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神様は、少々私に手厳しい!  作者: 守野伊音
第一章:再会
15/100

15.神様、ちょっとの安息願います


 老若男女……男はいないな、老若女が勢揃いだ。なのに、全員テンションが同じなのは何故だ!

「出来るだけ早く戻る。それまで耐えろ! 私は母上と話しをつける!」

 そう言い残し、私の親友(仮)は同情たっぷりの視線を置き土産に、足早に部屋を出て行った。

 話をつけに行ったんですよね? 帰ってくるんですよね? 私を置いて逃げたんじゃないですよね!?

 カムバック親友(仮)!

 

 私は、ここでは狭すぎるときゃっきゃうふふする女性達に引きずられるように、というより実際引きずられながら部屋を移動した。気分は連行される囚人だ。宇宙人もこんな気分だったのだろうか。

 連れて行かれたのは、庭がよく見えるガラス張りの部屋だった。太陽の淡い光が綺麗だ。こんな状況じゃなかったら、駆け出して庭に突進し、ガラスにぶつかっていそうだ。

 部屋は広く、テーブルと椅子が沢山あった。そのどれもに軽食とお茶とお花が乗っている。大学で例えるなら大会議室とか、小ホールとか、そんな感じの広さだと思う。大きすぎないけど、小さくもない。少し意外だったのは、こういう時に用意される食べ物はお菓子だと思っていたことだ。テーブルに乗っているのは、サンドイッチや小さめのパンだ。



 娼館の皆と初めて会った時より腰が引けるのは何故だろう。皆様、思い思いの服や下着や化粧道具を持っている訳じゃないのに。あるのは上品な微笑みだけなのに!

「あ、あの、カズキと申すにょろり!」

 くるりと回されたと思ったら、椅子に座っていた。

「ごきげんよう、カズキさん! わたくし、妹のカトリーヌですの!」

「ごきげんよう、カズキさん! わたくし、妹のカルロッテですの!」

「ごきげんよう、カズキさん! わたくし、妹のベアトリスですの!」

「ごきげんよう、カズキさん! わたくし、妹のヘレーナですの!」

 私の前でくるくる回りながら女の子達が入れ替わる。私は必死に顔と名前を一致させようと努力した。

「わたくし叔母のネリですわ!」

「わたくし姪のニーナですわ!」

「わたくしは伯母のテスタロッサですわ!」

「わたくし従姉妹のサラですわ!」

「わたくし…………」

 あ、駄目だ!

 既に、誰が妹かも分からなくなった!

 名札を、名札を要求する! 出来れば顔写真入りでアルバムをください! そして、名札に日本語で振り仮名を振るために、並んで一人ずつお願いします! 最初からお願いします!

 彼女達は、決して重なって喋らない。一人一人喋ってくれる。それはありがたい。ありがたいのだけど、一人一人の間に一拍もいれないので全く頭に入らない。寧ろ、入った傍から抜けていく。くるくる入れ替わる老若女達の顔と名前を一致させられるのは、ルーナくらいだと思う。

