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第二話:休息を学習

兜が宙を舞い、鈍い音を立てて地に落ちる。兜に矢が貫通していた。

驚く暇も無く後ろから、悲鳴にも似た声が聞こえてくる。

それと同時に矢もいくつか飛んでくる。


(誰かが俺をころす気だ。)


そのまま逃げようとしたが、次に聞こえた声が俺の動きを止めた。


「だ、だずげでぐだざ~い!! 」


酷く濁った声だが確かに聞こえる。

だがしかし矢が飛んでくる。


(どういうことだ……? )


すぐに振り返るとそこには矢を放ってくる洋服を着た弓使いと、

ついさっき倒したのと同じ巨大な二足歩行の豚が3体そこにいた。

考えている暇は無い、きっと"モンスタートレイン"かも知れない。

俺は距離を取るために走るが、弓使いは足が速くすぐ後を追いかけてくる。

それどころか距離が縮まっていく。


(仕方ない……。)

「矢を打つな! そいつらは俺がくい止める! 」俺は本を取り叫ぶ。

「え、えぇぇ!? 」と弓使いは戸惑い、矢を放つ手が止まる。

今しかない……ッ!


「『ブラストボムッ! 』」


俺の目の前は赤く染まり、

敵が花火のように弾け、敵を二体倒したのを確認した。

三体目は、俺の左側で武器を振り下ろ……ッ!


――――――――キィューン!! ――――ドッ!


あの豚の頭に矢が命中し、そいつは呆気なく倒れた。

全力疾走の中での戦闘に俺と弓使いは疲れていたが、

弓使いは呼吸を乱しながら謝った。


「あいつらを擦り付けようとしてごめんなさい!! 」

大泣きしている。


恐らく俺をころすか負傷させて逃げれない状況にし、

あいつらに餌だと認知させ、

俺を囮にして自分だけ逃げようとしたのだろう。


が、反省はしているようだし、現にピンチの俺を助けた。

悪いヤツではないかも知れないし、話を聞いてみよう。


「仲間はいないのか? 」

「いえ、仲間はいます。ただ、はぐれてしまって……

 探している時に偶然あいつらに出くわしたんです。」

「それで、逃げているときに俺を見つけ、囮にしようとしたと……? 」

「ごめんなさい!! 」

しゃくりを上げて泣いている。


「お前の名前は?」と聞いてみた。

俺は見捨てられた後だし正直行く当てが無い、この弓使いについて行った方が安全かもしれないし、何かのきっかけが生まれるかも知れない。

弓使いは「俺は"ラビット"と名乗っています。偽名です。」と名乗った。

「偽名……? 何のために?? 」

「もし地球に帰れた時、いがみ合っている人が出合ってしまったら、喧嘩になってしまうからです。」

……つまり、最低限プライベートを守ろうって事なのか。

それなら俺も偽名を使って、自分の名前が分からないのを隠せるんじゃないか?


なら、ネトゲで使っていた名前を……。

「俺は"ラック"だ。」と名乗る。

ネトゲのキャラ名を名乗るのって意外と恥ずかしいな。

「ラックですか、いい名ですね。即興ですか? 」

「いや、ネトゲのキャラ名だよ。」と苦笑いする。

「そういえば、ラックさんはどうしてこんな所に一人で……? 」

「あ、あぁ草原の方の人達に囮にされてな……。」

「えぇ! それって酷くないですか!? 」

「(あぁ酷いな。)彼らにも事情があったんだろ。」

「そうですか……。」どこか悲しげだが顔を上げ、

「行く宛が無いなら、こっちの村に来ませんか? 」

「え? いいのか? 」

「はい、問題ありませんよ! うちの村には食料も余ってますし、人が増えても余裕です。」

「そうか、ありがとう。お言葉に甘えるよ。」

俺は弓使いのラビットに同行した。


――――――――


森の村に着いた。

外側には外敵の侵入を防ぐための深い掘りと、

木をそのまま地面に刺したような壁がある。

まるで"もの○け姫"の村を連想させるような外見だ。


中に入る時、洋服を着た多くの一般人が出迎え、優しく対応してくれる。

外には凶悪な生き物、多分生還者の帰還が"安心"を与えるのだろう。


「ラックくんは代えの服とかある? 」とラビット。

「……何も持ってない。」

「そうですか。」と小屋の様な小さな家に入り、ゴソゴソと物を漁る音がして、

「良かったらこれどう? 」と革のマントをくれた。

「武器も無いみたいだし、万が一の為にこれも。」尖った木製の槍もくれた。

「あ、ありがとう。(ラビット良いやつだな、草原の人達とは大違いだ。)」


しばらくすると村の中央側が騒がしくなり始めた。

どうやら何か始めるようだ。俺に関する話ではないよな……?


「現状報告! 」とリーダーの様な人。

「東側、巨豚発生中」

「南側、異常なし。」

「西側、スライムとオークが大量発生中。」

「北側、新しい生き物を発見、伝説上の生物のグリフォンの可能性あり。」

「現状報告終了! 」リーダー? がその場を去る。


確か、俺がいたのは西側だったな……

それもそうだがスライムと巨豚(オーク)

俺が戦ったのは巨豚で、ここじゃあオークと呼んでいるのか……?

