前編
お久しぶりでございます。
天川さく でございます。かれこれ3年7か月ぶり。お元気でいらっしゃいましたか?
さて本作、念願の! ……ハロウィン企画(そういうのがあるのかどうかは不明)ものです。ようやく書けた。よかった。楽しんでいただけたら、さいわいです。
おじいちゃんのハロウィン限定カボチャ大福
天川さく
祥子へ
急なことで驚いただろう。
おれも驚いている。一緒だな。しょうがない。寿命には勝てん。
ということで、嶋太郎くんへ会心のデキの大福を渡した。
食え。
やっとお前へ渡せて、それで逝ける。
心残りはない。
お前はお前でしっかりやれ。
お前という孫を持てて、おれはしあわせだった。
生き切ったと断言できる。
どうだ、羨ましいだろう。
じゃあな。
──ありがとうな。
「……『イモ、カボチャは終戦前後に食いあきた。カボチャを使った大福なんざ、どんな客が食うってんだ。塩野大福商店の屋号が泣くべ』って言っていたのは誰よ」
祥子は鼻をすすって手紙をたたむ。
それでも、と隣に座った嶋太郎が祥子へハンカチを差し出した。
「おじいさんは、毎年この季節になると作っていたよ」
「──どうして知っているの」
「毎年、僕のところへ『試作品だ。忌憚のない意見を聞かせてくれ』って送ってきたから。クール便で」
「ぜんぜん聞いてない」
「祥子には言うなってさ。……血筋は争えないね。二人とも頑固だ。あきれるよ」
「それで今回の作品に嶋太郎は『これは美味しい』って答えたの?」
うん、としんみりと嶋太郎はうなずく。それから、はい、と喪服のスーツの懐から取り出した小箱を祥子へ渡した。
「まさか」
「おじいさんのハロウィン限定カボチャ大福」
「持ち歩いていたの?」
「うん。あ。保冷材を入れてあるから大丈夫」
そうじゃなくて、と額に手を当てる。
……コイツと離婚をして本当に正解だった。ハタチで結婚した自分もどうかと思うけれど、火葬場の、今まさにおじいちゃんが灰になっているのを待つこの時間になぜ渡す?
しかも、しんみりと火葬場の火葬炉のあるあたりを眺めている最中である。本当は煙突が見たかったのだが、現在の火葬場で煙突のあるところは皆無だ。
遺言のような手紙を渡されて読むまではいい。
ここで、記載のあった大福を渡す。お前にデリカシーはないのか。
祥子―、と嶋太郎が顔をのぞいてくる。
「自分の立場、わかってる? いくら別れた夫だとはいえ、僕は君のエージェントだよ。君のスケジュールがどれだけ過密かわかっているんですか、新進気鋭の科学者さん」
「……科学者に新進気鋭とかあるの?」
「弱冠二十四歳にして特許とりまくっているのは誰? その管理やら申請をしているのは?」
「……嶋太郎くんです。いつもありがとうございます」
「このあと午後の便の飛行機で東京へ戻るから。今のうちに食べなよ。北海道のこの地域の本葬が早朝っていう風習、助かるな」
「塩野大福商店の後処理は? ほかにもいろいろやることがあるでしょ」
「祥子にできるわけないじゃん。もうウチの連中が役場とかいろいろ行ってやってる」
「お店をたたむのはいい。だけど、あの場所を売るのは」
「わかってる。ちゃんと残してある。定期的に掃除をしてくれる人の手配もすんでる。安心しなさい」
唇を噛む。デリカシーはないけれど、なんて有能なエージェントだ。
嶋太郎はポンポンと祥子の肩を叩く。
そしておもむろに立ち上がると「ちょっとトイレ」と言って館内へ入って行った。祥子の膝に大福の箱だけが残る。
火葬場の火葬炉近くの屋外のベンチ。十月末の北海道はダウンコートを着てもいいほど寒くて、祥子以外の人影はない。嶋太郎が戻ってくる気配もない。
多分──嶋太郎なりの優しさだろう。気兼ねなくあたしが大福を食べられるようにと席をはずしてくれたのだ。
祥子はかじかむ手で大福の箱を開いた。
そして目を見張った。
(後編へ続く)