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学園生活は前途多難

こちらでは初めての投稿になります。

どうぞよろしくお願いいたします。


 読者の皆様、初めまして。福田(ふくだ) (たかし)と申します。僕は世にいう腐男子で、萌えのためだけに猛勉強をし、この春、念願であった自然溢れる山間(やまあい)の全寮制私立高校、櫻森(さくらもり)学園男子高等部に無事潜入……もとい、入学することができました!


 ちなみに、この高校を勧めたのは僕の姉であり、同好の士である腐女子の哲子さん。女人禁制(?)である男子高の日常を逐一報告しろ、とのことなんだけど……まあ僕自身、そのつもりだったからいいけどね。


『隆。アンタ、世間では大和撫子と称される清楚で見目麗しいこの私がムカツクくらい……コホン、嫉妬するくらい愛らしいわ。さすがは我が弟っ! だから告白されたら速攻ラ◯ンしてよ? あと付き合うかどうかは兎も角、告白してきた(あいて)のデータを二千字程度のメールでいいから三日以内に送信すること。いいわね?』


 大学を卒業し社会人二年目に突入した姉さんは、高校入学と同時にBL漫画家志望の同級生とコンビを組んで現在も同人活動に励んでいる。ちなみに姉さんの担当は小説で、近年はマスコミの取材や大物芸能人が堂々と訪れるようになった某国際展示場で行われる真夏の大イベントに出品予定の新刊合同誌の執筆に行き詰まったらしく、最近ストレス解消を兼ねたネタ探しのために僕のところへ頻繁に電話をかけてくる。とうとう現実逃避を始めましたね……締め切り、とっくに過ぎているよね? 毎度のことだけど相方さん、怒ってない?


 そんな話は、さておき新入生では珍しい一人部屋だから気兼ねなく話せるのはいいんだけど、そのおかげで同級生との接点が減っていることも、また事実。


 何せ姉さんの電話は、おそろしく長い――。


「姉さん、申し訳ないけど告白(それ)絶対にないから。何度も言うけど僕みたいな陰キャで平凡顔のモブキャラは、全く相手にされない学園(とこ)だから。大体、入学してまだ一ヶ月も経ってないんだよ? クラスメイトだって、うろ覚えだし……僕としてはBL観察(おんみつこうどう)のためにも、このまま誰にも気づかれず空気のように過ごしていきたいんだけど」


 夕食後、巷で話題になっている熱血刑事と殺人事件の犯人にさせられた主人公のスリルとショックとサスペンスなドラマを僕なりのBL妄想で楽しんでいる時に、その事件は起こりました。


 冤罪であることに気づいた刑事(せめ)が独房の隅で膝を抱えてうずくまっている主人公(うけ)に冤罪を晴らしてやると伝えると、やっと信じてもらえたことに涙を流し、主人公(うけ)刑事(せめ)の側まで寄って行く。そしてゆっくりと右手を刑事(せめ)に伸ばす主人公(うけ)。その手を握りしめ、お互い無言で見つめあう。このままキスしたら萌えるぅ~とか思っていたら、かかってきた一本の電話――着信音で姉さんだと分かって正直、無視しようかなと思ったけど後々のことを考えて()()出ましたよっ! そして予想どおりの内容だったので、嘘偽りのない真実と今後の方針について述べたのに、やっぱり姉さんは聞く耳を持たなかった。赤い蝶ネクタイした見た目は小学生の言うことには納得するくせに、血の繫がった実の弟に対して酷くないですか、それ。中身は同じ高校生なのに。


『アンタ何、言ってるの? 頭、大丈夫? あのねぇ、時間の長い短いは関係ないの。生きていれば人間、ある日いきなり突然うっかりフォーリンラブするものなのよ? だからいつ、どこでアンタを見初める男が現れるか分からないじゃないのっ! ヤンデレのボンボンやアラブのドS皇子は特にそうでしょ? 金に物言わせて、相手の話も聞かずに拉致監禁は当たり前。しかも、いろんな意味で手練手管に長けているから【受け】は、いつしか【攻め】好みの淫乱な花嫁に……なぁ~んて王道中の王道っ! まったく、何年腐男子やってるの? それに、アンタが季節外れの転校生だったら、これまさに王道じゃないのよぉぉっ!』


