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神様は、少々私に手厳しい!  作者: 守野伊音
第一章:再会
4/100

4.神様、ちょっとそれはセクハラです

 ルーナ・ホーネルト、十五歳。

 濃紺の髪に、晴れた日の空が映ったような水色の瞳。成長途中の、まだちょっと中性的な顔や身体。子どもの声から一回声変わりがあっただけのちょっとだけ低い声。

 出会ったのは十か月前。



 

 私の一生に一度の恋の始まりは、むさ苦しい男共が芋洗うようにぎゅうぎゅう詰めになった風呂場に墜落したことから始まる。

 うん、神様そこ座れ。座禅な。



 落下の衝撃で星がぐるぐる回る中、臭いし、訳分からないし、なんか色々ぶら下がってるしで、私の心中はパニックなんて言葉では生易しい状態だった。

 そこに飛び込んできたのがルーナだ。

 脱衣所から一番近かったルーナは、手近にあった剣を引っ掴むや否やその勢いのまま私を蹴り飛ばして剣を突きつけた挙句、縛り上げて牢に入れるというとっても印象的な出会いを演出してくれた。

 他の誰にも真似できない、印象に残る出会いだ。オンリーワンだ。恋した今はナンバーワンでもあるけどね!

 ちなみに、それをちくりと指摘すると『お前、それ言うと相打ちになるぞ』と返された。男ひしめき合う風呂場に落下し、この世界に来て初めて見たものが男の裸とかなにそれ最悪な女との印象的な出会い。

 うん、どっちもどっちだね!

 

 あの頃のルーナは、私よりほんのちょっと背が低かったから、それを気にしてる様を周囲にからかわれ、木から逆さまにぶら下がったりと努力をしている姿が可愛かった。

 この世界のことを何も知らない私だったけど、彼の前ではお姉さんぶったりしたこともある。最初は弟がいたらこんな感じかなと思って、お世話になりながらもちょっとだけ面倒をみている気になったりしたこともあった。

 けど、なんやかんやあって、気づいたら恋をしていた。

 そして、なんやかんやあって、恋人に落ち着いた。



『カズキ』


 自分の名前が持つ響きを、あれほど美しく感じたことは、未だ嘗てない。





 ふわっと意識が浮上する。

 何で目が覚めたんだろうと思ったら、幕がかかったように篭った喧噪がここまで届いていた。

 ここは娼館と一緒に飲み屋もやっている。まあ、いうならキャバクラみたいな感じだ。本当なら夜が一番忙しい時間帯なのに、リリィが、今日は疲れてるだろうから仕事は明日からでいいよと言ってくれたので、それに甘えて用意されたベッドに潜り込んだことまでは覚えている。


 布団部屋の上にあるこの場所は、設計上の都合で少し余ったスペースなのだろう。屋根裏部屋みたいな感じでロフトから上り、形は二等辺三角形みたいになっていてちょっと面白い。底辺に当たる位置には窓があるし、ここは三階だから結構景色がいい。今は夜だから景色よりも灯りが見える。

 炎が作り出す灯りは、ライトより柔らかくぼんやりとした光を夜に浮かべるから結構好きだ。管理するのは大変だけど。

 明けた窓からはさっきよりはっきりした音が聞こえてくる。きっと飲み屋側だろう。偶にどっと何かが湧いたような笑い声が届く。


 眠ってしまってから気づくのは、思ったよりも濃い疲労感だ。

 まあ、そうだろう。もう二度と戻ることのないと思っていた場所に何の覚悟も予告もなく戻されて、久方ぶりになる異国語を頭の中から引っ張り出してきて、辿りついた先でお姉様達に遊ばれて。お胸は大変柔らこうございました。

 ふーと長く息を吐き、眠る前に用意していた水差しから水を補給する。

 

 

『ルーナ……ルーナ・ホーネルト、存じ上げる人物存在するぞろ?』

 私が聞いた名前に、場は一瞬固まった。しまった。やっぱり迂闊だったと私は自らの発言を取り消したくなった。

 あれから十年経っている。平和祈念も行われるという。

 それでも、駄目だったのだ。

 嘗て敵国で、しかも軍人であった彼の名前を出したのは明らかな失態だ。

戦争だから。そう言ってしまえばお終いだけど、戦争とは殺し合いだ。状況によっては虐殺にだって成り得る。

 慌てて前言撤回しようとした私に向けられたのは、にんまりとした女性陣の笑みだった。



[私、別にルーナのファンじゃないぃ――!]

