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第8章 開かずの扉

自分の携帯で時間を確認する、幸いにも電波までは阻害する機能がない結界らしい、今回は県外になっていなかった。


 あれから異変が起きてからさらに10分、合計で20分弱だろうか、話が纏まった二人は敵が来るのを待っていたが、一向に来る気配がない。


「どういうことだ?何時まで立っても全然こない…?」


 どこかに隠れて待ち伏せしているのだろうか、それにしたって遅すぎるだろう、そもそも結界を張っている時点で何者かが来たとはバレているだろうし。いや、そもそもなんで敵は結界を張ってきたんだ?


 何か結界を張らなくてはいけない事情があるのか?


「かみっち…」


 不意に声を掛けられ、意識が有紀に向いたことで考えていたことが霧散してしまう。ただ急に声を掛けられたからじゃない、有紀が口から漏れたのは小さい声だった、普通なら気づかないほどに小さい、力ないか弱い声、そのあまりにも気力が失われている声に異変を感じ、霧散してしまった。 

 

 振り向いて有紀の顔を見ると、また青ざめている、それどころか息を荒くして、体調が悪いように見える。


「ど、どうしたんだよ有紀!?」


 素人の俺から見てもこれは明らかに良くない、有紀の顔から生気が失われていくのが目で見てとれるほどだ。


「わ、わからない…よくわかんないけど、大丈夫じゃなさそう…」

 

 それだけ言うと、有紀はグッタリして床に倒れてしまった。

 

 ---な、なんで?!いまさらになって有紀の体に異変が?いや、今は深く考え込んでる時間がない、とにかく今は有紀を何処か安全な場所に…


「ハロー」


「ッ?!」


 有紀を担ぎ、急いで廊下に出ようとして、後ろから声を掛けられた。


 そんな、だってさっきまで動けてる者は誰もいなかったはず…。


「あー、やっぱり神さんは呪詛は効かないか~」


 機械染みた高い声で、突如現れた奴はいう。


「ん?でももう一人の女の方はバッチリ呪詛を食らってるみたいだね、なんで動けてるのか知らないけど、まあ、どっちも殺せば問題ないか」


 こいつは今呪詛といったよな、呪詛…呪い?!


 なかなか襲ってこなかったのは呪詛の準備かなにかのせいだったってことか、それで有紀が急に具合が悪くなったのか、それに加えて殺害宣告、つまり敵!


「ハハハ、神ってどんな凄い奴なんだろうと期待してたけど、蓋を開けてみるとなんだこれ、ただの小僧じゃん!」


 このままじゃ、何も抵抗すらできずに殺されてしまう。ハッタリでもいい、相手にスキを作って逃げなくては…。

 震えそうになる体を無理やり押さえ込み、なるべく注意しながら現れた正体を見る。

 

 それは、人だった。


「え?」


 異形の怪物か何かを想像していたあまり、意外すぎて驚いた。


「ひ、人?」


 中神は、最初の異形の化け物を見ていたため、どんな怪物だろうが驚かないと思ってた。でも、あまりにも予想外すぎた。


 中神が見た人物は、髪を綺麗に整え、黒い衣装をまとい、凛々しい顔立ちを持った青少年そのものだった。


「あれ?もしかして自分と同じ人間でびっくりした?」


 中神の驚いた様子に、満足したように青少年は笑った。


「誰だあんた」


「ハハハ」


 誰かと問いかけても目の前の青少年は笑うだけで何も答えない。


「なんで人間のアンタが俺を狙うんだよ?!」


 小馬鹿にしたような笑いが勘にさわり、怒鳴ってしまった。

 そんなことを青少年は気にもせず、驚きもせず、ただ笑みをしたまま質問を返してくる。


「なんで狙うって?そんなん、決まってるじゃないか?」


 さも当然のことだろうといいたけな顔で青少年は言う。


 だが、その青少年の当然は、中神には未知の世界なのだ、ほんの少し前まで普通の生活をしていた高校正だ、神だの悪魔だの言われたところで知っているはずもなかった。


「だから、なんで俺が狙われるんだ、邪魔だからか?」


 もしかしたら、何か情報を手に入れられるかもしれないと、質問を返した。


「え…?知らないの?本当に?」


「知らないから理由を尋ねているんだろうが」


 当然知っていると思っていたのだろうか、ここに来て驚きが隠せない表情になっていた。


 すると何かを考えているのだろうか「いや、そんなまさか、でも…」と、ぶつぶつと何かを呟き始めた。

 

 …これは、チャンスなんじゃないか?

