第5章 中神の休日 上
「---ぎいやあああああああああああああああああああ!?!?!」
今日は土曜日、
昨日戦った謎の化け物を退治して、疲れた体を癒す時間…。
「体中がいてえええええええええええええええ!!!」
…のはずたったのだ
朝の7時に時間に目を覚ましてから、力の反動による副作用か全身が引きつるような、筋肉痛に似た症状が表れた。
今日は涼宮とドラ0エをする日だったが、少し動くだけで、体のあちこちが連鎖してつっぱる、
こんな体でできるわけがない。
『悪い、ドラ0エの話ナシになる!遊べねえ!体中がいてえんだよこれが!』っとメール打ち送信、
5分くらいして、チロリロリン♪と愉快なメロディとともに、返信が返ってくる。
返答の内容が『そーか、あれだな、お前あんなとこで寝てたってことは、お前バカだから、ボーっとしてて、石ころでもふんず蹴て転んだんだろ、寝てたって言うより気絶だな。』と返してくる始末。
だから俺はいつもと変わらない親友に笑顔で返信を押す。
『お前はどうして心配という言葉を知らねえんだよ!鬼か!』と返信する。
今度はすぐに返事が返ってきた。
『親友を心配しないで、余計な気を配らないためだ、そうすれば、けが人だろうが落ち込んでいようが、気にしないで話せるってもんだ。』
との返信。
ほうほう、なるほどね、確かにね、
でも俺はわかっている、
なぜなら昔から付き合ってる仲だから、涼宮の本音が透けて視るようにわかってしまう。
『確かに、そう返信されれば、逆転の発想で、通じるかもしれない、でもね、俺は昔からお前と付き合ってきた仲だ、
言い当ててやろうか?
ただ単に心配するのがめんどくせえだけか、俺の性に会わねえってだけの、私欲だろ。』と返す。
まるで返信の内容が予めわかっていたような速さでメールが返ってきた。
『おお!さすがは親友、俺の気持ちがわかるか!十中八九大当たり!見事だ中神、俺の気持ちをここまで理解してくれるやつはお前だけだ、言い当てたことに免じて約束の放棄の件を大目に見てやろうじゃないか。』
やったね、あいつを一泡吹かせてやったぜ、
でもなんでだろう、勝った気がまるでしない、
なんか敗北した気分だ。
『っていうかお前、少しは否定しろや!体だけじゃなく、精神にまで傷付くわ!てめえ一生直らねえ傷負ったからな?、覚えてろやこの野郎。』と、痛みも忘れて高速で携帯に文字を打ちつけ送信。
送って10秒も経たずに返信が返ってくる。
あいつもう、メールの内容呼んでねえだろ!?
『わかった、覚えとくよ、肝に銘じとく、でも、人間ってどんなに大事なことでも忘れることってあるじゃん?忘れたらごめんちょ(笑)』との返事。
内容を見たときの彼の顔を見るものが見たらどう映るだろうか
笑顔で『なるほど、お前の言い分はわかった、だから意地でも忘れるな、人間、本当に大切なことなら普通忘れないから、それでも忘れるようなら、身を持って忘れたことを後悔させてやる。』
と、半場本気で返し、それ以来似たようなやり取りをして、その日は終わった。
体中が痛く、昨日は殆ど寝たきりになっていた、
休日にゆっくりと過ごして起きる時間とは言えない8時という時間に目を覚まし、体と精神を癒す学生の休日は疲労困憊な悪夢な日となって貴重な土曜日を潰した。
・…・…・…・…
「うぅ…貴重な休みが…」
昨日は散々な目にあった…学生生活の貴重な1日が、ただの苦痛と暇と疲労で終わるなんて…
「俺が何したってんだよぅ…」
中神は、決して望んで神になってのではない、成り行きでなってしまったに過ぎない、そして、成り行きで神になった中神は、神の力を操り、悪しき存在を打ち消しただけだ、もしあのまま放置していたら、世界が滅ぶまでは行かなくても、大惨事になっていただろう。
「俺は…良い事をしただけに過ぎない、健全なる良き学生なだけじゃないか!」
そう、愚痴を布団にうつ伏せの状態で、大して高くもない天井に不満をぶつけていた。なぜ中神は布団から起き上がらないで、蹲っているのか。
「うう~…起き上がるのが怖い…」
そう、中神は恐怖していた、昨日のように、目が覚めたと同時に強烈な痛みは襲ってはこなかった、だが、それで安心ができないほど、昨日の過ごした時間がトラウマになるほど悪夢だったからだ。
「ゆっくりと…そーっとだ…腕…よしよし、足…おk、頭、首、手首足首、おっしゃおっしゃ!!」
埒が明かないので、恐れる恐る、ゆっくりと慎重に体中の筋肉が無事か確認してく。
「っふ…5体満足…やった!俺は昨日の苦痛に耐えたぞ!よし、今から涼宮と有紀にメールでもしとくか!遊べなかった昨日の分まで、今日は遊ぶぞ!」
もう大丈夫、
そう思い、勢いよくベッドから飛び降りる
それが間違いだった。
見事な宙を描き跳ねたとき絶望から開放され、希望の光が差した彼の顔は、どんなに輝いていただろうか。
勢いをつけて跳ね上がった体が、勢いよく綺麗に着地する。
---例え腕の骨が折れて、医者に『完治しましたよー』なんて言われても、それまで動かさなかった箇所で、いきなり野球の投手をしたりするだろうか?