ってか、伝説上の生物のグリフォンって、マジかよ!


「そうそう、本にも書いてあったけど、ここって異世界らしいね。」

「(知ってた。)そういえば、みんなはここで何を食べて暮らしているんだ? 」

巨豚(オーク)の肉だよ。焼いたり燻製にしたりいろいろやってるよ。」

「味は? 」

「油ののった豚肉みたいな感じで結構おいしいよ。」

なるほど、ここは巨豚を狩って生活しているのか……。


「じゃあ、ここにはレベr……いや、なんでもない。」

下手したらまた怪しまれる。

ラビットはどう勘違いしたのか、

「俺のレベルは14だぜ(キリッ 」と自慢げだ。5.6日目では早い方なのかも知れない。

俺の顔を見ながらラビットは目で聞く、すかさず「俺のは秘密だ。」と隠しておいた。

「囮にされるくらいだし、レベルが低いのかも知れないな……(ボソッ 」

「何か言ったか? 」上手く聞き取れなかった(フリをした)。

「なんでもないよ。」とラビットはニッコリと笑顔を見せていた。


――――――――


今日からここで過ごすことになった。

リーダーこと"リック"は、

レベルとか職を聞かずに、簡単に入居を許可してくれた。


晩御飯にはオーク肉が出てきて、感覚的に久しぶりのご馳走な気がする。

キャベツとかの野菜はなかったが、木の実と薬草? が一緒に出てきた。

木の実は不味くはなかったが味気なく薬草は凄く苦く、その味を肉で誤魔化しながら食べたが、スパイスが無い為か舌に苦味が残ってしまった。

ご馳走……そんなものはなかった。



夜、静まり返った村の真ん中で、リックが就寝の時間を知らせる。

俺は小さい木製の小屋に誘導され、

ここで寝る事と不用意に出歩かない事を伝えた。

その小屋には"すのこ"の様な木の板だけが敷いてあり他は何もない。

俺はそれに座り寝るまでの時間、

この異世界や自分達について整理する事にした。


ここは異世界、そこには自然豊かな場所があり、5日前に俺たち地球人が来た。

ここに来た時に持っていた本、これを開き魔法を唱えると魔法が使える。

それを使ってこの土地に国を作り、古代龍を倒す事が出来れば元の世界に帰れる。

と、今知っているのはここまでか……。


そういえば、俺が使える魔法って何があるんだ? 本を開き魔法を確認する。

魔法は"全12属性"あるようだ。

『火』『水』『風』『土』『光』『影』

『炎』『氷』『雷』『地』『聖』『闇』

俺が使える魔法は、魔法欄の上のから、


火の『プチファイア』『ファイアボール』 『フレアボム』


水の『プチウォータ』『ウォータボール』 『ウォータボム』


風の『プチウィンド』『ウィンドカッター』『ブラストボム』


土の『プチサンド』 『アースブロック』 『クレイボム』


光の『プチヒール』 『ライトボール』  『フラッシュボム』


影の『プチシャドー』『シャドーボール』 『シャドーボム』


それぞれに3つずつ解禁されている。レベル30だからか?

他の炎とか氷とかは表示されていない、恐らく上位互換的なものなのだろう。


他には確か"魔技"ってのがあったな、見てみよう。

魔技には『剣技系』『鈍技系』『突技系』『遠技系』『万技系』があるようだ。

実際に表記されている魔技、


剣技系は『斬鉄(ざんてつ)』『垂線(すいせん)』『神速(しんそく)


鈍技系は『殴打(おうだ)』 『掌打(しょうだ)』『殴我(おうが)


突技系は『牙突(がとつ)』 『一線(いっせん)』『覚醒(かくせい)


演技系は『過射(かしゃ)』 『投渦(とうか)』 『奇翔(きっしょう)


