人狼と吸血鬼
「リュカ、おいしくない?」
食の進んでないリュカを見て、レナが言った。
「いや、そんなことは……」
この人間の食べ物「シチュー」というのは、人狼にとっては味のない湯。
お世辞にも美味しい食べ物ではない。
(でも、せっかく作ってもらったから)
失礼なことは言えない。
「お兄ちゃんもね、最近食欲ないみたい」
「そんなに具合が悪いの?」
「お父さんが、お薬飲ませてるけど……レナは見ちゃダメって」
「そうなのか……」
父親のヨタムから、レナの兄エトの話し相手を頼まれたが長居しては迷惑だ。
(ルヒトさん、村長さんと話終わったかな)
リュカが椅子から立ち上がると
「もう、行っちゃうの?」
「うん、そろそろ……」
腹がキリキリと痛む。
(この感じ……)
リュカの足は、自然と奥の部屋へと向かう。
「そっちは、ダメ」
レナが止める前に
「今日は、もう我慢しなさい」
「血、もっと血を……」
リュカは禁断の扉を開けてしまった。
血に飢えたーー獣
人間の姿をしていても、それはもう人間ではない。
吸血鬼化したエトの姿は、リュカの人狼の本能を刺激する。
(おいしそう……)
「いやああああっ」
悲鳴を上げて、レナが床に倒れる。
「レナ?」
リュカが後ろを振り向いた瞬間
「見たな」
ヨタムが、鉄の棒を振り下ろす。
「戻って来ませんね」
ルヒトは眉間に皺を寄せ
(迷子……いや、身動きがとれない状況か?)
タバコを口に咥え、指を鳴らして火をつける。
「ここは、裏技を使いますか」