 

 まさか、知らないといっただけでここまで隙ができるなんて…、まるで自分が無能だと思わせられたが、ここまで無防備なら!

 

 俺は気づかれないよう有紀を下ろし、近くにあるテーブルに近づく。

 

 情報なんて後者だ、倒せるならいいけど、駄目だとしても負傷を少しでも与えて有利にするんだ!


「ああ、なるほどね!そういうことか!」


 考えの整理が終わったのか、手をポンと叩く仕草をしている。


 それと同時にテーブルを全力で青少年目掛けて投げた。


「おらああああああああああああああああああああああ!」


「ん、おお?おおおおお!?」


 青少年は一瞬だけ反応し、そのあとに「ゴキャッ」と鈍い音を立てて倒れた。


「うわあ…、いったそー…」


 嫌な音を立て、当たった青少年は力なく床に倒れた。


「し、死んで…ないよな…?」


 一瞬男の生死を心配したが、命を狙われていたことを考えると自業自得かもしれない。


「なんていうか…」


 思ったよりもうまくいき内心驚いて少し呆けてしまった。

 倒れ伏せている青少年を、なにか縄で拘束しようと探すことにする。

 縄を探している途中、床に降ろしていた有紀と目が合った。さっきの音で驚いたのだろうか、なにが起こったのかと心配そうな目で見てきている。


 いつもの気の強い有紀は、もう欠片もない。


「悪い、もうちょい待っててくれ」


「うん…わかった、待ってるね…」


 心なしか、有紀の顔色に生気が戻っている。


 あの青少年にダメージを与えたからなのだろうか。


「人間なら、頭に机が思いっきりあたれば相当なダメージを受けるだろ!」


 というか辺りどころわるけりゃ死ぬしね…あれ、って、これもし、仮に死んじゃったら俺殺人…いやいやいや!


 脳裏に手錠をはめられ、泣きながら連行される自分の姿を想像し、それをぶんぶんと頭を振って考えたことをもみ消す。


 なおも倒れ伏せている生きているのか死んでいるのかわからない青少年をチラチラと見て気にしながら縄を探していると、クラスのカバンの中にワイヤーが入っていた。


「なんでワイヤーが入っているんだか知らんが…、今はありがたい、勝手にだが使わせてもららおう」


 ワイヤーで取りあえず起き上がる前に手足だけでも縛ろうと思い近づく。


「んー、もしかして今ので終わりなわけ?」


 だが、青少年は何事もなかったように起き上がった。


「え!?」


 普通の人間ならば、思い切り頭を打ち付ければ、それだけで致命傷になる、気絶しなくとも、意識が朦朧となるはず。


 だが、目の前の青少年には、苦痛の色さえ見て取れない。


「どうして?!あんな辺りしたら死ななくとも怪我ぐらいはしてもおかしくはないのに!」


 上手く致命傷は避けた?いや、どう見ても手でガードもしてなかったし、頭に当たる直後まで反応できてなかった…、じゃあ、なんで目の前の男は無傷なんだ?!


「今、なんで傷一つないんだろうって思っただろ?」


「っ!」


「そんなに驚いた顔みたら誰でも分かるさ、自分の顔を見てごらんよ、絶望に染まりきった顔をしているよ?」

 

 普通なら、傷一つ負う攻撃を、無傷で受ける、そんなのは人間とは呼ばない。


「やっぱアンタ…人じゃないな!」


 人間じゃないと悟った瞬間、俺は有紀を抱え、急いで廊下にでて、全力で走る。

 

 所々に、『廊下を走るな!』のポスターが目に入る。

 

 命の危険に晒されているので、別にいいよね!?と思いながら、どこに一旦隠れるか考えた。

 

