12.神様、ちょっとは賢くなりたいです
「あ、ははははは! あははははははははははは!」
突然娼館の皆が大声で笑い始めた。特にカルーラさんは爆笑だ。一応ここ隠れているんですが、皆さん。
お腹を抱えて笑っている皆は、ひーひー言いながら苦しそうに目尻を擦った。
「こ、こいつは傑作だね! この辺の国の女は必ず、『黒曜のようになりなさい』だの『そんなんじゃ黒曜になれない』だの言われるってのに!」
「そのようぞ事態が発生したらば大惨事じょろ!」
「自分で言うかい! あはははははっはははははは!」
痙攣しそうになるまで笑わなくてもいいじゃないですかね。皆の笑い声が大きすぎて、すぐにここばれると思うんですが、それもいいんですかね。
ちょっとだけ釈然としない思いで皆を見ていると、散々笑ったカルーラさんは、懐から何かを取り出して振り始めた。
「あたしはね、『黒曜』ってのは迷惑だったんだよ。あたしに限らず、娼婦は皆そうさ。そりゃ、中には憧れたりする子もいただろうけどさ。娼婦ってだけで『美人で賢くて芸に秀でた女の頂点』っていわれる黒曜様を引っ張り出してきて嘲笑されるのは忌々しいさ。あたしらは、そりゃ世間様に誇れない仕事をしてる。けどね、あたしらは働いてるって誇りがあるんだ。それをわざわざ、頂点である『黒曜様』を引き合いにして、あたしらを底辺にしてくる奴らの多いこと多いこと。『黒曜様』を褒めたいが為にあたしらを落としてねぇ……あたし達を嘲笑いの対象にしてくれた黒曜様がここにいたら、一発ひっぱたいてやりたいとさえ思ってたよ。八つ当たりだって分かってるけどね、『お優しい黒曜様』だったら許してくれるだろ? ってね。馬鹿だよねぇ」
綺麗なウインクに見惚れる。私は駄目だしされたけど。
それにしても、あれだけの大規模なパレードがあるにも拘らず、黒曜の話が全くといっていいほど出なかったのはそういう理由だったのか。
何かを褒める為に、何かを貶める必要なんてない。逆も然りだ。いいものはいい。それだけでいいのに、どうしてその為に何かを貶める人がいるのだろう。何かを貶さないと褒められない物に価値なんてあるのだろうか。
少なくても、カルーラさん達を嘲笑って持ち上げる価値なんて、『黒曜』は勿論、私にあるはずがない。寧ろそんな方法でしか褒められない物こそ、嘲笑の対象ではないのか。
整えられた爪の間で弄ばれていた小瓶の蓋が開けられる。焦げくさい煙の所為で分かりづらいけれど、インクの匂いがした。
「でもさ、あんたが『黒曜』ってんなら、謝らなきゃいけないのはあたしたちの方さ。勝手に偶像にしちまって、悪かったねぇ。びっくりしたろ? 怖かったね。ごめんねぇ。あんたは変わってないんだろ? だとしたら、変わっちまったのは世界のほうさ。悪かったねぇ、ほんとに、ごめんね」
たっぷりと波打つ髪を一纏めにして、カルーラさんは小瓶の中身を髪にぶちまけた。
「カ、カルーラさん!? 正気! 正気を確認!」
「あたしの気は確かだよ…………リリィ、あたしも結構分かってきたよ」
リリィはこくりと頷く。こくりじゃないですよ!?
「ん、結構染まるもんだね。もしものときはこれをあいつらにぶつけて目潰しにしてやろうと思ってたけど」
真っ赤な髪が見る見る間に黒く染まり、綺麗な髪が暗闇に溶けていく。リリィもそうだけど、インクって落ちるの!?
