浄化の炎
「こいつ……化け物か?」
血液採取のため、ヨタムは倒れたリュカの左手の甲をナイフで傷つける。
だが、すぐに傷口は塞がった。
狼の耳と尾を持つ人間ーー得体の知れない化け物だ。
(だが、こいつは使える……エトのために)
「すいません」
落ち着いた、男の声。
「こちらに、うちのペットが……おや」
「寄るな、このガキがどうなってもいいのか?」
リュカの首にナイフを突きつけ、ヨタムは言う。
「どうぞ、お好きに」
ルヒトは淡々と言うと
「目でも内臓でも、抉ればいい。最高に、興奮しますよ」
距離を詰めていく。
「イカれて、やがる」
「シャアアッ」
ヨタムの背後から、鋭い二本の牙をむき出しにエトが襲いかかる。
「おっと」
ルヒトはエトの腹部に蹴りを入れ、
「がはっ」
床に踏みつける。
そして、碧眼の瞳を鋭く細めると
「吸血鬼化した子供を匿うとは、処罰ものですね」
「わ、私の息子は死んでいない」
ヨタムは動揺すると
「どうか、見逃してくれ」
頭を下げる。
「言い訳は不要。リュカ、起きなさい」
その言葉に、リュカは白銀の狼へと変化。
「グルルルル……」
ヨタムの持っていたナイフを、鋭い牙で噛み砕いた。
「食事の時間です」
狼と化したリュカの金色の瞳は、ルヒトに踏まれている吸血鬼ーーエトを凝視。
「ま、待ってくれリュカ君」
ヨタムの言葉に、狼の耳はピクリと反応。
「どうしました?」
「……この人は、優しくしてくれました」
躊躇う、リュカに
「人間は、化け物には優しくありません。優しいのは表面だけ、あわよくば貴方を吸血鬼の餌にしようと考えるぐらいに真っ黒ですよ」
狼の金色の瞳が、ヨタムに向けられる。
「ひっ、化け物」
「でも、やっぱり……」
ルヒトは、落胆したように溜息をつく。
「狩らなければ、空腹で苦しむことになる。教える、いい機会ですね」
左手から放たれた、黒い炎。
エージェントのみに与えられる、黒い炎の力。
それは、吸血鬼を一瞬で灰にした。
「お仕事、お疲れさまです」
吸血鬼を匿った罪により、ヨタムはヘイムスクリングラ社のガーディアンに拘束された。
レナは意識が戻らず、医療機関に搬送。
人の姿に戻ったリュカは、その光景を眺めながら。
(お腹、減った)
後悔、同情……そんな感情より、空腹が常に上回る。
悲しいと思えないのは、化け物の性なのだろう。




