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兆候
「お、お願いです、見逃してください、祖母は……」
血に飢えた獣が、女の首筋に噛みつき血を貪る。
「この手の犯罪は、絶えませんね」
肉親を庇って殺されたら、シャレにならないでしょうに、とルヒトは言う。
「シャアアッ」
吸血鬼化した老婆は、ルヒトに狙いを定め飛びかかる。
だが、その前にーー
白銀の狼が、噛み殺した。
「……」
この味は、トマトジュースとは比べものにならない。
人間の姿に戻ってから、大人しいリュカを横目に
「どうしました?」
ルヒトが問う。
「僕は、ルヒトさんが吸血鬼になっても何も思わないかもしれません」
人狼の本能に従い、食い殺してしまうとリュカは言う。
ルヒトは、こめかみに青筋を浮かべると
「……ほう、私があっけなく死んで吸血鬼になるとでも?」
リュカの狼耳を引っ張る。
「い、痛い……スイマセン、もしもの話です」
ルヒトはため息をつくと
「では、もしもの話、その時は迷わず喰え。迷うなよ」
そう言って踵を返す。
「……え?」
「そろそろ、本社に戻ります。あ、徒歩で帰りたいなら置いて行きますが」
「ま、待ってください」
リュカは、慌ててルヒトの後を追った。




