始まりの人
「あれほど、夜中に出歩いてはいけないと……」
あの後、巡回中の修道女に捕まった。
「申し訳ありませんでした」
ルヒトとリュカは、サラから説教をくらっていた。
その最中に
「うっ……」
サラは頭を抱えて、床に膝を付く。
「サラさん?」
「ルヒトさん、行っちゃダメです!」
変化してます、とリュカは続け、狼の姿。
「シャアアッ」
襲ってきた、吸血鬼の喉元にリュカは噛み付く。
満月の影響か、致命傷をおいながらも吸血鬼は暴れ続ける。
「だから、満月は嫌い……」
より深く、狼の鋭い牙を吸血鬼に突き立てる。
リュカが、吸血鬼を完全に仕留めたのを確認し
「急に、どうして……」
考える暇も与えず、修道院に悲鳴が響き渡る。
復活の儀式により、混ざっていた者たちの一斉の吸血鬼化。
「いやあああっ」
吸血鬼に襲われる、修道女を前に
「ちっ、結局こうするしかありません」
黒い炎を使って、ルヒトは吸血鬼を灰にする。
「走って、外の方へ。ここは、危険です」
「え、貴方は?」
「私は、ヘイムスクリングラ社のエージェントです」
ルヒトの低い声を聞いて
「お、男の方?」
修道女は目を丸くする。
それほどまでに、見た目と声のギャップがあった。
「き、緊急事態ですので、急いで逃げてください。先ほど、本部の方に応援の連絡を入れましたから、他の修道女達と一緒に避難してください」
「は、はい」
修道女は頷くと、修道院の外へと向う。
その途中で
「邪魔、しないで」
無機質な声と共に、修道女は倒れた。
その傍らには、口元から血を滴らせた狼。
「グルルルルル」
リュカは唸り声を上げ
「何で人間を……」
目の前の狼を睨みつける。
「我らの父は、ここに吸血鬼の牧場を作る」
吸血鬼を飼うには、生きた人間の血が必要になる。
「あの程度、どうでもいいでしょう」
「よくも、そんなこと」
「リュカ君、落ち着きなさい」
ルヒトはリュカをたしなめると
「今、我々の父と言いましたか」
怪訝な表情。
そのための新型、シェオルの言葉を思い出す。
(あの人は、分かっていましたね)
コツコツと、足音が近づいてくる。
「お互い、随分と姿がかわってしまったな……」
ベルナレッタの声は、女性とは思えないくらい低い。
「ゆっくり話そうか、息子達よ」
そう言って、不敵な笑みを浮かべた。