最早日本語さえ出なくなって、水替え要求もしくは餌要求の金魚の如くぱくぱくしている私に、ずしりとした重さが乗っかる。慌てて視線を落とすと、私がこっちに来たときに持っていた荷物だった。
「はいはい、後のことはこっちでやりますから、カズキはそれ持ってとっとと逃げる。荷物、たぶんそれでいいと思いますけど…………異様に重かったんですが?」
あ、すみません。大学のテキストと辞書、家庭教師のバイト用の参考書に、休み時間用のお菓子の本三冊です。鞄ぱんぱんです。たぶんそろそろ壊れます。
「いいですか、カズキ。この異世界の荷物は、貴女が貴女である重要な証拠です。見つかれば貴女の身を危うくするかもしれませんし、悪用されるかもしれないことを忘れずに。逆に、黒曜が貴女であることを証明する大事な物です。命の次に守るように。いいですね?」
「はい! イギュンネイシャンさん!」
「イグネイシャルスです。……そっちのほうがいいづらくないですか?」
面目ない。結局ちゃんと言えなかった。
ネイさんからの忠告を胸に、鞄を横掛けにしっかり装備する。その私の手に、小袋が手渡される。
「後で渡そうと思っていろいろ入れてる。使い方分からなかったら、信頼できる人に聞いて。後、しゃがんで?」
がちゃがちゃいってる袋を肩紐に結びながらしゃがむ。女の子達が代わりに結び付けてくれた。…………他にもいろいろ詰め込んでませんかね。なんだか一気に重くなったんですが。ありがとうとお礼を言いながら、もっとしゃがんでと襟を引っ張られて頭を下げる。
頭を何かが通り、引かれた服の下にぽてんと重さが落ちた。
「今日のお店で買ったの。いつも頑張ってくれてるお礼。困ったときは売ってお金にしてね」
とんでもないことを言われて、思わず服の上からぎゅっと握りしめる。
「ありがとう! しかしでも、ここで引いたら男が廃るわぞり! 誠心誠意後生親身に誓い合うと誓うぞろ!」
頂き物を金で換金する前提なんて悲しすぎるし、何より大好きなリリィから貰ったものを売るくらいなら雑草食んだほうがマシだ。
威嚇する動物みたいに胸元を掴んでいると、皆がどっと笑った。よく分からないけど皆の笑った顔が好きなのでよしな気がする。笑われてるのは私の行動だけどな!
「私達は時間稼ぎながら別ルートで避難する。カズキと騎士達はそこの隠し通路使って」
気がつけば、怪我人の女の子達が自警団の手を借りて移動を始めていた。怪我をしているのに親指立てて、にっと笑ってくれる。
囮なんてさせられない。迷惑かけてごめん。私も事態がよく分からないけど巻き込んでごめん。怪我させてごめん。
色々、言いたいことがある。叫びたいことがある。全員に土下座したって足りないくらいだ。
なのに、いまこの場で私が言えることはたった一つだけなのが悔しい。
「ありがとう」
ごめんねと続けたくなるのをぐっと堪えて、両手で頬を叩く。いま私にできる事は、皆の迷惑にならないようとっとと姿を晦ますことだ。
よしっと気合いを入れ、べたりと床に張り付く。これで隠し通路もあっという間に這って見せる。這い蹲って待機したら、リリィが首をこてりと傾けた。
「…………カズキ、どうしたの?」
「内密な通路突破ぞろ?」
「あ、隠し通路こっちだよ。そっちは通風孔」
合点がいったと頷いたリリィは、首からぶら下げていた鍵束をごそりと取り出した。そんな所にそんな重たいものが入っていたとは知らなんだ。
リリィは暗い手元に少し苦労しながら、扉の鍵を開けた。ネイさんともう一人自警団の人が二人掛かりで開けた扉は随分厚い。部屋があるかと思ったそこは通路が続いていた。確かに、隠された通路だ。
そして、通風孔っぽいと思っていた物は通風孔だったらしい。他のに比べて若干大きい気もしたが、しただけだったみたいだ。
無言で起き上がってぱたぱたと埃を払う。うん、これは非常に恥ずかしい。皆が何も言わないのは優しさだろう。でも、いっそからかってくれたほうがよかった。皆の優しさが非常に痛い。
「…………変わってないな、カズキ。その、良くも悪くも素直で真剣に阿呆やるところ」
[しみじみ懐かしむのはやめてくれますかね……]
「他の奴らにからかわれたのも気づかず、上着を履いて、ズボンに腕を通してにこにこしてた時から変わらないな。皆の着方見てれば分かっただろうに…………」
[せめて日本語! 日本語でお願いします!]
