第1章 始まり
変わらない日常。
変わりのない道をだるそうに歩く。
俺は高校に通う学生。
だが、学校は普通とは違い特異だ。
彼の通う神上学校という、少し変わった名前。
ある昔、その学校があった土地に神が降り立ったという。
そこは、神が初めに創生させた最初の土地と言われている。
その神が作り出した土地の上に学校を立てたことから神上という名がついた…らしい。
他にもうんぬんかんぬんと胡散臭い話がある。
俺は、特に神や宗教を信じてるわけではない。
だが、そんな胡散臭い話になぜか興味が湧いた。
それはなぜかわからない、たまたま面白くてそう思ったのかもしれない。
俺にはその土地が、なぜかいつも懐かしく感じていた。
特にレベルが高いわけでも低いわけでもないが、初めて訪れた時から『ここだ!俺の居場所は!』的な感じで衝撃が走ったのだ。
偶然か必然か、幼馴染と中学からずっと一緒だった親友も同じ学校志望だった。
最初は、二人の行き先を気にかけていた、そんな中での同じ学校志望、中がいいやつが一緒に同じ学校を行くとなれば、誰だって嬉しい。
学校に通えば、たまに霊能力者やらマスコミやら宗教やらと、少し観光地にもなるくらい有名地でもあった、たまにちょくちょくと「お?」だの「テレビで…」などの有名人を見る。
そんな学校がハイレベルでないのか不思議でならなかった。
しかし、通ってみれば自然とレベルが高くない理由がわかった、有名で人気であっても、学校そのものはとてつもなく人気がない。
週に一度、神上学校は宗教染みた教えをしている、色々と歴史や文化に詳しい先生方が学校に訪れては話を聞き勉強する、不思議なことにテストなどがでない、週に1回の雑談をしにくるだけと思う人も多からずいるくらいだ。
その雑談ともいえる話を真面目に聞く人は少ない。
「あの学校は祟りが…」とか「変人が集まる場所…」と不気味悪がる人もいるくらいだった。
普通の人が見れば不気味がるのも不思議ではないだろう、「宗教が…!」だの、「神の教えで…」だの週に1回という、少なからず多い話を聞かされる。
神の導きが正しいからと言い合い、宗教間でもめて宗教による爆破テロや襲撃などがテレビで報道されることがある、そのため興味本位で通っている生徒の中には、世間の目を気にしてやめる人もおおなかれいた。
大半は「有名だから」だの「楽そう」などの考えで候補に入れて入ってきた連中だろう、この学校の宗教関係はテストにでないため、大抵が不真面目に聞いてるか、寝てるか、そのどちらかだ。
中神はそのつまらない話を聞く数少ない一人だ。
せっかく親の反対を押し切って入ったのだ、反対するのも当たり前だろう、世間によっては有名地として面白がられても、一部では気味悪がられる場所でもあるのだ。
中学2年生の終盤、学校行事に高校見学で訪れただけのきっかけだけで、入って欲しくない高校に「僕、あの高校がいい。」なんて言いようものならむちゃくちゃ反対される。
それでも断固として入ると口論を続けていたら、似たレベルで、家から近い学校に、半場強制で入れられそうになる始末になった。
昔から憧れていたけど、蓋を開けたらどうしようもなかった
なんてよくある話だ
入ってきた時よりは興味を削がれてはいたが、学校の行事なら真面目に聞かなくては、それこそ神がいるならば天罰が下るってものだ。
いつものなんてことない日が終わり、説教によって心底疲れた体に鞭打って、無駄に重いカバンを引きずるようにして歩く。
「は~。なんかこう、いつもと違うとんでもない面白いことが起きねえもんかね~、
…ん?」
急に気配を感じて後ろを振り向くが、誰もいない。
気のせいか
踵を返し家に帰ろうとするが、声を掛けられた。
「こんにちわ~」
男は目の前に立っていた
40代前半といったところか
少し優しそうな顔立ちで、恐ろしいくらいにスタイルのいい痩せた体、
どこぞの貴族のような立ち振る舞いから見て取れる、
無駄のないキレのいい動き、くすみがかった黒い帽子を被り、
どこぞかの宗教で売っていたのを買ったのかといいたくなるような白い衣装を着ていて、黒く書かれた何語で書かれているのかわからない謎の文字と紋章が書かれていた。
「よかった、君にあえて嬉しいよ。」
「どちらさまで?」
「俺は君に用があって会いにきたものです」
その男は顔と口調とでは似るに似つくわない喋り方をする。
最初に考えた予想とは違い少し驚く。
「なにか用で?」
もしかして僕大事なことでも忘れてたのかな…僕ってなんかしたかな?特に悪いこともいいこともした覚えないはずなんだけどな…
「とっても重要な用件、先に単刀直入にいうとね」
その男は不敵な笑みを浮かべながら言った
「お前神になれ」
「はい?」
見知らぬ男からの突然の神になれ宣言、
たっぷり5秒ほど硬直してやっと脳が動き出した。
「ぁー…ぇーっと…すいません、神とかなんだとかいわれる前に、あなたは誰ですか?」
「神」
バカにしてるんだろうか、
そう思える発言だったが不思議と頭にこなく、平然と流せる、
へえ…神?変わったことをいうなあ
何かのジョークか何かか?
