新たな事件の始まり
ヘイムスクリングラ社・最上階
「まさか、社長から呼び出しとは……」
憂鬱なルヒトとは正反対の顔で
「すごい、すごい、高い、高い」
リュカは窓の外を見てはしゃいでいる。
「リュカ君、これから社長室に行きますので大人しくしてるように」
「社長さんとは、会うの始めてですね」
どんな人ですか、とリュカが尋ねると
「まあ、はっきり言って苦手です」
そう言って、ルヒトはくわえたタバコに火をつける。
「……ルヒトさんにも、苦手な人居るんですね」
リュカに言われ、ルヒトは顔を顰めた。
ドアをノックして
「失礼します、シェオル社長」
開けた瞬間、ナイフがルヒトが吸っていたタバコの先端が切り落とされた。
「タバコはやめろ、俺のケルベロスが穢れる」
ソファーに、ふんぞりかえる眼鏡を掛けた赤毛の男。
その足元には、黒い大きな犬が伏せている。
「ルヒトさん、あれは人狼ですか?」
リュカに聞かれ
「あれは違いますよ。確か「こいつは、ケルベロス。俺が黒い炎から生み出した。貴様ら人狼の元になってるアベルとは別物だ」
ルヒトの説明をかき消して、シェオルが答える。
「社長、その話は……」
とがめるような視線を向けるルヒトに
「ああ、悪い。貴様は、カイン側だもんな」
シェオルは意地の悪い顔を向ける。
「……」
苦虫を噛み潰したような表情のルヒトを見て
(ルヒトさんが、ここまで頭が上がらないなんて……)
リュカは瞳を大きく見開いた。
先輩エージェントのミリアムに対しても、余裕の表情を崩さなかったのに。
ケルベロスはシェオルの足元から起き上がり
「……」
リュカの隣に並ぶ。
「結構、おしゃべりですね」
その様子を横目に
(何も話してないように見えますが……)
ルヒトは話題を切りかえる。
「で、要件はなんでしょうか?」
「そうそう、クルーエル修道院に行ってこい」
シェオルが、資料をテーブルの上に投げる。
その資料に目を通しながら
「ここは、私たちの回収ルートとは別方向でしょう。担当のエージェントは?」
「数日前から、人狼と共に行方不明」
ガーディアンが発見したトラックに積まれた柩の中身は、全て空になっていた。
「……穏やかでは、ありませんね」
「つーことで、行ってこい」
シェオルは、ケルベロスと戯れているリュカを見て
「そのための新型だろ」
社長室を出て、ルヒトとリュカはエレベーターに乗り込む。
「疲れました……」
そう言って、ルヒトは深いため息をつく。
「王様みたいな人でしたね」
リュカの意見に
「その表現は、間違っていないかもしれません」
あいかわらず勝手な人です、とルヒトは続ける。
「前に、ルヒトさんが言ってた物語……社長さんは、なんとなく永遠の国の人の感じがします。あ、そうなると儚い国の王子様って人間なんでしょうか?」
考えながら、リュカは首を傾げる。
「……リュカ君、少ない脳みそ使うとハゲますよ」
「は、ハゲませんよ」




