その3
瀬谷先輩が金澤先輩に抱きつかれて引き剥がそうしている様子に、古き良き時代の恋愛マンガを連想してしまった。
(ツンデレの猫みたいな金澤先輩。たぶん前世はシャム猫だったんじゃないかな。気位が高そうだけど、実は甘えん坊なところが、そう見えるのかもしれない)
そんなことを考えていたら、青葉先輩の視線が僕に向けられ、そのままフワッと微笑んだんです。(しっかりと確認いたしました! 眼福ものです)女優さんばりの笑顔にドキドキしている僕に青葉先輩が伝える。
「じゃあ、福田くん。君は体育祭当日、メイド服を着て、身を守るためも金澤くんのお世話係として彼のゲルで待機ね。みんなも、もし福田くんのことを尋ねられたら〈金澤くんのお世話係〉と伝えてもらえるかな?」
青葉先輩のこの発言に参加している全ての役員が一同、大きく頷いた。チラリと金澤先輩を見ると目があったのでお辞儀をしておいた。当日お世話になるからね。挨拶は大事です。
(良かったぁ! 金澤先輩のおかげで眼鏡をかけたままで体育祭に参加できそうだ。あれ? でもこの場合、参加って言えるのかな?)
頭を悩ましていると、ついと資料に目を向けた青葉先輩が説明を続ける。
「脱線ばかりで本当にごめんね。改めて競技について話すから聞いておいてもらえるかな。今年は時間も種目も減らしているから行う順番が変わるよ」
そう言って、役員に資料を捲って競技一覧表を開くように指示を出す。
「とりあえずラジオ体操については飛ばして……まず学年別、色別と交互に行う。例年どおり選手の誘導は三年が、グラウンドの整備は二年が担当でお願いします」
そこで柳橋くんが手を上げて質問する。
「すみません。今、青葉先輩がおっしゃっていたことは本来、体育委員が行うのでは?」
(言われてみれば、体育委員っていたはずだけど……その人たちは当日、何をするのかな? この会議にも出席してないようだし)
柳橋くんの問いに、なぜか和泉先輩が答えてくれた。
「奴らは競技に参加するから無理だ」
おいおい。参加するから無理って、どういうことですか? もしや体育委員は、運動バカしかいないとか。和泉先輩、もう少し分かりやすく教えてください!
「体育委員は、裏方というよりは運動部の助っ人みたいな立ち位置なんだよなぁ。だから体育祭と聞くと血が騒いで、むしろ全ての競技に参加させろって、うるさいんだ。部活動の大会も、自分の所属する部活以外でも参加したがるからな!」
体育委員について語ると豪快に笑う瀬谷先輩。その彼に抱きついたまま、うっとりした目で見つめる金澤先輩。やはり、ここだけ別世界ですね。BL的にも、いいと思います。すると和泉先輩が瀬谷先輩を指差してボソッと呟きました。
「その脳筋の長がコイツだ」
眼鏡の奥がキラリと光った(ような気がした)が、瀬谷先輩は気にしていない。むしろ嬉しそうに続きを熱く語り出す瀬谷先輩。
「おうよ。当日は余計なことに意識を持っていかれたくないからな。アスリートとして集中して挑まないと! と、いうわけで学級委員が出番なワケ」
(つまり体育委員とは、名ばかりの運動オタク集団、という認識で間違いないですか? ちょっと待て。スポーツ界の一線で活躍している櫻森の卒業生って、もしかして元、体育委員だったりして)
僕の予想は当たっていましたよ。瀬谷先輩が解説してくれました。
「サッカー、テニス、陸上などで活躍してる卒業生は学生時代、体育委員だった奴らなんだぜ。すげぇだろう!」
テレビでインタビューを受けている人がいますが皆さん猫、被ってますね。だって脳筋には見えないくらい落ち着いた雰囲気で丁寧な言葉使いで答えているからね。あの時はーー
(さすがエリート校出身の選手は、品があるなぁ。王子様みたいにカッコいい!)
と、思ってましたが実際は、僕の目の前にいる瀬谷先輩みたいな人たちだったとは。でもBL的には、そこからが始まりだからね。ガチガチの脳筋が恋を知ってから相手にアプローチするまでの過程が面白いんだよね。
勢いだけで突き進んじゃう脳筋に、振り回される想い人。周りも巻き込みながら二人は、やがて結ばれるーー昔からよくある定番の内容です。でも、それがいいんです!
すると小声で僕を呼ぶ、隣の席の櫻森くんに肘で小突かれる。
「……姫、帰ってこい」
(はっ! 今、どこまで話は進んでる!? また自分の世界に入りそうになってしまった。気をつけないと!)
「……ということで1年は後日、衣装を渡すので体育準備室に集まるように。福田くんは、すまないけど金澤くんのところの使用人から借りてほしいので、あとで彼に聞いておいてくれるかな?」
申し訳なさそうな青葉先輩の表情に、話を聞いてなかった僕は若干、焦りながら頷いた。