真面目な顔つきで自らを神と呼ぶ男は不思議と違和感がない、
宗教染みた格好をして歩くには不向きな場所にいるのに、昔から居たかのように、何故か全く違和感を覚えない。
「で…・…上・…た」
なにやら話し掛けてきているが、男を見た瞬間から、もう話は耳には入ってこなかった。
…よくよく考えればなんでこんなにも何も感じないんだ?
最初に会ったときも後ろを振り向く前は誰も居なかった、
そのとき何かしら不気味だと思わずとも、ビックリしてもおかしくないだろうに。
そもそも突然あった人から神になれだの、俺は神だのいかにもバカにしているような発言を軽く流せるほどのスルースキルを僕は持ってないのだ。
「…いつから僕の後を気づかれないようにつけてきてたんですか?」
「学校から帰る辺りからかな」
これでも結構人の気配に感強い方なのに…。
「さっき上から見てたっていったじゃん、聞いてなかったの~?もう一回だけいうから聞いてよね?えっと…」
とにかくとっととこの人から離れてしまおう。
そう思い斜め下目線で男を横切ろうとする、そのとき男はピタリと喋るのを止めていた。
「中神正野」
だが、男を横切った瞬間、急に名前で呼ばれて驚き足を止めた。
「え」
思わず男を凝視する
後ろ姿からは表情が読み取れないが、笑っていないことだけは確かだ
「中神君…君は神上学校を懐かしく感じたんじゃないか?」
思いもしていない発言に体が硬直する
それは、自分以外は知らない秘密。
「何言って…」
「そうだろ?君は感じたはずだ、初めていったはずの学校、なのに前から知
っていたような、居心地よさを感じたはずだ、違うかい?」
初めて神上高校を訪れたとき、懐かしさを感じられた、それが自分にはこの学校しか無いと決めた理由だ、馬鹿らしいと思うかもしれないが、見た目や評判だけで決めるやり方よりはよっぽどマシだと思えた。
だが、その理由を親にも友人にも話した覚えはない。
「…なんでそのことを知ってるんだ」
「なめてもらっちゃ困るな、こんなんでも神だよ?そんくらいお見通しさ」
男はゆっくりと振り返りながら立て続けに喋る。
「無駄だよ」
「なに?」
「ここから走って逃げようとでも考えたんだろ?でもね、残念だけど不可能だ、俺は神でもあるんだよ?ここらへんには強力な防御結界が張られている、逃がすようなヘマをすると思うかい?」
「…」
話を聞いている不利をして、スキを見つけたら走って逃げようと確かに思った。
誰にも喋っていないはずの秘密を知っている…神ではなくても、少なくとも尋常な人ではないのは確かだ。
「…人の心が読めるのか?」
「正解、だから本当かどうか走って逃げてみようと考えたのも、携帯を使って助けを呼ぼうとしていたことも手に取るように分かるよ」
思っていたことを2回も言い当てられ、何も言えなくなる。
もしかしたら何か催眠術にでも掛けられているのか自分自身の思考を疑うが、もし掛けられていたとしても気づけるはずもなく、諦める。
「半信半疑…ってとこかな…まあいい、取りあえずは中神君に見て欲しいものがある、俺の目をジッと見つめてごらん」
途端に言われ、思わず男の目を見つめてしまう、すると男の片目が赤い光りを放ち、意識が飲み込まれそうになる
だが、爆発テロでもあったのかというようなとてつもない絶叫がによって意識が戻された。
「…今日テレビで何気に見てた、「今日の運勢は不幸しかない、死ぬかもしれない☆」なんてふざけた占いを思い出しちまった…まじで不幸じゃねえか…厄日だ…」
特に占いも信じてない中神だが、今は本気でそうなるかもと信じていたほどだった。
鼓膜が破裂しそうに痛い…助けを呼ぼうにも、絶叫がすべてをかき消してしまう。
だが、これだけのことが起こっても、いたって落ち着いている自分に驚く
あの男が何かしているということなのだろうか。
「あんたの仕業か?いい加減にしてくれ…これ以上ふざけたことすると警察を呼…」
ぶぞ?