 しかし、ここにルーナはいない。親友パンツもいない。気合を入れてぐっと顔を上げる。残念な頭でも、出来ることはあるはずだ。。

「あの!」

「お母様は、一所懸命努力する素直な女性がお好きなの」

「でも、お兄様の奥様になりたいと仰るご令嬢は皆様、一所懸命なご自身を伝えようと努力なさるの」

「エレナさんのご実家は、代々軍人ですのよ」

「努力はなさって当然ですもの」

「ひけらかすは恥! と仰る御方ですの」

「素敵でしょう?」

「わたくしエレナ様に憧れておりまして……」

「わたくし達がおりますもの。どのようなお立場の女性が嫁いでいらしても、アードルゲ家は安泰でしてよ?」

「お立場はどのようでも宜しいの」

「ですが、わたくし達と気が合う御方でしたら、とっても嬉しいと思いませんこと?」

「エレナ様からの『根性試し』の試練をお受けになったのよね!?」

「貴女は倒れておしまいになるほどお疲れでしたのに、直前までそれを悟らせませんでしたでしょう?」

「エレナさん、『見上げた根性です! 素晴らしい!』と大層気に入っておいでですの」

「それに、アリスさんが初めて女性をお持ち帰りなさったのよ!」

「それも、帰るなり寝室に駆けこまれて!」

「なんて情熱的!」

「驚かれたエレナさんが、林檎を握り潰されたのを見て、胸が高鳴ってしまいましたわ!」

「誰も部屋に入らないようにと仰って医師を呼びに!」

「初めに貴女が眠っていたのはアリスさんの寝台でしてよ!」

「素敵でしょう!?」

「驚かれたエレナさんが、ドアノブを捩じ切っておしまいになったの! 惚れ惚れしてしまいますわ!」

「わたくしの選んだお下着如何です!? 一等お気に入りなの!」

「あら! わたくしのスズラン柄のお下着も素敵でしてよ!」

「皆様お待ちになって! わたくし一押しの星柄お下着は如何!?」

 あ、駄目だ!

 まったく口を挟めない!

 ころころ鈴を転がすようなマシンガントーク。鈴のようでもマシンガン。威力は抜群だ!

 ずいっと一際近くに寄ってきた金髪の女の子は、夢見る少女のように両手を組んで大きな目を潤ませた。

「大陸出身で身元のない少女と、貴族の男性が情熱的な恋に落ちるなんて! ああ、何て素敵なの!」

「否定! 否定ぞり!」

 これだけは何としても口を挟むぞ!

 エレオノーラさんとの失敗を教訓に、根性でヒアリングしていた甲斐があって何とかカウンターのタイミングで返答できた。

「きゃー! もっと、もっとお話になって!」

「本当に楽しい喋り方をなさるのね!」

「素敵ですわ!」

「もっと何でもよいのでお話してくださいな!」

「お話なさるだけで楽しくさせてくださるなんて、カズキさんは素敵な方ね!」

 多勢に無勢すぎる! ここが戦場なら今すぐ戦略的撤退をするべきだ!

 だけど、私には今さっきやけくそのように親友(仮)になったアリスの汚名を雪ぐ必要がある。親友(仮)の為、そして自分の為、言うべきことは言わねばなるまい。

「私なるは!」

「何々!?」

「何ですの!?」

「どうなさったの!?」

「もっとお話しになって!」

「何でもお話しになって!」

「素敵!」

「楽しいですわぁ!」

「もっといっぱいお話ししましょう!」

「パンは如何!?」

「こちらの蜂蜜がとっても合いますの! 是非召し上がって!」

 一言に対して、返ってくるのが十倍以上。

 親友(仮)、助けて。

 部屋の入口を見ても、そこは固く閉ざされている。親友(仮)が現れるのはまだ先のようだ。

 いつの間にか粘ついていた口をどうにかしようと、勧められた紅茶を飲み干す。熱かった。勢いのままカップをテーブルに置、こうとして、高そうだと気づいてそっと下ろす。

「アリスぞ恋仲否定ぞろ! 私、他人の恋仲存在するぞ!」

 はっきり言い切った。やった、私はやったぞ!

 ぴたりと女性達の動きが止まった。比喩ではなくお花畑よりカラフルな色合いの視界で、ぴたりと全員の動きが止まる。誰かがぽとりと扇子を落とした。

 驚かせて申し訳ないけれど、これで話ができる。

 そう思ったのも束の間、耳を劈く黄色い悲鳴が上がった。おそらく、一つ一つは「きゃああ!」や「まあ!」なのだろう。しかし、それが五三人分も重なると私の平凡な耳では処理できない。五三人分の黄色い声は、凶器でもいいんじゃないかと思う。

「三角関係!? 三角関係ですの!?」

「まあ、素敵! まるで物語のようね!」

「アリス様の片思いですの!?」

「あのアリス様が…………なんて素敵なの!」

「アリス様が、貴女を恋人の元から強引に連れていらしたの!?」

「きゃあ! まさかそんな! 素敵!」

「ロマンティックですわ!」

 誰か、メガホンを、メガホンをください!

