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神様は、少々私に手厳しい!  作者: 守野伊音
第三章:大陸
54/100

54.神様、この動物園はちょっと遠慮致します

「何だ、あれは!?」

「ワニ! アリスちゃん、ワニ!」

「だから、ワニとはなんだ!」

「キ、キバヘビ!?」

「だから、それが既に何なんだ!」

「ワニ――!」

 どう説明すればいいんだろう! こっちの世界で爬虫類ってなんていうの!?

 あれ!? 鰐って爬虫類だよね!? 恐竜だっけ!? 恐竜って何類!? 恐類!?


 動物園で見た事のある鰐は、のんびり水中から顔を出していたり、日向ぼっこしていたり、とぽとぽ歩いていたりとゆっくりした印象だった。けれどここにいる鰐は、箱から出てきてこっちをロックインした途端猛ダッシュだ。絶対お腹が空いている!

 鰐から距離を取ろうとすると、必然的にみんな同じコースになった。ガリザザ兵の波の中で、私を担ぎ上げたルーナとユアンの手を引いたアリスは、逸れないようにぴったりと隣に陣取っている。

「出口はどこだ!」

 誰かが、いや、寧ろ皆が怒鳴っている。四方を自然の壁に囲まれたこの場所は、広いけれど世界はもっと広い。こんな鰐だらけの場所より、もっと広く雄大な世界の方がどれだけいいか。

「あっちだ!」

「逃げろ!」

 出口を見つけた誰かが叫んだ。皆が見た方向に視線を向けると、確かに出口がある。鋼鉄の門だけれど。

「牙蛇を仕留めた班には鍵をくれてやる!」

 自分は壁に取り付けられた鉄の籠みたいな場所に避難して、安全を確保している係りの兵士が怒鳴る。

「さあ、急げ豚ども! キバヘビの数はお前達の数と比例しないぞ!」

 それを聞いた瞬間、ガリザザ兵達は悲鳴に似た雄たけびを上げて鰐の群れに突進していった。

 班の数と鰐の数が比例しないということは、鰐を倒せなかった班はここから出られないという事だろうか。と、理解するまでにちょっと時間が必要だった。倒せなかったらどうなるんだろうというところまでは考えないでいよう。

「カズキとユアンはここにいろ。ルーナと私で、キバヘビだかワニだかを…………ルーナ?」

 ルーナは鰐ともみ合う兵士達をじっと見ている。つられてそっちを見てしまう。兵士の足にくらいついた鰐が、身体をぐるぐる回して捩じ切ろうとしている様が見えてしまって、うっかり吐いた。

 驚いたのか、ルーナはすぐに私を下ろした。そりゃあ、担ぎ上げた人間がいきなりマーライオンと化したら驚くだろう。どん引きされただろうなと思ったら鼻血がまた垂れてきた。フルコンボだどん。


 女子力以前の問題だ。これでルーナにフラれたら、白髪二本どころの話じゃない。

 周囲では兵士達の悲鳴と怒声、金切声が響き、正に阿鼻叫喚だ。なのに何故か、私の頭の中を愉快な短手短足の太鼓が楽しげにエコーを残しながら通り過ぎていく。フルコンボだどーん、どーん、どーん……と。日本で友達と叩きまくっていた太鼓が、現実逃避を背負って異世界トリップして来てくれたらしい。

「ママ、だいじょうぶ!? ママ!」

「大丈夫だす……」

 でも、大丈夫かと聞かれたら大丈夫と答えるのは世の常だ。


 袖で鼻血を押さえる私に、ルーナは自分のマントを頭からかけた。一瞬、臭い物には蓋を!? かと思ったけれど、背中を擦ってくれたのでただの被害妄想だったと知る。思っただけで言わなくてよかった。私の所為で、ルーナがルーナに濡れ衣を! 再び! になるところだった。

