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昔日の記憶

「母さん、兄さん見なかった?」


今日は、兄とキャッチボールする約束をしていた。

しかし、兄はいつまでたっても来ない。


「カインは、お父さんと大事な話があるの」


だから、今日は我慢しなさい、と母はアベルに言った。


アベルは、父が苦手だった。


体調を崩して以来、父は一度も部屋から姿を現さない。


言葉もあまり交わしたことがなかった。


(けど、兄さんに話ってなんだろ)


その日、アベルは父の部屋の前に居た。


「……息子の体は、ちょうどいい」


「それでも、まだしばらくは安静にしてください」


「腹が減ったな……」


アベルは、扉の隙間から様子を覗く。


(父さんと、母さん何の話してるんだろ)


「そこに居るのは、誰だ!?」


アベルの存在に気づき、父が声を荒げる。


(逃げないと……)


急いでその場を離れようとしたが、恐怖で足が思うように動かなかった。


怯えるアベルを見下ろし


「悪い子ね」


大人しくしていれば、もう少し仲良しでいれたのに、と母は淡々と言った。


そして、久々に見た父の姿に


「に、兄さん? 父さんじゃ、ない?」


アベルは動揺する。


「お前は、秘密を知ってしまった……このまま生かしておくことは出来ない」


鋭い二本の牙に、噛みつかれそうになった瞬間。


暗転。映像は、途切れた。


「うわああああああっ」


リュカは、大声を出して目を覚ました。


(今の、夢……?)


心臓が、バクバク脈打つ。


背中には、ビッショリ寝汗をかいていた。














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