王太子と人狼
(人狼をバラしたって話、本当ですか……なんて聞けない)
「あー、ヤニが切れてきました」
城の内部は全面禁煙だから嫌ですね、とルヒトは言う。
エレベーターに乗り、最上階の研究室に向う。
「ジル様、走ってはいけません」
「これぐらい、平気だっての」
前方から走ってくる金髪の少年。
「おっと」
ルヒトは軽く避けたが
「お前、危ないって!」
「……え?」
考えごとをして居たリュカは少年ジルと見事に衝突した。
「痛ってぇ」
ジルは両手で鼻を抑え
「ううっ、不注意でした」
リュカは額を抑える。
「まったく、何をやっているんです……」
ルヒトは、呆れ顔。
ジルは碧眼の瞳でリュカの狼耳と尻尾を見ながら
「お前、人狼か。それに……どっかで、会ったことね?」
「……言っている意味が、よくわかりません」
「おっかしいな、どこかで……ゲホッ、ゲホッ」
激しい咳が続く。
「ジル様、今日はお休みください」
白衣を着た痩身の女性に指示され、研究員の男がジルを連れて行く。
「今のは、ひょっとして王太子殿下ですか?」
ルヒトの声を聞いて
「あら、来ていらしたのね」
リリス所長が振り返る。
「体の弱い方だから、まだ公の場には出れないのよ」
「……そのようですね」
そう言って、ルヒトは王太子が連れて行かれた部屋の方へ視線を向ける。
「リュカ、仕事の方はどうでした?」
リリスは、母のように慈愛に満ちた表情を向ける。
「先生、えっと……」
狼耳と尻尾を揺らしならら、リュカは話し始めた。
人狼は狼と人間の精神が複雑に同居しているため、定期的にカウンセリングご受けることが義務付けられている。
(アルカス君も、カウンセリングの帰りでしたね)
リュカのくだらない話から、仕事での内容を嫌な顔をせずに聞いて居れるのは、さすが専門家。
その光景を見ながら、ルヒトは感心していた。