 視界が半分以上隠れた先で、ルーナの足が見える。

「すぐに終わらせるから目を瞑っていろ」

「え?」

 ルーナはあっという間に身体を反転させて兵士の中を走り抜けていく。

「ルーナ!」

 アリスの制止にもルーナは止まらない。そのまま速度を上げて鰐の群れに突っ込んでいく。兵士達がもみくちゃになって戦っている場所じゃなくて、鰐しかいない場所に走っていくから、胃液で焼けた私の喉が引き攣った。

「ルーナ、危ない!」

 素早い動作で薄く開けた長い口を突き出してきた鰐に怯みもせず、ルーナは勢いを殺さずだんっと強く地面を蹴って壁を走った。

 忍者だ。以前地下に閉じ込められた時、私が目指したのはあれだった。

 大股で壁を斜めに走った勢いそのままに高く飛び、剣を鰐の脳天に突き刺した。しかしそこで止まらず、突き刺した剣を軸に身体をぐるりと回して隣の鰐に膝を落とすと、何度かばく転なのか側転なのか分からない動きで鰐から距離を取った。

「仕留めたぞ! 鍵を渡せ!」

 剣を突き刺した鰐がぴくりとも動かないのを確認して、ルーナは声を上げる。

 もみくちゃになっていない分確認しやすかったのか、門の傍にいた私達の元に、鍵はすぐに降ってきた。

 それをちらりと横目に確認したルーナは、何故かこっちに戻っては来ない。そのまま走り出して、一般人三組の傍にいた鰐の目を立て続けに斬り捨てた。それにしても、よく飛ぶ。物凄いジャンプ力だ。

「後はやれるだろう」

 ぽかんとした一般人の皆さんは、呆然としながらもこくこくと頷く。それを見て、ルーナはようやくこっちに戻ってきた。



「ど、どうしよう、アリスちゃん。凄まじく惚れ修繕だ!」

 そんな場合じゃないと分かっているのに、どうしよう、ルーナかっこいい。

「惚れ直すといえ、惚れ直すと。しかし、何度見ても凄まじい動きだな。あれを敵にして戦っていた時代があったと思うと恐ろしいな」

 走って戻ってきたルーナは、地面に落ちたままの鍵を拾い上げて首を傾げた。あ、可愛い。リリィを思い出す。リリィ、お元気ですか。私は元気に鼻血ぶー。

「他の奴に拾われるぞ?」

「あ、ああ、すまない」

 鍵を開けて先に進む。鍵を手に入れたらしい兵士がこっちに走ってきていたのに、裏側にいた係りの人みたいな兵士は、無情にも門を閉めた。どうやら、鍵を持っていようがいまいが、一回ずつ開ける仕様のようだ。

 門の先は、岩壁が剥き出しのトンネルだった。ぽつりぽつりと明かりがあるだけマシだろう。そこを、ぞろりぞろりと幽鬼みたいに人々が進む。

「……これ、どこまでつづくの?」

 私の裾を握ったユアンは、不安そうに見上げながら聞いた。ルーナとアリスに。質問相手に私を選ばない判断。大変素晴らしい。

「そう長くはないだろうな。これが見世物なら、観客から見えない時間が長いと都合が悪いだろう」

「恐らくはな。それよりルーナ、キバヘビだかワニだかを知っていたのか?」

「いや?」

 ルーナはあっさりと答えた。

「……それでよく飛び出したな」

「他の奴らと戦っているあれの動きを見て、大体把握した。手足は短いから組み合わなければ攻撃としては意味をなさないようだったし、とりあえず口と尾に意識を集中させれば何とかなるだろうと思っただけだ。問題は外殻の硬さだったが、まあ、全体重かければ何とかなるだろうと」