 そう言って奇声をあげた姉さんは今、スマホを持っていない手で拳を作り、それを天井に向かって高く突き上げているかと思われます。その姿は、おそらく某少年マンガの主人公の義理兄、◯オウ様ではないでしょうか。想像できる自分が怖い。


「確かにボンボン……って姉さん、いつの時代の人だよっ! まあ、確かにほぼ金持ちの息子しかいないけど、ヤンデレやアラブの皇子様は(うちの学年には、たぶん)いないし、好きだから閉じ込めて自分だけのモノにするっていう自己中な【攻め】や、そんなことされて絆される【受け】の心情を僕には理解できません。それに拉致監禁は立派な犯罪だからね! 気にしないのは二次元に住んでる人たちだけで、実際にやって世間様に知れたら家名に傷が付くでしょうが。日常の一部を己の妄想に置き換える……それが楽しいんだよ、()()()


『腐った男女(ひと)は、皆そうでしょうが! 私だって同じよ、アンタと何が違うの? 言ってみなさいよ。それからアンタ、時々現実的で腐男子として面白くないわっ!』


 同じ、だと? 冗談じゃないっ! 僕と姉さんの好みは月とスッポン、天と地ほどに違うし僕が時々現実的なのは、いつでもどこでも妄想が暴走する姉さんのせいだろうが! 


 ほのぼの癒し系、すれ違いの両片思いでキス止まり――小、中学生対象でR15が限界の腐男子としてはヘタレな草食系の僕と、酒池肉林、お道具、調教、下剋上――何でもアリのR18ぶっちぎりの肉食系の姉さんと、どう考えても話が合うワケがないっ! さっきも――


『生徒会長はイケメン俺様、副会長は美人腹黒って定番だけど、そんな二人が鬼畜眼鏡な風紀委員長に(ピーッ・自主規制音)で(ピーッ・以下同文)される話を何で美味し……面白いって思わないの?』


『旧校舎にお仕置き部屋があって、そこから夜な夜な(ピーッ・以下……)の声が聞こえる、ってことは?』


 と、大和撫子(自称)でありながら乙女の恥じらいは微塵もなく、しかもオブラートに包まず未成年者である僕に躊躇せず普通に訊ねてきたため、思わずスマホに登録している姉さんの電話番号を速攻で着信拒否しようとしたのは、ここだけの話。


 ふぅ、危ない危ない。そんなことをしたら僕、一生実家に帰れなくなってしまう。まあ、同じ腐った仲だから本音が出てしまったのかもしれないけど僕にはハードルが高すぎて無理な話です。


『兎に角、何でもいいからネタが欲しいのよ、ネタがっ!』


 姉さん、荒ぶってるよ……これは相当、煮詰まってますなぁ。ざまあ、プププッ。


「現実は甘くないのだよ、姉さん。ネタは提供しよう。だが、ネタの当事者には絶対にならないからねっ!」


 荒ぶる姉さんに――こちらの様子が分からないからこそできる――胸を張って意味もなくドヤ顔で答えると、一瞬の間をおいてスマホから地を這うような低音デスボイスが!


『……この前の即売会で買ったもの及び自宅保管の薄くて高い本の全て……今度の廃品回収日か、燃えるゴミの日にズッタズタに切り刻んで捨ててやるぅぅ!』


 えっ? マジで止めて、僕の大事なコレクションがっ! というか、お姉様は創作側だよね? 自分の同人誌(こども)が同じ目にあったら怒り狂うでしょうが!


「そっ、それだけはご勘弁を! 廃品回収って、ある意味公開処刑じゃないか! 僕のライフがゼロになっちゃうよ! えぇ~と……ま、まずは僕よりもずっと可愛い一組の渋谷くん、三組の深見くんは和風美人さんなんだよぉ~」


 己の命の次に大事な大事な同人誌たちのため、実際のところ隠れ腐男子でチキンハートな僕は、泣く泣く敵に塩を送ることにしました、トホホ。

お読みいただき、ありがとうございました!

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