 圧倒的に不利な状況だけど諦める訳にはいかない。メガホンもマイクもないなら、腹の底から声を出すしかない。エレオノーラさんをお手本に、腹の底から声を!

 出そうとしたら咽た。緊張しながら声を張り上げようとするのはお勧めしない。咽る。

 不幸中の幸いというべきか、突然咽た私を心配してくれた皆さんは、興奮を治めてくれた。

 大丈夫? と優しくかけられる声よりは大きく宣言する。

「大丈夫ぞり。 わ、私なるは、ル」

 はっと自分の口を押える。ルーナの恋人宣言は流石にまずい。アリスが本名でいいと言っていたのは、私の名前が有名じゃないからだ。『黒曜』探しをしていた時、偽物がたくさん出るだろうことを予想して、私の名前は秘されたらしい。

 しかし、ルーナは有名だ。それが『騎士ルーナ』と結び付けられるかは分からないけれど、迂闊なことはしないほうがいいはずだ。それにロマンティック宣言とか私には荷が重い。恋人宣言もかなり恥ずかしい。彼氏いるんだ宣言もなんとなく気恥ずかしいのに、恋仲宣言はかなり恥ずかしい。さっきの一回で勇気を使い果たした。

「ル?」

 慌てて誤魔化そうとしたけれど、あれだけの騒がしさの中でもしっかり聞きとられている。急いで何か代わりになる言葉を考えなければならない。ルーナ……ロマンティック……ル、ロ……ル、ロ…………。ルとロで始まる言葉を誰か!


「ル、ル…………ル、ルーズソックスなロドリゲスぞり!」


 ロドリゲスって誰だ。

 自分で言ったけれど、思わず真顔で疑問符を浮かべる。更に、別にロマンティックは口に出していないので、ロから始まる単語を考える必要は全くなかった。

「ルーズソックス?」

 巻き髪を後ろに流した女性が首を傾げる。そうだ、この世界にそんなものあるはずがない。かといって、こっちの世界にはない物ですなんて説明できるはずがない。

 嫌な汗が背筋を伝い落ちていく。まずい、弁明できる言語力なんてない。頭脳もない!

 女性は少し思案して、合点がいったと言わんばかりに輝いた笑顔で両手を叩いた。

「大陸で流行っていると噂のルーズソックスですね!」

 あるの!? ルーズソックスあるの!?

 この世界に再び戻ってきたときより驚いた。

 女性の一言で、周囲の女性達も一斉に喋り始める。

「書物で読んだことがございますわ! 大陸で流行した足カバーですわよね!」

「わたくしも聞いたことがございますわ!」

「何でも、布を贅沢に使用していることから富の象徴とか!」

「通常の何倍も布を使用して、敢えて余裕を持たせて弛ませるのが流儀とか!」

「中には太腿まである物もあるとか!」

「落ちてしまわないよう縛る紐は色鮮やかな物を使うそうですわね!」

 きゃっきゃとお話しに花を咲かせる人々に、やっぱり口を挟めない私は、メイドさんに渡されたパンをもそもそ齧った。美味しいです。

「つまり、カズキさんは大陸のロドリゲスさんと愛し合っているのですね!」

「ぶほっ!?」

 パンが喉に詰まった。愛し合ってるとか、言葉に出されると結構な破壊力だ。慌てて何か飲もうと振り向く。

 苦しいし、何だか謎の人物が出来上がってしまったが、何とか誤魔化せたようだ。ほっとしてカップを取ろうとした私の視界で、ばんっと勢いよく扉が開かれた。




「聞いてないぞ!?」


 予想外の人物も誤魔化された!