「鍋をかぶって歩いてる時は何をしてるかと思った。まさか着飾ってるつもりだったとは……」
[寧ろもう何も喋らないでくれるかな!? ね!? いい子だから!]
過去の恥をしみじみ暴露された。皆の生暖かい目が優しくつらい!
[…………今の俺を子ども扱いするのはカズキくらいだからな]
[そこだけ日本語はずるくない!?]
恥ずかしさを振り払い、空気を換えようと無理やり元気いっぱい振り返る。
「この方角ぞ、突撃致すぞ誠実に!」
「あ、隠し通路こっちだよ」
得意の韋駄天走りで暗闇に向かおうとしたら、リリィは開いた扉の裏に座り込んだ。勢い込んだ私の首根っこをルーナが掴んで止める。
しゃがみこんだ小さな背中を見ていると、よいしょと可愛い掛け声と一緒に、がこりと重たいものが動く音がした。
がこがこと、壁の中を何かが動いていく音がする。言うなら、木の固まりが填まっていくような音だ。鉄とは違う、木特有の柔らかめのがっこん音だ。厚い壁の向こうに何かがある。これは、ちょっとテンションが上がる。からくり屋敷だ。凄い。
目の前の壁が動いて通路が現れるのを今か今かと待ち侘びていると、つんつんと裾を引かれた。
「カズキ、下」
促されて床を見ると、壁と床の境目の一部分がぽっかり隙間を開けていた。今度こそ、かろうじて人が一人通れるか否かの隙間だ。よかった、早まって壁に突進しなくて。
廊下の一部分がずれたように一枠開いたそこに、促されるままアリスが足から入っていく。
「騎士アードルゲ。外套を尻の下に巻き込む形で座ってください。え? ああ、そうです。滑り台です」
ネイさんの説明に、こんな場合なのに胸が高鳴った。
「滑るぞ台!」
「カズキ、カズキ。それ似てるけど根本的に何かが違う」
すかさずリリィから訂正が入る。面目ない。
身体を胸まで入れたアリスは、足元を確認しながらしゃがんでいく。床を掴んでいる指に力が入っているところを見ると、足場は結構下なのだろうか。どうしよう、ちょっと不安になってきた。
[こういうの、階段とか縄橋子だと思ってた]
「え?」
うっかり口に出してた独り言にリリィが振り返ってくれた。気にかけてくれてるんだなーと思うと、胸がきゅんきゅんする。
「階段か縄橋子が現れると思ったらしい」
「ありがうぉわぁあああああ!?」
「うおおおぉぉ――……」
翻訳してくれたルーナにお礼をと見上げたら、身長が伸びている彼を斜め下から見ることになった。顔の上部に影が入って、鋭い目線が私を見下ろしていて、非常に怖かった。
「あ、ルーナにょ…………驚愕したぞろ」
「抱かれたい男一位の顔を見て、恐怖の悲鳴を上げるのはカズキくらいですよ。さあ、用意して」
促されて入口を見ると、アリスはいなくなっていた。……そういえば、さっき私の悲鳴に重なって何か聞こえたような気がする。そんなに急勾配の滑り台なんだろうか。
ごくりと唾を飲み込む。私の心配を察したのか、リリィがぽんと背中を叩いてくれる。
「大丈夫。滑り台なのは、緊急を要する避難で女の子達が急いで避難できるようにだから。急いでるのに普段慣れてない縄橋子で大人数は無理。階段もこけると危ない」
「かと言っても、それなりの角度がありますから女性は二人で行くほうが安全です。騎士ホーネルト、先に入ってください。次いでカズキを下ろします」
「感謝する」
短いお礼の言葉を告げたルーナは、くるりと振り返り酒樽さんにも頭を下げる。
「ギャプラー殿も、この礼は必ず」
「これ、ルーナ殿に頭を下げられるとわしの立つ瀬がないわい。こんなもの、このギャプラーの恩返しの一つにもなりゃせんわ。恩人の女一人助けられんで、何がギャプラーじゃ」
