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無味有臭

────────────────────────

【閲覧注意】


この作品には、

精神的依存関係および

心理的支配を扱った描写が含まれます。

不健全な人間関係を題材としており、

読者によっては不快感を覚える可能性があります。


苦手な方はブラウザバックを推奨します。


また、本作品は不健全な依存関係を、

肯定的に描写しています。


心理的虐待、依存、

操作的行動などの要素を含みます。

これらの描写に嫌悪感を抱く方の閲覧は推奨しません。


────────────────────────


「瑠璃、今日も会える?」


スマホの画面に届いたメッセージを見て、

私は軽く息を吐いた。


「いいよ」


午後の講義が終わったばかりで、

カフェに向かう足取りは少し重い。


悠真は去年の春、

転属してから思うように仕事が回せず、

どこか心が疲れていた。


――それが少しずつ、私への依存となり現れ始めた。


カフェに着くと、彼はいつものように隣に座る。


「今日もきつかった」


顔には倦怠感。目の下にうっすらと影ができていた。

普通なら向かい側に座るのに、彼は必ず隣を選ぶ。


「お疲れさま」


私がそう言うと、

悠真は小さく笑い、私の手をそっと握った。


「瑠璃がいてくれると、少し落ち着く」


手のひらから伝わる体温。最初は少し奇妙に思えた。

でも、慣れるとそれは日常の一部になっていった。


「今日も先輩に詰められて」


彼は私の手を握ったまま、

仕事の愚痴をぽつりぽつりと話す。


中途半端に責任だけが増え、経験が追いつかない。

そんな焦りが言葉の端々に滲む。


「大変だね」


私は相槌を打ちながら、横顔を観察する。


二十五歳の男が、二十一歳の大学生に甘える。


滑稽で、少し面白い――


「瑠璃、もし瑠璃がいなかったら俺…」


ふと漏らすその言葉に、

私は心の片隅で小さな興味を覚える。


私は、彼がどこまで私を必要としているのかを

確かめたくなった――


――


ある日の夜、いつものように悠真は私の家に来た。


「職場で……今日もいろいろあって」

俯く姿に、疲労と焦りが混じる。


「まあ、入って」


私はリビングに招き入れる。

ソファの前に座ったまま、悠真は黙っている。

膝に手を置き、呼吸が少し荒い。


「ねえ、悠真」

私はソファに腰を下ろす。


「瑠璃…」


彼が私の手を取ろうとした瞬間、

私は少し距離を置いた。


「今日はちょっと疲れてるかな。」

彼の顔が曇る。


「てか、普通じゃないよね……」


「え?」


「二十五歳の社会人が?

大学生の私に毎日会いに来て……

手を握って、肩に寄りかかって……」


俯いたまま、声が小さくなる彼。


「瑠璃……」


私は微笑む。声のトーンは優しく、慈しみ深い。

でも、言葉はそうしなかった。


心の奥では、頼り切った顔をひそかに楽しんでいる。


膝を組み、水を飲む。

喉を通る音が部屋の空気を一段沈ませる。


呼吸と心拍、言葉の震え、肌の熱。

偏った愛の重さが悠真の体から私に染み込む。


――時計の進む音だけが部屋に響く。


彼の瞳孔は小さく、

まるで左右から押されるように世界が狭くなる。


呼吸が荒く、微かに震えが出る。

必死さが、圧迫として私の肌も震える。


「ね、悠真……私が必要なんでしょ?」


悠真は、ゆっくりと頷く。

その動作だけが救いのように見える。


周囲の圧力に押され、絶望に痩せ細る彼。

私の手を取らずとも、その頷きだけで、

依存の重さを全て私に委ねている。


私は悠真の暗くなった目を覗き込んで言う――


「ねえ、答えて?」


悠真の背中を撫でるかのような声で言い放つと、

悠真は懇願するように必要だと繰り返した。


――


その夜、悠真は遅くまで私の家に居た。


私が静かに手を握ると、

彼は安心したように小さく息を吐く。


肩に頭を寄せる。

触れることで、依存がより明確に現れる。


「瑠璃……」


呼吸と体温、心拍の乱れから、

私への依存が痛いほど伝わる。


「いなくなったら……」


悠真の言葉が詰まる。


「……困る。」


俯いたまま、震える声で私の存在を求めている。


沈む空気の重さだけが、私を昂ぶらせる。


膝を組んで座る私の爪先は、

悠真の偏った愛の重さと絶望を全て感じ取る。


「ね? 私が必要なんでしょ?」


再び問いかけると、彼は僅かに頭を上げ、頷く。



その後も毎日のように私の家に来る。

手を握り、肩に寄りかかろうとする。


でも、私はもう初めて感じた高揚を持たない。

すべて予想通りの反応――


彼が必死でも、私は淡々と受け止めるだけ。

心の高ぶりは、もうどこにもない。


――悠真からはもう“味”がしなかった。


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