 突如として現れたルーナは、窓ガラスが割れんばかりの黄色い悲鳴を意にも介さず、大股で私の前まで歩いてきた。昨夜と服装が違う。身体の線に沿ったグラースの制服ではなく、少しふわりとした服はブルドゥス寄りだ。

 目の下の隈は眠ってないからだろうか。……そういえば、いま何時なんだろう。時計を探す暇もなく、大きくなった掌で肩を丸々掴まれた。そのまま、ずいっと至近距離になった顔に悲鳴を上げそうになったが、パンが詰まって身悶える。思わずイケメン顔を押しのけて、カップに飛びつく。少し冷めた紅茶で流し込み、なんとか人心地ついた。

「カズキ、お前っ! 男を作ったのか!? 俺がいるのに!?」

[ちょ、ちがっ……!]

「きゃー! いったい何角ですの!? 何角関係ですの!?」

「素敵素敵! まるでお芝居のようですわ!」

「アリスさんにロドリゲスさんに、新人物に! カズキさんったら素敵ですわ!」

「えー! カズキさんはお兄様にお嫁入りしてくださるのではないの!?」

 私の肩を掴んだまま、ルーナの首がぐるりと後ろを向いた。梟じゃあるまいし、そこまで常人離れする必要はないんじゃないかな!?

 かろうじて人間の範囲だとは思うけど、スムーズに回りすぎたルーナの首に慄いていると、再びぐるりと戻ってきた。

「うぉわぁあああああ!?」

 あ、駄目だ!

 イケメンどうのこうのの段階を飛び越えて、目が怖い! 非常に目が怖い!

「どいつだ」

「は!?」

 目の怖さと勝負できるほど低い声音で問われる。ドイツがどうしたんですかね! ソーセージが美味しいそうですよ!

 目が怖すぎてイケメンとか吹っ飛びそうだ。目つき悪い!

「俺がいるのに、お前と愛し合ったという不届き者はどいつだ。どこにいる。俺がいるのに俺より弱い奴は認めない。俺よりカズキ用語を解読できるんだろうな、俺よりカズキ珍行動を理解できるんだろうな。そうでなければ別れないぞ、俺がいるんだからな! 後、騎士アードルゲとの婚約も認めないからな! 何せ俺がいるんだからな!」

 人間混乱したら碌に思考も回らない。ぐるっぐる混乱した特に優秀でもない私の頭脳は、矢継ぎ早に畳み掛けられて日本語すら出てこなくなった。

 ああ、おっきいソーセージに齧り付きたい。食べたらかしゅっと汁が飛ぶくらいぷりっぷりのソーセージがいいです。ピリ辛も捨てがたいけど、あまりきつすぎないハーブのソーセージな気分です。…………今気づいたけど、私はどうやらすごくお腹が空いているようだ。

「まあ! カズキさんったら罪なお人!」

「罪人に成り果てたが私!?」

「魔性の女ですわね!」

「無精の女ぞろりんぱ!?」

「アリスさんにこの方に、皆様素敵な殿方ばかり! きっとロドリゲスさんも魅力的な方なのですね!」

 それは知らない。

 そこだけ思わず真顔になる。とりあえず、想像してみよう。頭の中で髭面の小男がフラダンスを始めた。自分の想像力のなさが恨めしい。



「注目!」

 混沌とした部屋の中に、びりびりとガラスを揺らす声が響き渡る。その声が響いた途端、きゃあきゃあはしゃいでいた女性達は、背筋を伸ばして立ち上がる。一糸乱れぬ様子で身体の正面を声のした方向、扉に向けた。

