お揃いのネイル
朝起きるとSNSに通知。
この間繋がったフォロワーからのリプライ。
『おー、可愛い!このネイル好きです!』
出会い目的だろうな、
そう思ってホームに戻るとDMが一件。
送り主は"甘めのカラメル"。
『ネイル素敵です!どこで施術しました?』
普段なら無視する内容だったけど、
リプまでしてきたし、と少し迷ってから返信する。
『DMありがとうございます。
渋谷のネイルサロンですよっ』
『渋谷!俺も都内です』
――そこから、やり取りが始まった。
それからというもの、私の投稿には必ず
カラメルからリプライがつくようになった。
『え、可愛い。暖かそうっ。
袖口から見えるネイルが可愛くていい!』
……分かってんじゃん、カラメル。
ちゃんと見てくれていて、少し温かい気持ちになる。
気づけば心の中に、カラメルの居場所ができていた。
通知が来るのを、待つようになっていた。
DMでのやり取りも、当たり前かのように続いた。
『眠い猫さんとデートしたら、
こんな格好だと嬉しいなって』
――ある日、カラメルからDMが来た。
『次のネイル、
実物で見せてもらえませんか?写真越しじゃなくて』
胸が、跳ねた。
『いいよ!』
『じゃあもし良かったら、
俺の好きなデザインにしてくれませんか?』
一瞬考えて返事を打つ。
『いいよ、どんなの?』
『ネイビーとゴールドのミラーネイルで』
ネイルのこと…知ってんだ。
僅かな違和感はあったものの、
サロンの予約を入れる。
デートってことかな…
――心が少し踊った。
――
待ち合わせ場所は渋谷のハチ公前。
私はいつもより少しだけ、丁寧にメイクをした。
約束通りネイビーとゴールドのミラーネイル。
改札を出て、スクランブル交差点の方へ歩く。
人混みの中、ハチ公の前に立っている人影が見えた。
華奢な体つきに大きいシルエットのパーカー。
黒髪のショートボブの…“女の子”がそこにはいた。
まるで光が止まったかのような、
頭の中に白い空間が広がる――
呼吸が浅くなり、音から遠ざかっていく。
私はその場から一瞬動くことができなかった。
相手が顔を上げこちらを見る――。
「……眠い猫さん?」
その声は、渋谷に着くまでに想像してた声とは違って、
耳の奥を撫でるような高い声だった。
「え…カラメル……?」
少しの沈黙が、何倍にも感じた。
それから、彼女はニコッと笑って、手を差し出した。
ネイビーとゴールドのミラーネイル――
私と、同じデザイン。
「……女だけど、それでも会いたかった。」
言葉は軽いのに、
逃げ道みたいな間があった。
「女じゃ、やっぱりダメかな――」
私は、答えを探すように、彼女の指先を見た。
お揃いのネイルが、午後の光を反射していた。
「――ね、ネイルもっと見せてよ。」
そう言って私は、カラメルの手を取った。
指先は目の前にある、
ネイルが光を反射してゴールドのラインが煌めく。
体の距離だけが、少し遠かった――
「デザイン、似てるけど……違って。
でも、カラメルのもいいね。可愛い」
私は、カラメルに笑って見せた――