 窓枠に両手をついて項垂れる。夜だから音量は控えめに。

 まさか、ルーナのファンと勘違いされるとは思わなかった。

ルーナは人気のある騎士だそうだ。そうですよ、ルーナはかっこ可愛いんですよ。

[なんか都合のいい感じに納得されてしまったのは解せぬけど……まあ、よかった、のかな?]

 なんでも、近々行われる平和祈念の儀では、両国の王族、有力貴族、そして騎士達が集まるそうだ。五年式典はグラースで行われたらしいので、今度はブルドゥスと交互に平等に行う取り決めらしい。

 ルーナ! ルーナが来る!

 それを考えれば、今回ブルドゥスに飛ばされてよかったのではないかとさえ思える。だって、今から私の足でグラースまで歩いても、絶対に式典までに間に合わない。その点ブラドゥスなら、ひとまず旅路の心配はないわけだ。


 式典に合わせて遠方からも人が集まってきている。純粋に儀式を見に来る人もいれば、騎士を見たいというミーハーな方もいるらしい。中でもルーナは人気の騎士らしく、毎年行われる【抱かれたい軍人・騎士ランキング!】でもぶっちぎりの一位だそうだ!


 わあ! 流石ルーナ! 凄いね!

 と、思わないでもないけれど、一番最初に思ったのは、何やってるんですかね両国さん。貴方がた因縁の二国じゃなかったんですかね。十年経てばその辺変われば変わるんですか? なんか変わっちゃいけない方向に変わってませんかね。

 なんだかゆるくふんわりした方向に変わったらしい軍人や騎士団の認識のおかげ(?)で、私は大陸からルーナを見たくてはっちゃけちゃったちょっと残念な子、扱いになった。


 いや、確かにルーナルーナ言ってましたよ? 言ってましたけどそれは、私はルーナに会いたいんです、私はルーナの知り合いです、っていうか恋人です! …………でしただったらどうしましょう、でも何はともあれルーナに会いたいんです! でもルーナ私のこと忘れてたらどうしよう……とか、なんかそんな気持ちがぐわーと湧き上がった結果、残念な語彙力でルーナルーナルーナになっちゃったわけでして。

 あ、どう見ても残念な子だ。

 実際は、ルーナに会いたかったけどどう足掻いても会えないよこれ……となってたけど、神様とかがはっちゃけて異世界に来ちゃったちょっと残念な子、だ。

 


「ルーナ」

 一回枷を外してしまうと、事あるごとに呟いてしまう。

 ルーナルーナルーナルーナルーナ。

[ナルーナに会いたいなぁ……あれ?………………ルーナに会いたいなぁ……]

リピートしてたらうっかり間違えた。寝たほうがいいな、うん。

 いろいろ考えるのは明日にしよう。あ、もう今日だけど。……寝よう。



 窓を閉めてごそごそベッドに入り直す。硬めのシーツは、別に嫌がらせでも何でもなくこの世界の平民には当たり前のものだ。何でもかんでもツルツルサラサラしている日本が恵まれすぎているのだと、私はもう知っている。

 今ごちゃごちゃ考えても仕方ない。とにかく今は生活基盤をしっかりすることが大切だ。初日で、一カ月後の式典でルーナがこの国に来ることが分かっただけでも僥倖だ。あんまり望みすぎると足元にぽっかり穴が開いたみたいに落ちたり、バナナでつるんといくみたいに転ぶかもしれない。

 一歩一歩しっかりと自分ができることを確実に、一つ一つ丁寧に自分がやらなきゃいけないことをこなしてから、遠くを見るのだ。

 その為にも、今はしっかり寝よう!

「ルーナ、私、気張って後日よりての職務全うを図るぜ!」

 明日から頑張って仕事をこなそうっと!

 そう決意して、シーツを目深にかぶって無理やり瞳を閉じる。

[……おやすみ、ルーナ]

 どうせならあなたの夢が見れたらいいな。





 なーんて乙女なことを願いながら眠った結果、見た夢は男共のぽんぽろりん湯けむり地獄で。

私のお仕事は、女性陣のぽんぱろりんをお包み遊ばすレース達を大量に洗うことだと、私はまだ知らない。


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