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プロローグ

「きゃっ」

市を行き交う人々が溢れた昼下がり。

葵色の簡素な服の少女は、人より鈍いその運動神経のおかげで、人混みの中をうまく抜けられずにいた。

それどころか、今なんか通行人の一人に思いきり体当たりを食らわせてしまった。

「す、すみませ…」

慌てて謝ろうとして少女は言葉を失った。

振り向いたその人は、もうなんというか、とんでもなくかっこよかったのである。

瞳はサファイヤのようだし、日の光を浴びて輝く髪は銀狼を思わせた。

細身でありながらがっしりとした体躯、それに背負った大剣はとてもよく似合っていて、彼をより魅力的に見せた。

「あ、あの、す、すみません、でした…」

少女はあまりにかっこ良すぎる彼を前に、大分しどろもどろになりながらなんとかそう言った。

すると彼は見ている者がとろけてしまいそうな程の顔で微笑んだ。

少女の心臓が早鐘のように脈打つ。

やがて形のいい唇が薄く開き、彼は……

「別にいいのよぉ、こんな状態なんですもの、進むのも一苦労だわ」

かれは、そう言った。

少女の思考は完全に活動を制止した。

目の前のウルトラ級にかっこいい青年が、惚れ惚れしてしまうような声の青年が、まさかお姉言葉を使ったとは考えたくなかったからか。

「ランドウェル!」

遠くの方で、鈴を転がしたような女の声がした。

「あらやだ!急がなくちゃ。ごめんなさいね」

そして彼は見とれる程華麗な動きで人混みをすり抜けていった。

あとに残された少女は、自分の2倍はあるだろう男がゆうゆうと通れるほど人が引いた後も、その場に立ち尽くしていたのだった。