にっと笑った酒樽さんに、娼館の皆が三歩くらい引く。
「酒樽がいいこと言った……」
「酒樽が真面目なことを……」
「酒樽が…………」
「明日は雨だ…………」
「明日は酒だ…………」
「酒の雨か…………いいな、それ」
その光景を思い浮かべたのか、皆が幸せそうな顔になった。
「その雨で二日酔いになっても、薬用意してあげませんからね」
その光景を思い浮かべたのか、皆が頭を押さえて痛そうな顔になった。
もう一度頭を下げたルーナに並んで、私も頭を下げる。ありがとうしか言わせてもらえないなら、せめて行動も合わせて伝えるしかない。
「さあ、急いでください」
急かされて、まずはルーナが隙間から滑り込む。アリスが入っていくのを見て、大体の見当をつけていたのだろう。足を下ろすのに躊躇いがない。流石、昔からそういう感やセンスがずば抜けていたルーナだ。戦場でも一度見た剣の軌道は必ず覚えていた。
私だって、一度食べた食べ物は必ず覚えている。美味しいジュースだと言われて一気飲みしたそれが調味料だったことも決して忘れない。
隙間から下を覗けば、暗がりの中にルーナがいるのが見える。上目遣いも怖いですね。でも、今度は大体の怖さを予想していたから叫ばないで済んだ。
もう一度ありがとうを言おうと振り返った私の手を、リリィが両手で握る。
「カズキ、忘れないで。私達は王の味方にも黒曜の味方にもならない。けど、絶対にカズキの味方だから。カズキの仲間だから。忘れちゃ駄目だよ」
思わず小さなリリィの手を両手で包むように握り返す。本当に、なんて、なんてありがたい存在なんだろう。リリィだけじゃない。ここにいる皆に、どれだけ感謝を叫んでも足りない。
助けてくれただけじゃない。衣食住を提供してくれただけじゃない。それだけでも返しきれないほどの恩を貰ったのに、もっと尊いものを与えてもらった。人が人としてあるために必要な尊さを与えてくれるのは、いつだって人だ。
ありがたい、ありがとう。
私と知り合ってくれてありがとう。私と笑ってくれてありがとう。私と楽しくしてくれてありがとう。私を関係のない通りすがりの一人にしないでくれてありがとう。
「ありがとうっ」
私と繋がってくれて、本当にありがとう。
「さあ、カズキ。急いでください。下に騎士ホーネルトがいますから、そのまま飛び込んで大丈夫です」
促されるままにしゃがみ込み、両足を入れる。そして思いっきり息を吸い込んで身体を滑り落とした。暗闇に落ちる感覚に背筋を何かが駆け上っていったが、それもすぐに終わる。先に待機していたルーナの腕に抱えられ、膝の間に下ろされる。
「カズキ、気をつけて」
「人の名前は、せめて本名より短く覚えるようにしてくださいね」
「カズキ、あんた色仕掛け向いてないわ」
隙間から皆が覗きこんで声をかけてくれる。最後の言葉は駄目出しだった。しょんぼりだ。もっと精進します、師匠。
「行くぞ」
短い合図が旋毛にかかったと同時に、背中に当たっていたルーナのお腹に力が入る。軽装の鎧でもつけてるのかと思うくらい硬かった。
ルーナに押されて少しずつ身体が進み始める。声を出す間もなく、あっという間に顔に当たる風が強くなっていく。真っ暗な中をかなりの勢いで滑り降りていくのが分かる。右に傾き左に傾き、ぐるぐる回っているとさえ思う。
暗闇は前にいきなり壁があっても分からないほど深い。思わず、抱え込んでくれているルーナの腕にしがみついた。
[こ、こわっ、怖い!]
