ。部のためなら理不尽をも受け入れる、さすが脳筋予備軍たちだよ。


 と、まあ去年のことは、これくらいにして金澤先輩が学園のグラウンドで行われている体育祭をドローン4台と遠隔操作ができるカメラ8台を使って(主に瀬谷先輩の)映像を見ております。


「やっぱり真琴が一番輝いている。そうだと思わないか?」


 先輩から話を振られ、どう答えればいいのか迷う僕とは違い、使用人さんたちは「当たり前でございます。坊っちゃまが選ばれた方なのですから」と皆さん異口同音で返事をしたことに驚きを隠せませんでした。


 業務用の大型自家発電を3台持ち込み、業務用スポットクーラー2台と観戦用の大型テレビとスピーカー。観戦用のソファとテーブルには氷の入ったグラスに紅茶が注がれております。しかも、おかわり自由だそうです。いくら一時的とはいえ、ちょっと凄すぎませんか?


「福田は、誰を応援しているのだ?」


 メイド服を着ているのに仕事もせず先輩の隣に座り、お茶しながら観戦している僕に金澤先輩が話しかけてきた。どうやら瀬谷先輩がお花を摘みに行ったらしい。先輩もさすがにドローンで追いかけたりしないようです。


「誰を、と言われても外部生なので友達らしい人は、まだいなくて。そうですねぇ……強いて言えば同じクラスの櫻森くんと同じ【姫】の柳橋くん、でしょうか」


 今回、紅白戦のため僕のクラスと柳橋くんのクラスは同じ赤組になった。ちなみに渋谷くんは白組だ。色が決まった時、すごく悔しそうにしていたけど赤組が良かったのかな?


「……そうか。公立の教育機関から、ここを受けるのは難関だったはずだ。よく、頑張ったな」


 金澤先輩は、そう言うと僕の頭を労るように優しく撫でてきた。ウィッグを装着してるから直接ではないけれど、その気持ちがくすぐったかった。


「あ、ありがとう……ございます」


 突飛な行動をする金澤先輩は、一部の生徒から腫れ物扱いされている。【姫】に選ばれ、生徒会役員にまで登り詰めたけれど、それは黙っていればの話。だから今回、お世話係と聞いて僕を生け贄にした、と思っている人もいるとか。


 でも、こういう優しさを知っている人もいるわけで……って、すごくいい話をしようと思ったけれど瀬谷先輩が戻ってきたら、再びテレビの画面に夢中になってしまわれました。その健気な様子に思わず笑みがこぼれてしまう。


(本当に瀬谷先輩のことが好きなんですね)


 と、心の中で呟く。瀬谷先輩が動くたびに金澤先輩は「この映像を拡大しろ」だの「もう少し右側から撮れ」だの指示を出している。瀬谷先輩がリレーに参加している時には、拳を上下に激しく振って「頑張れっ、抜かれるなっ!」と応援していた。


 BLとか関係なく、一所懸命な金澤先輩を見ていると彼のことを応援したいな、と思えた。一体、どういう経緯で瀬谷先輩のことを追いかけるようになったんだろうか。ちょっと気になった。

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