「硬かったか?」

「いや、甲羅を予想していたが、それほどじゃなかった。殻じゃないらしい。あれなら普通に斬れそうだ」

「腹と背で色が違ったから、もしかすると腹はもっと柔らかいかもしれんな」

「そうだな……だが、あの巨体だ。引っくり返すのは難しいだろうが、段差があればあるいは」

 生まれて初めて鰐を見たのに、どうやったら倒せるかしか話していない騎士二人。

「まあ、上は隙があるし、騎士や軍士なら壁があれば何とかなるだろう」

「騎士や軍士なら壁を走れるみたいな言い方はやめろ」

 騎士と軍士のハードルががんがん上がっていく。主にルーナの所為で。

 アリスちゃん頑張れ。私とユアンが応援しています。

 

「ルーナ、マント、ありがとう」

「別に持っていていいが……大きいから邪魔か」

 洗って返せないのが申し訳ない。

 出来る限り土汚れを払ってマントを返したら、ルーナは小さく頷いて受け取った。


 観客から見えない場所で罠にかけても意味がないという判断か、通路には特に何もない。鍵を手に入れた他の人達も黙々と歩いている。

 何もないのはありがたいけれど、それはそれで不安だ。

「…………道が曲線じゃないか?」

 ぽつりとルーナが言って、アリスは勢いよく振り向いた。

「何!?」

「なだらかな曲線を描いているような気がする」

 二人は嫌そうな顔で道の先を見つめる。

「えーと、なめらかな直線ということは……」

 自分の手を持ち上げて蛇みたいな動作でぐねーと、伸ばす。

「曲げろ」

 アリスに無造作にぐきりと曲げられた。これから曲げる予定だったけど、アリスちゃんはせっかちだ。引っ張られるままに手を曲げていくと、とんっと自分の胸に着地した。

 それと同時に、先頭を歩いていたガリザザ兵が引き攣った声を上げる。

 なんだろうと視線を向ければ、前方が明るい。なんだ、出口だと喜んだのも束の間。

 私の頭に響いた声は、手足の短い太鼓だった。

 もう一回遊べるど……

「結構だす!」

 頭の中の声を思わず遮ったけれど、それで現実が変わるわけじゃない。


 出口は、さっきの広場に続いていた。

 つまり、ぐるりと壁の中を回ってきただけである。




 入口より大人一人分ほど高い位置に出口はあった。

 ぐるりと囲んだ壁の上で見学しているテントの群れと再会して、唖然とする。しかし、後ろが閊えると左右に控えた兵士に突き落とされた。ルーナが小脇に抱えてくれたので事なきを得る。

 ばらばらと降ってくる他の人達も、呆然とへたり込んだ。

 そんな私達を見下ろして、壁の籠に立っている兵士の一人が大声を上げた。


「やり方は分かっただろう! 敵を倒し、自由を奪い取れ!」


 今まで岩壁だと思っていた場所や、草が生えていると思っていた場所から扉が現れる。それらは、ぐるりと回る岩壁一帯に存在していた。やったね、出口(仮)が増えた。全く嬉しくない。

 頬と喉がひくりと引き攣るのは止めらない。だって、ここにいるのは鰐だけじゃない。

「牙猫だ!」

 ライオンに見える!

「縞猫だ!」

 虎かな!

「山犬だ!」

 狼っぽく見える!

「角豚だ!」

 サイに見えるけど気のせいかな!

「大猿だぁ!」

 ゴリラに見えるけどなぁ!

「砂漠の神だぁ!」

 私にはアマゾンの神に見えるよアナコンダ!



 猛獣ふれあい動物園大開幕だ。

 入園無料でもお断りである!




 さっきまで溢れていた鰐に追加で、世界中から掻き集められたとしか思えない猛獣がひしめき合っていた。地面の所々に黒い水だまりができているのが見えてしまい、慌てて視線を上げる。

 私達が突き落とされた出口だか入口だかもう分からない場所の更に上で、籠に乗った係りの兵士と目が合う。あそこから広場を見渡して、鍵とか投げてくるのだろう。ちょっと場所を代わってほしい。そしたら鍵を全部落として片っ端から開けて回るのに。