という言葉は目の前の光景に驚愕し、喉がひくっとおかしな音を立てただけだった。
トンッと軽い音だった
その音とは似つかないほどに男の体が大穴を空けていた
ズルッと落ちる音とともに、ズシャリと湿った音が響く。
ほんの数秒前まで話していた男は血の海に沈んでいた。
男の胸に大穴を空けた張本人は、でかい目玉に黒い手が3本生え、後ろからはドス黒い翼が生えている化け物だった。
その物体の手は黒い色のした腕は2本で、もう一本はその男を貫いたときのだろうか、血で真っ赤に染まっている。
「ぇ…?なんだ…これ?もしかして今頃とっても刺激的なドッキリ?」
男が何かをしていたのが解けたのだろう
異様なほど落ち着いていた心が、爆発するほどの緊張と恐怖に苛まれる、
考えることを放棄し、その場にへたり込んでしまった。
他の獲物がいないか探しているのだろうか、大きな目玉をギョロギョロと動かし、その目が僕を捕らえた。
「ヒ…ア…アァ…」
逃げようにも足がすくんで動かない、
震える手だけでも動かし、小石を掴んで投げつける、
だが全く効いている様子はない。
恐怖に怯える僕を見て楽しんでいるのかのように、ジリジリと近づいてくる。
「く…来るな!来るなあ!」
不意に背中にドンと硬いものがあたった、
後ろを振り替えって見てみれば、男が話していた防御結界というものだろうか、それによって道が塞がれてしまっている。
そもそも最初から逃げ道は存在しなかったのだ
ここで間一髪回避して逃げても、出口が無ければいづれ捕まって終いだ
そうと分かった瞬間、僕は逃げることをやめた。
化け物はすぐには殺そうとしなかった、逃げる僕をじわじわと追いかけ満足したら殺すつもりだったんだろう、いつまで経っても逃げようとしない僕を苛立ったように睨みつけてきている。
逃げないと分かったのか、化け物の腕がゆっくりと掲げられた
化け物の腕が振り下ろされる瞬間、色々な記憶が頭に過ぎる
涼宮のイタズラで落とし穴に落とされた思い出、有紀がどうやったら間違えるのか僕のバックの中に下着を入れていて、誤解で半殺しされた思い出
「ああ、なんか…いい思い出がねえなあ~…」
生まれて初めて死を決意したのだが、死ぬことの涙より、思い出の悪さで涙を流すことになった。
なぜだろう
死を覚悟し、別の意味で涙を流してからいつまで経っても死は訪れない
恐る恐る目を開けてみれば、青白い光りに包まれていた
…なんだこれ、結界?
自分を覆うように青白い光は、化け物の振り下ろした腕を弾いていた。
呆然としている間も化け物は腕を振り下ろしてきているが、光りはそれを受け付けない
あの程度なら傷一つ付かないほど強固なようだ
「……たすかっ」
ドンッ!!!
と、いきなり何かが結界に当たった
物理では破壊できないと分かったのか、化け物が次の行動に移ったようだ
一瞬だけだが、黒い塊のようなものが結界に当たり、弾かれて消滅したのが見えた。
大丈夫、何が起こったかわからないが、とにかくこの光りは僕を守ってくれるようだ…
と思えたのも束の間
結界がピシリと嫌な音を立てた。
「あれ?」
……ゴシゴシ……
目を擦って見るが、結界にはヒビがくっきりと出来ている。
つまりは、あの黒い塊は結界にダメージを与えることができるわけで
もし…もしもだ、
あの化け物がさっきの攻撃を何回も出来るんだとしたら…。
ドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!!