「…………俺の顔とどっちが怖い?」
[あ、ルーナでお願いします]
「……………………」
迫力が違います、迫力が。
正直に答えたら、むっとしたのが雰囲気で分かった。それはそうだ。顔が怖いとか言われて嬉しい人はいない。思わず素で答えてしまったけど、凄い失礼だ。散々悲鳴を上げた後だけど、やっぱり失礼はいけない。親しき仲にも礼儀ありだ。謝ろう。
謝罪は相手の顔を見て言わないと、これまた失礼だ。
振り向けば、前から叩きつけるような風に煽られた横髪が口に入る。払おうとした手を大きな手に掴まれた。もう一本は私の頭の後ろを通って顎を押さえている。動けない。
「ったく、お前は、俺に誰も近づかない時はひょいひょい寄ってきたくせに」
[ん?]
「きゃーきゃー騒がれ出したら離れていくとか、お前本当に何なんだ」
[須山一樹です]
「知ってる」
どうでもいいけど、低くなったルーナの声できゃーきゃーとか言われると、違和感が凄い。
そして顔が近い。動けない。
「それでも、お前言ったからな。まだ俺が好きだって。だったら俺も、遠慮しない」
「あれ?」
ルーナの顔がどんどん近くなる。これはあれだ、目を閉じなければならないシーンだ。一体いつそんな雰囲気になったんだろう。そして髪がばしばし顔に当たって痛い。いやいや、そんなことより何でこんな雰囲気に。いや、目を閉じるのが先か?
この間恐らくコンマくらいだろう。何はともあれ目を閉じようと、気合を入れてぎゅうと目を閉じた私の耳に、風の音に紛れて慌てた声が聞こえた。
「待て! 止まれ!」
「あ」
「え?」
焦ったアリスの声と、ちょっと間が抜けたルーナの声を聞きながら目を開くと、目の前でアリスが踏ん張っていた。滑り台の途中で止まっていたアリスに、私達はそのまま突っ込んだ。
なんとアリスは、勢いのついた二人分の力に耐えた。ルーナが咄嗟に手足を使ってブレーキをかけたのも大きかったと思うけれど、衝撃に持ちこたえたアリスは凄い。
「っ――――! 前を見ろ!」
荒い息を吐くアリスを乗り越えるように覗き込む。あまりよく見えないけど、水音がするのは分かった。
[水路?]
「そうみたいだ。臭いがないから下水じゃないな」
「下水はもう一本下だ」
暗闇に慣れてきた目をこらすと、滑り台はここで終わっている。水路から少し高い位置が終点らしく、アリスが止まっていてくれなかったらそのまま水路に突っ込んでいた。
水路の横には人が歩けそうな通路もあるようだ。飛び降りられない距離ではないが、少々体勢を整える必要がある。ごそごそと三人で足の位置を調整していると、アリスが何かを引っ張った。
「おい、私の外套を踏むな」
「あ、ごめうひょぁ!?」
狭い滑り台の上で、身体を捻りながら私が踏みつけていた外套の裾を回収しようとしたアリスの手が、私の脇腹を掴んだ拍子に珍妙な悲鳴をあげてしまった。それに驚いたアリスがバランスを崩す。落ちていくアリスの外套を踏んだままだった私も、足が滑って身体が傾いた。慌てて掴もうとした場所はルーナの襟元だったようだ。咄嗟に首が締まるのは回避したルーナも、変に身体を捻った体勢では踏ん張りも利かない。
結果、三つの水柱が水路に上がることになった。