万技系は『切断の一撃』  『粉砕の一撃』  『貫通の一撃』


どれがどういう攻撃なのかはわからないがどれも強そうだ。

特に最後の万技系が強そうだ。名前だけである程度予想が付く

もう夜も遅いし、魔法や魔技の確認は明日にしよう。

俺は横になり、静かに明日を待った。


――――――――


朝、俺はこの村の狩猟団に自ら加わり、狩猟を学ぶことにした。

狩猟自体は、それぞれに偏った知識を持った人達が手探り感覚でやっていて、

巨豚(オーク)用の落とし穴や、鳥用の落石トラップ等が設置されているそうだ。

最初はそのトラップの確認と、罠に掛かった獲物の食用の処理が今回の仕事だ。

同行人にはラビットと他 2人が付いてきてくれた。

その二人は、

"バタフライ"と名乗る剣士職の女性と、"ライナ"と名乗る魔法使い職の男性だ。


ラビットは仲間意識が強いのか、前線での策敵を率先してやっている。

バタフライは大胆な性格なのか、その辺を適当に探索している。

ライナは剣士職のバタフライに付いていくように歩いている。

(これだとラビットだけがはぐれる可能性が高いな。)とか考えていると……。

「そういえば、ラックは何の職なんだ? 」とライナが聞いてきた。

焦り反応が遅れた俺をかばう様にラビットが、

「爆発させる魔法を使ってたし、きっと魔法使い職だよ。」

「そっか、じゃあバックアップは任せるぜ。」ライナは俺を後衛に回してくれた。

が、魔法を思う存分に試せない状況になったのである。

話をしている間にバタフライは、

罠に掛かっていたであろう2メートル級の巨豚を倒し解体準備を始めていた。


バタフライは解説なしで黙々と、

近くの川での巨豚の洗浄と、毛抜きの解体準備を進める。

ナイフを使い丁寧に毛を削いでいく、

毛深かった巨豚は見る見るうちに、全裸の巨漢の様な見た目になっていく。

準備を終え、本格的に解体作業に入っていく。

まずは顎骨の下からナイフを入れ、

脊椎が見えたところで首を持ち回転させ関節を外す。

まだ胴体と繋がっている肉や筋を切り、首を完全に切り落とした。

次に喉から尻まで腹の表面だけを切り、次に皮と脂肪を撫でる様に切り開く。

その後で手足を切り取り、尻側から鎖骨辺りまで大胆に切り付ける。

そして内臓を摘出する為に、肛門周囲を切り胸部を切開し横隔膜を切る。

それから腹膜を脊椎側まで手刀で剥ぎ取り、

食道気道を掴み一気に肛門側まで引っ張り内臓を全て取り出した。

中抜きという作業が終わり、

ライナが水魔法で丁寧に洗浄して解体の一通りは終了。

後は三枚に下ろし部位ごとに切り分け、調理をしやすい様にするらしいが……。

それは村に戻ってからやるらしい。


解体作業は直に見るのは初めてで、なんというか……吐きそうな気分になる。

だがこれを覚えなければ、この先生きていくのは難しいだろうな……。

と考えている時、バタフライがこっちを見て、

「アンタも解体してみなよ、案外簡単よ。」

(…………マジッスか。)


他の巨豚や鳥の解体を学び、

ドッと疲れたところでお昼の時間がやってきた。

調理担当はライナで、薬草と木の実と豚肉を使った豚汁を作るようだ。

その間にバタフライに気になった事を聞く、


「ここに来る前は何やってたんだ? 」

「私か? 実家の畜産農業を生業としていたな。」

「もしかして、それで解体を覚えたのか? 」

「そうだ、子供の頃から鹿やら猪の解体をやらされていた。」

(あんな疲れるものを子供の頃から……だと!? )


とかお喋りをしている間に料理が出来た。

みんなで小さなお手製の土鍋を囲む、

手には木製のお粗末なお椀、それに豚汁を入れて食べる。

薬草を先にいれ炒める形にして木の実を後入れ、

そこに水を加えトコトコと弱火で煮込む。

沸騰する前に巨豚の肉を沢山いれ灰汁を取り、

鍋に蓋をしてさらにじっくり煮込んであるもの。

俺は早速それを口に運ぶ、久しぶりの温かい食べ物に感動を覚えた。

薬草の苦味が消え、

木の実の果肉が味噌に近い味を出しているが少しの渋みがある。

しかし肉の旨味がその渋みを抑えていて凄く食べやすかった。

その味は普段店で食べる豚汁には程遠いが、満足のいく一品だった。


昼飯を済ませた後にラビットが、

「昼飯も済んだし、狩り探索は休憩してからにしよう。」

「あ、じゃあ俺は今のうちにトイレ済ませて来るよ。」


悶々としながら森を進み、物静かな森の中で俺は用を済ませた。

自然豊かな場所に……、なんだか罪悪感を感じてしまうな。

そして来た道を戻る最中、木々の隙間にかつていた草原を見つけた。


(そういえば……草原の人達、食糧問題が何とかって言ってたな。)

草原の村を思い出す。

俺はそこの人に囮にされたが、

何もせずあの村を放置すれば暴動が起きるだろう。

だが俺は一度怪しまれた、もう一度行けばまた怪しまれるかもしれない。

むしろ助けないという選択肢もあるわけだが……。

……くそっ!


帰ってくるとラビットが心配してくれた。

「遅かったじゃないか心配したぞ。」

「あぁすまん…………少し、話したいことがあるんだ。」

「どうしたんですか? 」

「草原の村に大量の食料を運びたい。」

「え!? ラックさんを囮にした人達を助けるんですか 」

「分かってる! けど、見捨てて置けないんだ! 」

俺は必死で説得する。

バタフライとライナは大声で話す俺達を気にしだした。

「どうした、なにか揉め事か? 」

「いや、そんな訳じゃないんだけど……。」

「実は草原の方に他の人達がいるんだ。その人達は食料問題を抱えている。」

「それって、マジなのか!? それならすぐにリーダーに話そう! 」

ラビットは乗り気じゃないが、ライナは賛同してくれた。

バタフライは……草原の位置を確認し戻ってきたところだった。



俺の意思は変わらない。

助けれる人は助ける。

例えそれが敵であっても……。

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