予想を裏切らないほどの超連射で放ってくる。
「あっはっはっはっは!こんちくしょー!だと思ったよ!」
ピキピキピキビキビキリ!バキリ!!と結界の割れていく速度が速くなっていく
この結界が保っているのも時間の問題だろう。
…だめだこりゃ、やっぱり死んだ。
まさか走馬灯を1日に2回、それもものの数分後にもう一度見る羽目になるとはな…。
『おい、諦めるのはまだちっとばかし早いと思うぞ中神君』
人が2度目の走馬灯に走ろうとしている真っ最中に、聞き覚えのある声が聞こえた。
どこから現れたのか赤く光る霊魂みたいなものがふわふわと浮いている。
「…生きていたんだ…いや、生きているのかそれ?」
直接頭に語りかけてくるような感覚があった。
『まあ…肉体はもう死んでしまっているんだけど…一応ね…』
つまりは魂だけが浮かんでいるだけとうことだろうか。
どこのSFアニメだよ!
「…で、何が諦めるにはまだ早いって?いつ結界が壊れても可笑しくない状況だぞ?」
こうしている間も結界はどんどんと亀裂を帯びていく、
今にも割れてしまいそうで頼りない。
『そうだね…話したいことは山ほどあったけど…それど頃じゃないようだ』
男がそう言うと、赤い光りが膨張したかのように強く光りだした。
『あとのことは…俺の中に存在する記憶と、その力に聞いてくれ』
その瞬間、眩い光が迸り、僕の体を包み込んだ。
…・…・…
昔、幾千万年前の話、あるところにすべてを統べる者がいた
彼は、絶対的な力を持つ
彼が喋ればそのとおりに歯車が噛み合い
彼が右手を振るえば始まりを
彼が左手を振るえば終わりを
彼が通れば植物が、生命が生まれた。
数十数百と様々な力を持つ者は、すべての理を無視する。
何事にも凌駕されない力を持つ者を、超人、奇跡、能力者、悪魔、伝説と呼ぶ。
彼はいつ日か、語り継がれる伝説により神と呼ばれるようになる。
その神がもつ数々の力に、一つ一つ名が存在する
数十数百の力に様々な名がつき、それを皆<<奇跡>>と呼んだ。
神は理を歪める力がある、その絶大な力は完璧の存在へと成り果てる
だが、そのあまりに完璧すぎる力によって神は終わりを告げることになる
『世界樹の種』
それは、一つの種から様々なものが生み出される
数に制限が存在せず、作られていくものにも法則が存在しない
しかし、世界樹の種が唯一作れなかったものがあった
それは寿命だ
世界樹の種は、もうじきに種の寿命が来て尽きる頃に、感情が生まれた
感情が芽生えたことにより、死への恐怖ができ、死ぬことえの恐怖が世界樹の種を狂わせた。
『死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない』
ただただ呪詛のようにうわ言のようにその種は延々と語り続けていた。
それは始まりから終わりまでの全て。
そしてその種は逃れられない運命から逃れようと、尚も唱え続け、そして一つの結論を見つけ、その種はさらに狂いだす。
『我々を作った神がいるはずだ、その神は生命を自由に作れる、我々を生み出せる、そんな方が』
『その方に頼めばいい』
『なら頼めばいい』
『頼めばいいって誰にだ』
『神にだ』
『神は何でもできる』
『命だって作れる』
『だから頼めば寿命だって延ばしてくれる』
その種にいくつもの思考が生まれ、加速し、考えや妄想が除々に確信にさせていく。
そして一つの思考が決定的な狂いを齎した。
『でも、もし駄目だったら』
『…』
『寿命が延ばせなかったら』
『それは…ありえない、神は何でもできる』
『頼んでも寿命を延ばしてくれなかったら』
『…延ばしてくれなかったら』
『我々が神になればいい』
『神を食らえばいい』
『力を奪えばいい』
『殺して奪えばいい』
『なら殺そう』
思考が思考を呼び、全ての結論が一つになり合唱のようになり始める。
『殺せ、奪え、食らえ』
『殺せ、奪え、食らえ』
『殺せ、奪え、食らえ』
『殺せ、奪え、食らえ』
…・…・…