「ユアン! カズキを守っていろ! 私はルーナと…………カズキ?」

 同じタイミングで走り出そうとしたルーナとアリスのマントを掴んで、全力で踏ん張って止める。人間を止めているはずなのに、何故か軽トラを思い出した。かなり引きずられて地面に二本の跡が続く。

「何か作戦でもあるのか?」

「作戦? カズキが? 頭を使って?」

 不思議そうに振り向いたルーナに、アリスは心底不思議そうな顔を向けた。ちょっと待って、アリスちゃん。アリスちゃんから見た私について、後で頭を使って話し合いましょう。頭突きで。

 まあ、後のことを今考えても仕方がない。私はすぐに気持ちを切り替えた。

「規律違反である説も考えられるけど、ルーナ、あちらに到達可能?」

「あちら?」

 籠を指した私の指を追って、三人の視線が上を向く。ユアンはすぐに飽きて抱きついてきた。油断していてもろに吹っ飛んだ私の上で、ルーナとアリスが顔を見合わせる。


 アリスは無言で壁を背にして、両手を前で組み、腰を落とした。

 ルーナは無言で壁から離れ、その場でとんとんっと軽くジャンプした。


 二人の動作で察して、私とユアンはそっと壁沿いに距離を取った。あまり壁から離れると、猛獣とふれあえる広場に強制参加してしまいそうだったからだ。

「行くぞ」

「ああ」

 短いやり取りだけで走り出したルーナが、アリスの組んだ手に足をかけると、そのタイミングでアリスは腕を振り上げる。ルーナは飛んだ。比喩じゃなくて、本当に飛んだ。

「足りんか」

 舌打ちしたアリスは、すぐに口を噤んだ。

 籠に届かなかったルーナは、壁の出っ張りに手をかけてぐるりと身体を捻り、思いっきり壁を蹴って無理やり籠に手をかけた。そして、やっぱりぐるりと身体を回して籠に降り立ってしまう。忍者なのか曲芸師なのか分からないほど、身軽にぐるぐる回れるのは昔からだけど、あれが出来ることが騎士の必須条件だったら大変なことになると、それだけは分かった。

 だって、猛獣を前に青褪めていた兵士達がぽかんとこっちを見ている。今まであえて視線に入れないようにしていた皇子をちらりと見てみると、お腹を抱えて笑っていた。何を言っているかまでは届かないけれど、ばんばん膝を叩いている所を見ると本気笑いだ。彼にはお腹が筋肉痛になる呪いをかけておこうと思う。

 突如として現れたルーナに、係りの兵士は慌てふためきながら剣を抜こうとした。けれど、ルーナのほうが早い。何か言葉をやり取りしているらしいけれど、聞こえない。ただ、兵士の方が赤くなったり青くなったりと忙しいのは分かる。

 次の瞬間、黒い雨が降ってきた。

「いたたたたたたたた!」

 一個一個は大したことなくても、これだけ大量に降ってくれば流石に痛い。そして、どれだけの量の鍵が用意されていたんだろう。一人の係りがこれだけ持っているという事は、壁ににょきにょき生えている籠全部合わせるととんでもない数になりそうだ。

 じゃらじゃらと足元で音を立てる鍵に、アリスはうんざりとした顔をした。

「……これを、片っ端から試すのか」

「……盛大な手間だねよ」

「逆だ」

「よねだ」

 どれだけ面倒でも頑張らない訳にはいけない。全く先が見えない鍵の山にしゃがみ込んで指先で鍵を選る。正直どれも同じに見えるけれど、少なくともずらりと並ぶ扉の数だけ種類はあるはずだ。