もし急に無理な動し方をすれば、脆くなっている筋肉や骨を、また痛めてしまうだろう。
床に着地する、その振動で和らいできていた体にヒビを入れる、
それに続き体中に響き渡る振動は連鎖し、筋肉が鼓動するように彼を蝕んでいく。
「………………え、お、あ?!」
絶望の中、やっと希望を見つけた彼をまた絶望に落とす。
そのときの彼の顔は、この世の物とは言えない、悲痛な顔をしていた。
仮に涼宮が傍にいたとしよう、
いくら彼を日常茶飯事に馬鹿だアホだと罵っていても、この顔を見たとき思わず目を背けていただろう。
「ッ!?!!」
声にならない悲鳴。
ぜ…全身が…これもう痛いの範疇を越えてい…
あ、あれ?痛くない?逆になんか気持ちよくなってきたような?
…うふ、うふふふふふふふふふふふふふ。
痛みのあまり吹っ切れて、壊れ仕掛けの人形のようにカタカタとしばらくの間笑っていた。
---数分後、痛みが引いてきて、段々と落ち着いていく、
痛みがすぐに引いたおかげで廃人にならずに済んだのは不幸中の幸いだろう。
「…ふぅ、酷い目に合った、昨日の印象が強すぎたせいか、簡単なことにも気づかなかったなんて」
さて、動ける分には動けるが…どこまで動かして安全だ?
さっきの痛みのせいか、ビクビクと怯えながらも、残りカスしかない勇気を絞って、動かせる範囲を無理なく調べる。
「一応、普通に動く分には、生活に支障は無さそうだ」
いつもの仕草で体を動かすが、どこも痛みが走ってこないが、試しに軽くジャンプすると微かにだが痛みが走ってくる。
「走ったり、飛び跳ねるのは、無理そうだな」
さっきの不注意によって起こされた悲劇で、嫌と言うほど思い知らされている。
もう一度同じことをしたら、今度こそ廃人になってしまうだろう。
「こんな状態で、またあんな化け物が襲ってきたら、どう対処すればいいんだ?」
もし今俺を襲う者が現れたら、逃げることもできずに俺は人生の終焉を迎えるだろう。
万が一、力が戻り奇跡的に追い払ったとしても、俺に待ち受けるのはさらなる苦痛だけの地獄だ…
「まさか力を使うたびに、反動が跳ね返って襲い掛かるっていうのか?」
そんな高校生活を送るなんて嫌だ…何が神だ、不便なところばかりじゃないか!
「正野ー?起きたの?起きたならさっさと降りてきなさい、昨日から殆どご飯食べて無いでしょう?」
2階から物音がして起きたと思ったのか、下から母親が心配そうに呼んできた。
そういえば昨日から寝たきりだ。
「昨日から寝たきりだったから、殆ど何も食べてないんだよな…」
そう思った途端に、胃が『早く食え!』と急かすようにぐぅ~っと虫の腹がなる。
「…おかしいわね?
2階で物音がしたからてっきり起きたのかと思ったのに、まだ体が痛いのかしら…ちょっと、美枝~?兄ちゃん体調がどうか、見てきてくれる?」
「…うん、わかった、見てくる」
少しベッドに横たわって休憩していると、下からそんなやり取りが聞こえてきた。
まずい、これは非常にまずい事態になった!
俺はベッドに座った状態で腰を掛けている、
部屋を出るにも、ベッドからドアまで5メートルほどか、
いつも広くて不便が無かった部屋だが、このときだけは不憫だ。
「は、はやく!妹が来る前にこの部屋から出なくてはいけない!」
素早くベッドから立ち上がる、そのせいで痛みが走るが今は気にしてはいられない、
痛みを堪え、必死に早歩きで部屋を出ようとする。
「あ、あと少し!」
ドアノブに手が届くまで、あと数センチ
---なのだが、手が触れる前に、ガチャリとドアのロックが外れる音とともにドアが開かれる。
「にーちゃん?起きてるー?ご飯…だ…よ!」
さっきまで浮かない表情をしていた妹はどうだろう、俺を見るなり、パァっと顔を輝かせて元気のいい声を出すじゃないか。
確かに誰でも病気が治った時に、友人や家族に嬉しそうな顔をされると嬉しい、嬉しいのだが…。
「ま、待て、美枝!早まるな!
昨日は夜に「鉄○5」を一緒に相手してやる約束を果たせず申し訳ないと思っている、だから、お願いだから…」
俺の話を最後まで聞かず、嬉しそうに、それはもう思いっきり飛び込んでくる。
「…」
俺は一か八かで凶器と化した妹の突進を思いっきり後ろに跳躍して避ける事に成功する、そのおかげで体が悲鳴を上げるが、突進されるよりはマシだ。
そう思って安心したのも束の間、
避けることを予想していたのか、見事なステップで今にも倒れんばかりの体勢を立て直し、そのまま俺に向かってくるではないか!
「ちょちょちょ!待て待て待てえ!!!お前なんつう業もってやがんだ!」
中神の叫びも空しく、美枝の突進が腹のど真ん中に命中する、くの字で折れ曲がり、そのままベッドまで吹っ飛ぶ。
「ぎいやああああああああああああああああああああああ!!!」
朝とは別格の痛み。
悲鳴は近所中に響き渡った。