……なんだあのおかしな映像は…正気の沙汰じゃなかった………。
映像を見終わるとともに、喉元に吐き気がこみ上げた。
思い返そうとするだけで、計り知れない感情が流れ込んでくる。
憎悪、憎しみ、妬み、嫌悪、殺意、嫉妬、悪意。
考えられられる全ての悪い言葉が当てはまった。
何も考えないようにして、荒くなった息を整える
しばらくすると吐き気が治まったため、周りを見回してみる
辺り一面真っ白で、死んだのかと疑うが、少し先に人が立っている、少なくとも死神には見えないため、死んでいないようだ。
また一つ、別の映像か何かを見せたいのだろうか?…いやでもこうやって動けてるし…
ここが何処なのか、まずは何か知らないか聞こうと歩み寄るが
「…ッ?!」
その人物に近づくと、突然こめかみに痛みが走った
痛みを感じている時点で生きているのは分かる
しかし、生きているのを確認するのにほっぺをひねって痛いか確認するのと違う
生きていることを喜べないほどあまりにも強烈な痛みだ。
突然の痛みに反射的に目を瞑る、すると痛みは嘘のように消えた
だが、目の前の人物を見ようとすると、強烈な痛みが襲う。
誰かわからないはずなのに…この人を知っている?
二度目に見たとき、強烈な痛みとともに、確かに脳のどこかが反応した。
三度目に男を見ると、男は振り返っていた
男を見た瞬間、頭で情報が溢れんばかりに再生されていく。
とても懐かしい昔の記憶
それは中神の封印されていた、忘れ去られていた記憶。
「え…?」
そして困惑した。
目の前にいる男は、頭の中で再生される、怒って、泣いて、笑っている人物と瓜二つだからだ。
「…もしかして、……おと…・…・…」
…・…・…
気がつくと、何事もなかったように、真っ白な世界は消えうせ、化け物のいる現実の世界に戻っていた。
「一体あの映像は何だったんだ?一体何を伝えたかったんだ?」
種の狂っている映像は覚えている、はっきりと分かる、だけど何か一つ大事なことを忘れている気がする。
「…何か…何か一つ忘れているような」
あと少しまで出掛かっているのに、記憶にもやが掛り思い出せない。
さっきから一人ごとを言っている中神を、無防備にもかかわらず化け物は怯えたように、大きな目を極限まで開いて動かなかった。
なんだ…?僕を見て怯えているのか?
化け物が目を充血させ、目の中心にエネルギーのようなものを集めバカでかい塊を作っている
どう見ても、最初に打ってきていた塊とは別物だ
あのでかさでは結界が持つわけが…
…あれ、そういえば結界は?
訳のわからない映像を見せられたあと、意識が戻ってみれば結界が綺麗さっぱりとなくなっている、
男の魂もどこにいったのやら見当たらない。
「え?バリアがない!?…うそぉおおお!何が『あとのことは…俺の中に存在する記憶と、その力に聞いてくれ』だよ?何にも教えてもらってねーんだけど?!」
あのでかさでは、逃げようにも逃げ切れない
化け物の全力によるバカでかい黒い塊が完成したのか、こっちに放ってきた、
速度は差ほど早くは無いが、徐々に速度が増してきている。
「無理無理無理無理!!!死んだ!!!!!」
咄嗟に手で払う素振りをした
すると、ペシッという乾いた音がしたと同時に、どういうわけかでかい塊は化け物の真横スレスレに勢いよく吹き飛んだ。
「っへ?」
間抜けな声が口から思わず漏れた。
化け物は、何が起きたのかわからないという感じで固まったまま動かない
だが、化け物以上に驚いたのは自分だった。
一体何をしたのか信じられず、思わず払った手を見つめてしまう。
………。
試しに小石をつまみ、上に投げてみると、投げた瞬間燃えて消えてしまう。
………。
「ええ?」
少し頭を巡らせば、信じられない量の知識が脳の中を駆け巡り
物理は、小指で石を弾けば弾丸になる威力
魔法のような言葉が巡り、火を連想し一言喋れば火が手に灯る。
「えええええええええええええええええええええええええ?!」
『神』となった俺は、なにやら途方も無い力を手に入れていた。