 神上高校は、宗教や神のまつえの図書室がある、そこはとても広く、世界各国の本が揃っている。


 図書館の文字を浮かべた後、頭にふと一つの噂を思い出した。


 ---確か、関係者以外立ち入り禁止の場所があったな…。


 神上高校では、七不思議が存在する。その一つには、屋上だの裏口だのと出入り禁止はないのだが、図書室にある奥の扉だけは、なぜか先生方どころか、すべての人が立ち入り禁止という異例の場所がある。


 そんな異例の場所なら、面白がって誰か入ろうとするんじゃないかと一時期考えていたのだが、なぜか誰も入ろうとする輩がでず、話にも話題にもならなかった。


 そのことを思い返すと、何故か体の奥底がざわついた。


「この学校の不思議…学校の壱つの不思議に何か隠されているのか?」


 そんなことを考えている中神の後ろからは、黒い翼を生やし、前歯の2本

をぎらつかせた青少年が追いかけてきている。


 その姿には、最初にあった青少年の面影がなく、耳が尖り歯が突き出て、背中から翼を生やし、爪が長く伸びて鋭利に尖り、目は鋭く険しい表情になっていて、その姿は吸血鬼そのものだった。


「人間かと思っていたら、正体は吸血鬼か」


 吸血鬼は、翼を羽ばたかせながら追いかけてくる。あの吸血鬼は飛べるようだ。


「フフフ、最初は注意に注意を重ねて倒そうと思っていたけど、余りにも力が感じられない、最初は本当に神なのかどうか疑ったほどだったよ!」


 吸血鬼は速度を上げ、猛スピードで襲い掛かってきた。


「あっっっぶねえええ!!!」


 間一髪のところで思い切り階段から飛び降りる。


 有紀を抱えてる状態で階段から飛び降りたため、足が重量オーバーになり、足の骨にミシリと嫌な音を立てる。


 足の痺れと痛みを堪え、吸血鬼には目もくれずに、とにかく一目散に逃げる。

 

 周りを気にせず逃げる際、消火器を蹴っ飛ばしてした、消火器は蹴っ飛ばされた衝撃で周りに煙のように撒き散らし始め、男の視界を妨害している。


「哀れだね、だけど悪運だけはは強いみたいだ、最初は疑って悪かったよ、合って見て神だとわかった、いくら力無い小僧でも、神は神なんだなって思ったよ!」


「うるさい!なりたくて神になったわけじゃないんだよ!」 


 全力で階段を駆け下りながら、ありったけの声で反論する。


 吸血鬼は獲物を駆る側だとわかっているのか、楽しそうに中神が逃げるのを待っていた。


「フフフ、逃げろにげろー!その方が楽しいからね」


 それを最後に、吸血鬼の声が聞こえなくなった。





 …・…・…・…・…・





「はぁ、はぁ…ふぅ…」


 最初の目的としていた図書室に付き、一先ず腰を下ろし息を整える。


「有紀、体調は大丈夫か?」


「うん、最初よりは楽…だと思う…苦しいのは相変わらず…だけどね~……」


 そういうと有紀はニコリと笑顔を浮かべて「まあ、…元気元気!こんなん…へっちゃらだよ!」といった。


その、心配を掛けないように無理をする有紀の心使いが、俺の中の何かに触れた。


「無理すんなって」


 有紀をゆっくりとソファーに降ろして楽にさせる。


 ---俺は絶対有紀を助けてみせる、神のなんだのの前に、皆を、有紀を巻き込んだのは俺の責任でもある。


 絶対絶命の状況でも、僅かに希望が残っていると信じたい。『開かずの扉』には何があるのかわからないが、噂が、本当にただの噂だったり、誰かの趣味の隠し部屋だったりしたらそいつ見つけ出してぶち殺す!