 そこにいたのはアリスとエレオノーラさんだ。なんとエレオノーラさんはアリスより背が高かった。

「今日よりカズキは、わたくしの恩人としてアードルゲ家に滞在します! 現状において、それ以上の詮索は無用! 異論は!」

「ございません!」

「宜しい! では、各自朝食を済ませ次第、平時に戻るように! カズキは朝食を済ませ次第睡眠を取りなさい! 以上! 解散!」

「畏まりました!」

 下手をすると、ミガンダ砦の皆より統制されていたかもしれない。

 定規で測ったような礼が五三人分並んでいる。壁際ではメイドさん達も同じだ。これだけの人数がいるのに一糸の乱れもない背中を呆然と見つめた。

 エレオノーラさんはかつん! とヒールの踵を鳴らし、ぴんっと伸ばした背筋そのままに足早に立ち去って行った。

 張りつめた空気はあっという間に霧散し、女性達はからはさっきまでのきゃっきゃうふふな空気を醸し出された。

「カズキさん、仲良くしてくださいませ」

「カズキさん、たくさんお話ししましょうね」

「カズキ様、たくさん召し上がってね」

 鈴のような声で笑いながら声をかけていってくれる皆さんに、何とか一人一人頭を下げる。間髪いれないご挨拶くださいまして、誠にありがとうございます。できれば一拍くらいは置いて頂けると嬉しいです!


 本日二度目となる全員の挨拶が終わった。大変申し訳ないことに、誰が誰だかさっぱり分からない。後でアリスに聞こう。

 女性達はこっちを気にしながらも、さっきみたいに質問攻めしてくることはなかった。楽しそうに食事を開始している。

 もしかしなくても、これは朝食だったのか。確かに、よく見れば壁際にスープやサラダが用意されている。恐らくだけど、最初は話がしやすいように手だけで食べられる物だけテーブルに乗せられていたのかもしれない。


 早足で合流したアリスに引っ張られるように隅の席に移動する。

「母上には事情を話した」

「アリス! 状況を報告せよを求むぞ私がぞろりんぱ!」

「後で説明する! それよりもそっちを何とかしろ、そっちを!」

 促されるままに視線を向けたら怖かった。

 目が悪い! 間違えた! 目つき悪い! そして怖い!

 実は、世界で一番綺麗なんじゃないかと思うくらい大好きな水色が、完全に据わってしまっている。

「カズキ」

「うはい!」

 肩をがっしり掴んだ掌は熱いくらいなのに、掴まれたところから冷気が漂っていく。

「百歩、いや……百国譲って騎士アードルゲとの婚約を認めるとしよう」

「欠片も認める気がないが、そのような事態は百国同盟が組まれるよりありえん!」

 もっともだ! もっと言ってやってください、親友(仮)!

「だが、どこの骨とも知れぬロドリゲスとかいう男だけは認めない、断じて認めない! 騎士アードルゲ! ロドリゲスとは誰だ!」

 親友(仮)は、ルーナに掴まれた腕を振りほどき、ぐいっと私に押し付けてきた。

 貴様なんて親友(仮)じゃない! 親友(未定)だ!

 よく考えたら仮も未定もほとんど同じだ! じゃあもう仮でいいよ、仮で!

 親友(仮)は、私からびしばし飛び交う非難の視線に、同じ視線で返してきた。

「私を巻き込むな、私を!」

「申し訳ござりませんです!」

 もっともすぎる言い分だ。

 アリスにはそろそろ土下座するべきだろうか。

「カズキ! 決闘を申し込む!」

[負けますね!]

「お前にじゃない、ロドリゲスだ! ロドリゲスとは誰だ!」

[貴方ですね!]

「俺か!」

 次いで何かを言おうとしていたルーナは、ぴたりと動きを止めた。丸くなった目は、さっきまでの怖さを完全に消して、まるであの頃みたいに可愛い。

 きょとしんとした顔が可愛いと言ったら、昔みたいに真っ赤になって怒るだろうか。

「俺?」

[他に誰が!?]

 ぽかんとした後、じわじわ嬉しそうな顔になっていくイケメンに、こっちは首筋から背中にかけて熱くなっていく。このままだと顔が真っ赤になりそうだ。

 しかし、それは杞憂だった。嬉しそうだったルーナは、じわじわ悲しげな表情になっていく。

 そして、悲壮感漂う顔で私を見つめた。



「カズキ…………俺の名前はロドリゲスじゃないからな」

[知ってるよ!]



 


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