 忍者みたいに飛び降りてきたルーナが周りを警戒している隙に早く見つけないといけないのに、どうしよう、全く見分けがつかない。

「ママ、おんなじのを見つければいいの?」

「逆でお願いします」

「ちがうのを見つけるの?」

「うん」

 ユアンはじっと鍵の山を見て、ひょいひょいと三本持ち上げた。

「これ、おんなじじゃないよ。あ、これもちがうよ」

 躊躇いもなくひょいひょい拾い上げていく様子をぽかんと見つめる。その間もユアンは絶好調だ。あっという間に私の手の中はいっぱいになった。

「なんこ見つけたらいいの?」

「四十四個だ」

「はーい!」

 あっさり答えたルーナに、私とアリスは顔を見合わせる。

「……アリスちゃん、アリスちゃん」

「……何だ」

「一目見たその時から鍵を選り分けるユアンと、一目見たその時から扉の数の把握を可能とするルーナ。私はどちらに驚愕致せば宜しいか」

「…………とりあえず、私は落ち込むことで忙しいから、後でいいか」

「宜しいと思われるよ」

 常識の行方を探し求めて落ち込む親友の背を擦る私の前で、ルーナは「ユアン、これもだ」とひょいっと鍵を拾い上げた。



 扉を八つ開けて、八回広場に戻ってくる。

 九回目で正解らしき扉を引き当てられたのは、多分運がいい方なのだろう。誰の運がいいかは分からないけれど、私でないことは確かだ。

「ふびあ!?」

「ママ――!」

 ひっくり返った悲鳴を上げた私に反応を返してくれたのはユアンだけだ。後の面子は、またか……という視線をちらりと向けただけだった。天井から滴り落ちる水滴は、何の恨みがあるのか、さっきから私の背中に滑り落ちてくれる。首の隙間から腰の付け根まで一直線だ。

 ユアンは慌てて背中をばしばし叩いて水滴の進行を食い止めてくれようとするけれど、残念、そこは既に通過済みである。

 現在ここを歩いているのは私達だけじゃない。ルーナとアリスが開けた扉の兵士を打ち倒して回ったので、誰でも自由に扉を行き来できる自由の広場が出来上がっているのだ。だって、兵士に手を出したらルール違反なんて言われていない。

 それに便乗した一般人の三組が、ご一緒していいですかとびくびくしながら一緒に移動している。にも拘わらず、何故私だけ水滴の襲撃を受け続けるのだろう。

 兵士達は皇子が怖いらしく、自ら鍵を手に入れるつもりのようでついてはこなかった。猛獣は猛獣で、猛獣同士の争いに発展していて人間なんて眼中にないのも多かったので、どういう結末になるかは私にも分からない。たぶん、私じゃなくても分からない。



「……そうですか、やはり貴方々は祖国の。大陸訛りがありませんので、そうだろうと思ってはいましたが…………そうですか。祖国は無事ですか。よかった」

 アリスちゃんと同じ馬車に掴まっていて、ちょっと顔見知りらしいロジウさんがほっと肩の力を抜く。ルーヴァルの人達は、グラースとブルドゥスを祖国と呼ぶらしい。そして、確かに彼らの話し方にはちょこちょこ発音が気になる場所がある。ただ、私が間違っている可能性も多大にあるので、あえてつっこまない。

「ディナストの大軍が祖国に向かった時は胸をかきむしる思いでしたが、それが駐留もせずに戻ってきたので首を傾げていたんですよ」

 ロジウさん以外の人もうんうんと頷いている。皆、怪我もないようで凄い。男の人が十二人いるにしても、兵士でさえ数を減らしている中、大した怪我もないのは凄いことだと思う。

「それでですね……その………………」

 もごもごと口籠ったロジウさんに傾げた首に、冷たい物が触れた。

「いっ…………痛い?」

 すわ水滴かと反射的に上げてしまった悲鳴は、途中で途切れた。だって、水滴よりは冷たくない、というより、何だかぴりっと痛い。

 私の悲鳴がおかしかったのに気付いたルーナとアリスが振り向いて、動きを止めた。首を傾げようとしたら冷たい声が落ちる。

「動くな」

 さっきまで聞いていた、おどおどと震える声はどこに行ったのか。まるで別人のように冷え切ったロジウさんの声が淡々と響く。その手に握られた剣は、ぴたりと私の首に当てられていた。



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