『開かずの扉』が存在するのかも知らないし、どこに隠されているのかも知らない、なのに壁際の端っこにある本棚の前に立った瞬間、胸騒ぎがした。


「…ここにあるのか…?」


 本をがむしゃらに床に撒き散らすが、本の後ろにあったのはただの壁の表面しか見えない。


「だけど…妙に胸騒ぎがするんだよな…」


 本棚は後ろが抜けていて、ただ後ろの壁が見えているだけ、だからそこには何もない、そのはずなのに何かある気がしてならない。


 本棚ごと退かして見るが、それでも後ろにあったのは白いただの壁。


「やっぱり、なんかこの壁だけ変だ」


 この壁だけ微妙に色が違う、それにヒビが心なしかここだけ多い。


「ん、っつ、とりぁ!」


 胸騒ぎがする壁の目の前に立ち、何度かその壁を思い切り蹴飛ばしてみては近くに置いてあるイスを使い壁を殴ってみる。


 すると、壁はビキリと音を立て一気に崩れ落ちだした。

 目の前に現れたのは一つのドアだった、そのドアは木製でできていて、見た目では結構古いのか所々腐食しているように見える。


「…なんか、思ってたのとは、ちょっと違うな」


 こう…いたるところに装飾が施されて、ごてごてしているものだと思ったんだけどな…


 そう複雑な気持ちを持ちながら、『開かずの扉』の正面に立ち、ドアノブに手を掛ける、深い深呼吸をして、心の準備を整えて開けようと力を込めた。


「あれ?」


 だがピクリともドアノブが動かない。


「どうなってんだ?」


 普通にドアノブに手を掛けて開けようとしたのは、どこにも鍵穴がなく、ロックがされてないと思ったからだ。


 ところがいくら力を入れても動かない。


「おい…これ腐って開かなくなっちゃっただけとかじゃないよな…?鍵のないはずの扉がマンネリのようにガッチリと固めてあるかのように動かないぞこれ…」


 近くにあるイスを持ってくる。


「いや、こんだけボロボロだったら力ずくで壊せば!」


 力の限り『開かずの扉』にイスを叩きつけるが、そのドアは壊れるどころか傷一つ付かなかった。何度も力いっぱいに叩き付け、イスが壊れても、ドアには傷一つ付いていない。


「じょ、冗談だろ?」


 いくらこじ開けようとしても、ドアはピクリとも動かない。


「畜生!」

 

 やるせない気持ちに、手に持ったイスの足を目の前のドアに叩きつける。

 ドアには同じように傷一つ付くことはなくこれでもう八方塞になってしまった。

 僅かな希望を託して来たが、異様に頑丈な扉によって塞がれてしまっている。


 どうするかを考えるよりも先に、廊下の方から声がした。


「ここかな?」


「ッ!!!」


 さっきまで話していた聞き覚えのある声に、心臓の鼓動が一気に跳ね上がる。


 ドアを開けようとどうこうしているうちに、吸血鬼がドアを開けようとガタガタ音を鳴らしている。


 適当な机や本棚などで塞いだ学生の浅知恵のバリケードなど、人間じゃないあいつには時間稼ぎにしかならないのは明白だ。


「っくそ!」


 ただ逃げるしかできない自分に苛立ちを覚えながらも、とにかく逃げなくてはと有紀を抱きかかえようとした


「っぁ!?」


 だが、体を持ち上げようとしただけで有紀は悲鳴にも似た声を上げた。

 その声を聞いて、一気に体が硬直し、腕が上がらなくなる。


「ご、ごめん…だい…じょうぶだから」


 その弱弱しい声を聞いて、また自分に苛立ちを覚えた。

 見る見る有紀が衰弱していく姿を見て、怒りと恐怖に苛まれる。

 

 くそ…くそ…くそ!なんだよこれ…!なんなんだよこれ!!?

 

 様々な感情が荒波となって押し寄せ、目の前が真っ白になる。


『弱いから、窮地の状況に至っているんだろう?』


 すると頭に誰かが話し掛けてくる。


 苛立ちに気が回らなくなり、何も考えずただ話しかけてくる相手に、当たるように話す。


「それが神だっていうのかよ!」


「…ど、どうした…の?」


 有紀には聞こえていないのか、突然一人で怒鳴ったことに、驚いた様子で尋ねるが、その声は届かなかった。


『それが今までの神だ、そして今回も…』


 語りかけてくる声は、諦めたように、ため息をつくかのように吐き捨てていった。

 それが今の俺には感に触った。


「…ふざ…けんな!ッ…」


「かの…っち?」


「ふざけんな!!もしそれが今までの神だったとしても、俺は絶対諦めない!無様に地べたを這いつくばってでも、最後まで足掻いてやる!」


『それが貴方の答えか……』


 その言葉を最後に『開かずの扉』が突如開き、俺と有紀は扉の中に飲み込まれていった。

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