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コスプレの有無

 外部生で経験値のない僕らのために、体育祭でのコスプレについて瀬谷先輩ではあてにならない、と判断され、書記の青葉先輩が説明してくれることになった。 (手元の資料を見返したら、役職名の後にちゃんと名前が書いてあった)


 まずは成り立ちから、と青葉先輩が説明に入る。


「我が校は、江戸時代から続く歴史があるのは知っているよね。学級委員が【若】【姫】と呼ばれているのは、その名残でもあるんだ。以前は生徒会長を【殿】副会長を【奥方】と呼んでいたんだよ」


 生徒会長が【若】から選ばれるとは限らないから、数年前に一般的な呼び方に変えたらしい。確かに生徒会役員は、学級委員の上役になるから【殿】と【奥方】でも合っているとは思う。これぞ古き伝統が現代社会の(BL)文化と融合している理想郷ですね。素晴らしい!


 だけど選出方法がアイドル総選挙みたいなものだし、万が一【姫】だった人が相反する【殿】に選ばれたら、さすがに萌えないですよね。その気持ち、よく分かります。【姫】から一気に【殿】へのジョブチェンジ。それってBLの王道から外れてませんか? いや、小悪魔な生徒会長もアリかもしれない。その操を守るため【若】だった副会長が周りを牽制するんだ。えっ、ちょっと良くない?


「で、コスプレなんだけど【姫】は女装してもらい会長【若】と組んで選手の応援してもらうんだけど……福田くん。君の場合は、眼鏡がないと見えないんだよね?」


 そう言って青葉先輩は僕の顔……というか眼鏡を見て遠い目をする。瀬谷先輩は眉が下がって、いかにも残念そうな顔をしているし。眼鏡男子の和泉先輩と、会議に参加しているのか分からない副会長の金澤先輩は、関心がないのか微動だにしません。二、三年生の【若】と【姫】も、困惑しております。


 青葉先輩、その通りです。僕は(何度も言いますが)眼鏡がないと周りの景色がモザイク仕様になってしまい、その場を動くことができないのです。そんな僕に姉さんは、眼鏡を外して微笑んで立っているだけでいい、とオタクの祭典で何度かサークルのプラカードを持って呼び込みさせられました。その時、かなりフラッシュを浴びた気がしたけど、まさか写真を撮ってないよね? 撮影は、決まった場所以外は禁止ですけど!


 姉さんのサークルは中堅(古株)なので、壁際の位置にスペースを構えていることが多く、たまにネットに上げてる人がいるんです。写真を載せるつもりなら、僕の顔はスタンプで隠しておいてください。プライバシーの侵害ですからね!


「困ったなぁ。眼鏡を外すと悪い虫が一斉にたかってくるだろうし。かといって、そのままだと素顔を知らない他の生徒たちからのクレームがきそうだし……ちなみにコスプレ用の衣装は羽織袴なんだけど、どうする?」


 そう言われても僕も、どう返事をすればいいのか分かりません。それにしてもコスプレって羽織袴なんですね。応援団の定番です。学ランもいいけど、やっぱり和装の方が男らしくてカッコいいよね! そうなると羽織袴で女装ということは、大正時代の女学生が着ていた、あの服装のことでしょうか? 振り袖だったら少し早めの成人式に見えるでしょうね。そういえば姉さんの成人式は振り袖だったなぁ。着付けてもらった後に「私、大和撫子ですから」ってドヤ顔されましたけどね。


「発言、よろしいでしょうか?」


 あれは同じ一年の【姫】の渋谷くんではないですか! 姉さんが情報を集めろと言っていた、あの渋谷くんです。やっぱり可愛い! 小さくて小動物みたいな愛らしさが庇護欲を駆り立てられるんですよね。腐男子である僕も守ってあげたい、と思わせる彼は、やはり本物のお姫様に違いありません。


「渋谷くん、どうぞ」


 青葉先輩の了承をもらい、渋谷くんは一礼してから話し始める。


「ありがとうございます。一年の学級委員と彼のクラスメイトは、素顔を確認していますので彼をガードすることは可能かと。また、櫻森くんと柳橋くんには矢面に立ってもらい、視線を二人に集中させれば、何とかなると思います」


 ええ、そうです。先日行われた顔合わせを兼ねた一年生だけの学級委員会で櫻森くんが許可もなく僕の眼鏡を奪ったせいで、みっともない素顔がさらされたのです。学級委員の方々には、本当に申し訳なかったです。でもその後の話し合いは、議題にない僕の警護についてと、姿を見せる見せないという内容に変わり、白熱した答弁がされていたのは謎でした。


「青葉と……渋谷だったか。それに関してだが問題ない。彼は僕と一緒に生徒会席で待機させる。あと彼には眼鏡付きでメイド服を着せておく。そうすれば誰も近寄ってはこないし、興味もなくすだろう」


今まで眠っていた(と思われる)金澤先輩が、やっと起きたかと思ったら突然、そんなことを言い出しました。役員一同、呆然としています。やっぱり、そういう反応になりますよね。


「……おいおい、まさか今年も?」


 恐る恐る聞き返す瀬谷先輩。今年も、って去年何があったんでしょうか。それについて金澤先輩から説明がありました。


「土埃の舞うグラウンドに朝から役員として参加するんだ。少しくらいは、こっちの意見も聞き入れてもらわないと困る」


 それが当たり前のような顔した金澤先輩に瀬谷先輩が噛みついた。


「だからっ、日焼けしたくないからとモンゴルのゲルをグラウンドに建てるな! しかも使用人を引き連れて……ってビン底を使用人として使うのか?」


 なるほど、理解した。去年の体育祭、金澤先輩はゲルにこもっていたんですね。

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