ミノリ ―行動―
晩御飯を食べ終えたミノリは自室に戻ったが、机の上にあった課題には手をつけていない。
「……どうしようかなぁ」
その手には、シャープペンシルの替わりだというように、透明な袋でプレゼント用に包装されたパンダのストラップがあった。
顔を背け、壁掛けカレンダーを見遣る。今日の日付には赤い丸印がある。今日はハルカの誕生日なのだ。
女の子同士は各々の誕生日を祝うが、男同士は変に思われて仕方がない。同じ『祝う』なのに不公平だ。そんなこともあって、プレゼントは渡せずじまいだった。だが自分が渡さなくても、彼ならたくさんの女子にたくさんのプレゼントを貰っているだろう。
「でもなぁ……せっかく買ったんだし……」
――安価だけど、と小さく放ち、ストラップを机に置いた。どれくらい安いのかというと、千円札を出したらお釣りがある安さである。
長くつき合っていても、ハルカがなにをほしいのかが解らない。ない頭でいくら考えても、携帯につけられるストラップしか思いつかなかったのだ。
ハルカは誕生日になると暗い顔をしていた。今日もそうだ。笑ってはいるが、それは表面上にしかすぎない。その張りついた笑顔は、ぎこちなく見える。そして、誕生日がすぎると、いつもの明るいハルカに戻るのだった。
――誕生日に心から笑っているハルカを、一度も見たことがない。これまでも、たぶんこれからもそうだろうと解る。その理由は解らないけれど。
「……ハルカ、に、」
笑ってほしいな。
「よし……っ」
ポツリと呟いた言葉で、ミノリはハルカに会うことを決めた。なぜなら、笑ってほしいからである。その綺麗な顔で、いつものように。
片手にストラップを握りしめ、部屋を後にした。